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第7章 南部編
異なる世界 6
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<セレスティーヌ視点(姿は和見幸奈)>
「ここが私の部屋」
病室から和見家の自宅に戻った私。
さっそく自分の部屋に入ったのだけれど。
「……」
病室で過ごした日々で、こちらの世界にもかなり馴染めたはず。
幸奈さんの知識もある。
もちろん、この部屋についての知識も。
なのに、実際に目にすると……。
美しく落ち着いた色合いの壁と天井。
眩しいくらいに明るい照明。
しっかりとした造りで機能的な調度品。
いまだ慣れることのない電化製品。
「……」
あの病室だけではなかったのだと。
今さらながら、この世界の技術に畏敬の念が込み上げてくる。
「でも……」
いつまでも驚いてはいられない。
畏敬の念だけでは駄目。
この部屋に慣れて、この世界にもっと慣れて、この世界の住人として振る舞えるようになって。
そして、和見の家と向き合う!
「私は和見幸奈」
幸奈さんとして暮らしていく。
和見家で過ごすのだ。
その幸奈さんは……。
セレスとして頑張ってくれていると思う。
とても厳しい状況だから、きっと大変な苦労をしていると思う。
彼女に比べたら、私なんて。
衣食住の心配のない、命の危険もない生活に不満など漏らせない。
ただ……。
和見の父親と異能者である黒衣の女性、壬生さん。
この2人に対して、私がどう動くべきか?
それだけが問題。
大きな問題。
「はぁぁ」
悩ましい。
本当に。
でも……。
この和見家の中で、幸奈さんが父に抗ってもいいの?
正面から反抗しても?
幸奈さんの考えを無視して、異なる行動を取ることは?
私は幸奈さんの代理でしかないのに?
そんな思いはあるけれど、でも、やっぱり。
このままでは駄目。
今までの幸奈さんの行動通りに振る舞うと……。
良い想像なんてできないから。
「……」
和見家の地下室で、あの気持ちの悪い浴槽に入る。
壬生さんからの異能を受ける。
ただ、ただ、苦痛だけを感じる時間。
心が死んでいく時間。
そんなこと。
受け入れられるわけがない!
でも……。
どうすればいい?
どうやって抗えば?
病室で何度も何度も考えてきた。
それなのに、今でも結論が出ていない。
いえ……違う。
心は決まっているわ。
どんな形にしろ、拒絶することだけは決めているから。
私と入れ替わる前の幸奈さんも、あの地下室を嫌悪していた。
だから、拒絶するという行為自体は幸奈さんの思いと一定している。
幸奈さんの体も拒否反応は起こさないはず。
「……」
私の体は私のものであって、私のものじゃない。
この体では、幸奈さんの強い思いに反する行動は取れない。
以前、コーキさんや武志君に少し話そうとした時。
彼女の置かれている状況や悲惨な過去のほんの一端だけを口にしようとした時。
まったく口が動かなかった。
話すどころじゃなかった。
今もそう。
幸奈さんが本当に嫌だと思っていることは行動に移せない。
それだけでなく、幸奈さんの感情の影響を感じることも多い。
当然と言えば当然なのだけれど、この体は幸奈さんのものだから。
きっと、幸奈さんもあちらの世界で同じ思いをしているはず。
自分の思い通りに動けない時があるはず。
それが幸奈さんの異能。
魂替なのだと思う。
「……」
行動に制限のあるこの体で、どこまでできるのか?
和見の父親と壬生さんに、対抗できるのか?
どこまでしていいのか?
単純な拒絶は可能だろうけど。
「……」
やっぱり自信は持てない。
責任が持てない。
だって……。
父の要求を拒否して、意向を完全に無視したら、この家で暮らせるとは思えないから。
ここを追い出されたら、私はどうすれば?
