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第7章 南部編

異なる世界 12

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「アリマ、君には心から感謝している」

「いえ……イリサヴィア様も持っておられるでしょ」

「私の携帯している物など僅かにすぎない。食糧はメルビンたちが準備してくれていたからな」

「そうでしたか」

「私ひとりなら、既に飢えと渇きに苦しんでいただろう」

「……」

「これで君には二度助けられたことになる」

 ともに成り行きだけれども……。
 まあ、そうなるか。

「この借りは忘れない。必ず返す。約束しよう」

「私もイリサヴィア様には助けてもらいましたので」

「それは……王都でのことか?」

「はい。屋台の親子をあの貴族から守り、無事におさめてくれました」

「彼らを助けたのは君だが?」

「……」

 確かに、王都の広場で彼らを助けたのは俺だ。
 ただ、事後の処理などは何もしていない。
 その後は彼女の力があってこそ。

「私は現場で蛮行を防いだだけです。その後のことは全て、イリサヴィア様のおかげです」

 カデルの民ということで差別を受けていたルネアス、ノリス、ファミノ親子を子爵家の次男コルドゥラから守ってくれたのは剣姫イリサヴィアだ。
 彼女がいなければ、後々厄介なことになっていたはず。

「……あれは君のためではない。私が自ら望んだこと」

「それでもですよ。私は感謝しております」

「……」

 どんな理由があれ、結果に変わりはない。
 俺が抱く感謝の念が消えることもない。

「私は……」

「……」

「私は君の仲間を襲ったのだぞ」 エビルズピークで。
 あの坂道で。
 ヴァーンたちを襲撃したのは剣姫イリサヴィア。
 間違いない。
 厳然たる事実だ。

「……」

 その事実。
 俺にとっては許容しがたいものがある。

 とはいえ、彼女も依頼を受けてのこと。
 冒険者としての責務を果たしただけ。
 好んで戦ったわけじゃない。

「冒険者としての仕事だったのでしょ?」

 違法でない限り、受けた仕事は全うする。
 冒険者とはそういうもの。
 俺も冒険者。それくらいは学んでいる。

「……うむ」

「それなら、あなたを責めるのは筋違いだ。責めるべきは依頼者ですよ」

 それに、彼女は誰の命も奪っていない。
 乱戦の中、意識を奪うにとどめてくれた。

 もちろん、卓越した腕を持っている剣姫だからこそできる業なのだが。

「冒険者稼業とはそういうものだと思います」

「……」

「誤解が解けた今は、私にわだかまりなどありません」

 これは嘘だ。
 正直言うと、しこりはまだ残っている。
 ただし、それは感情的なもの。
 問題はない。
 俺の気持ちに過ぎないのだから。

「アリマ……」

 そもそものこと。
 私的な感情など、今はどうでもいい。

 現時点で優先すべきは、ただ1つ。
 怪物の創り出した異界からの脱出だけ。
 何よりもそれが大事なんだ。

 どうすれば、あいつを倒せるのか?
 倒さずにここを出る方策はあるのか?
 考え、挑戦するのみ。

 必ず脱出してやる!

 けれど。
 もし長引くようなら。
 魔落での探索のように長期にわたるなら。

 異世界間移動も考えなくちゃいけない。


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