幸奈さんは和見の家を出たいといつも思っていた。
それでも、実際に行動には移せなかった。
それを知っている私は。
生活力のない私は。
「コーキさん……」
早く戻って来て。
私の道を照らしてほしい。
「ここが私の部屋」
病室から和見家の自宅に戻った私。
さっそく自分の部屋に入ったのだけれど。
「……」
病室で過ごした日々で、こちらの世界にもかなり馴染めたはず。
幸奈さんの知識もある。
もちろん、この部屋についての知識も。
なのに、実際に目にすると……。
美しく落ち着いた色合いの壁と天井。
眩しいくらいに明るい照明。
しっかりとした造りで機能的な調度品。
いまだ慣れることのない電化製品。
「……」
あの病室だけではなかったのだと。
今さらながら、この世界の技術に畏敬の念が込み上げてくる。
「でも……」
いつまでも驚いてはいられない。
畏敬の念だけでは駄目。
この部屋に慣れて、この世界にもっと慣れて、この世界の住人として振る舞えるようになって。
そして、和見の家と向き合う!
「私は和見幸奈」
幸奈さんとして暮らしていく。
和見家で過ごすのだ。
その幸奈さんは……。
セレスとして頑張ってくれていると思う。
とても厳しい状況だから、きっと大変な苦労をしていると思う。
彼女に比べたら、私なんて。
衣食住の心配のない、命の危険もない生活に不満など漏らせない。
ただ……。
和見の父親と異能者である黒衣の女性、壬生さん。
この2人に対して、私がどう動くべきか?
それだけが問題。
大きな問題。
「はぁぁ」
悩ましい。
本当に。
でも……。
この和見家の中で、幸奈さんが父に抗ってもいいの?
正面から反抗しても?
幸奈さんの考えを無視して、異なる行動を取ることは?
私は幸奈さんの代理でしかないのに?
そんな思いはあるけれど、でも、やっぱり。
このままでは駄目。
今までの幸奈さんの行動通りに振る舞うと……。
良い想像なんてできないから。
「……」
和見家の地下室で、あの気持ちの悪い浴槽に入る。
壬生さんからの異能を受ける。
ただ、ただ、苦痛だけを感じる時間。
心が死んでいく時間。
そんなこと。
受け入れられるわけがない!
でも……。
どうすればいい?
どうやって抗えば?
病室で何度も何度も考えてきた。
それなのに、今でも結論が出ていない。
いえ……違う。
心は決まっているわ。
どんな形にしろ、拒絶することだけは決めているから。
私と入れ替わる前の幸奈さんも、あの地下室を嫌悪していた。
だから、拒絶するという行為自体は幸奈さんの思いと一定している。
幸奈さんの体も拒否反応は起こさないはず。
「……」
私の体は私のものであって、私のものじゃない。
この体では、幸奈さんの強い思いに反する行動は取れない。
以前、コーキさんや武志君に少し話そうとした時。
彼女の置かれている状況や悲惨な過去のほんの一端だけを口にしようとした時。
まったく口が動かなかった。
話すどころじゃなかった。
今もそう。
幸奈さんが本当に嫌だと思っていることは行動に移せない。
それだけでなく、幸奈さんの感情の影響を感じることも多い。
当然と言えば当然なのだけれど、この体は幸奈さんのものだから。
きっと、幸奈さんもあちらの世界で同じ思いをしているはず。
自分の思い通りに動けない時があるはず。
それが幸奈さんの異能。
魂替なのだと思う。
「……」
行動に制限のあるこの体で、どこまでできるのか?
和見の父親と壬生さんに、対抗できるのか?
どこまでしていいのか?
単純な拒絶は可能だろうけど。
「……」
やっぱり自信は持てない。
責任が持てない。
だって……。
父の要求を拒否して、意向を完全に無視したら、この家で暮らせるとは思えないから。
ここを追い出されたら、私はどうすれば?
幸奈さんは和見の家を出たいといつも思っていた。
それでも、実際に行動には移せなかった。
それを知っている私は。
生活力のない私は。
「コーキさん……」
早く戻って来て。
私の道を照らしてほしい。
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