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第6章 移ろう魂編

蒼鱗の天魔 10

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 エビルズピーク全体が揺れ、震える!

 そう思ってしまう程の衝撃。

「オオォォ……」

 恐るべき咆哮を上げた魔物。
 途轍もない気配を放つ兇悪な魔物が、悠然とこちらをめつけている。


 こいつは!?

 こいつは駄目だ。
 簡単に相手できる魔物じゃない。
 さっきの魔物どころじゃない。

 鑑定するまでもなく、そう理解できてしまう。

「ヴァーン、セレス様を連れて下がれ」

「っ! おめえ、どうすんだ?」

「俺がこの化け物の相手をするから、その隙にセレス様と、皆と逃げるんだ!」

「いや……俺も残って戦う」

「駄目だ! こいつはケタが違う。だから逃げろ! シアもアルも、早く逃げるんだ!」

「……」
「……」
「先生……」

「いいから、早く逃げろ! 走れ!」

「……ああ、分かった」
「……はい」
「……」


「グルルゥゥゥ……」

 魔物はまだ動かない。
 視線を外すことなく、ただこちらを見つめている。


「メルビン、貴君らも退いた方がいい」

「イリサヴィアさんは?」

「残る!」

「……」

「こいつは、アリマと私にしか相手できぬからな」

「……分かりました。無事に戻ってくださいよ。ご武運を祈ってます」

「うむ」

 剣姫が俺の傍らに歩み寄って来る。

「よいか?」

「……」

 剣姫の言う通り。
 こいつと戦えるのは俺と彼女だけ。

「……お願いします」

「うむ」

 いや、俺たちでも危ないな。

 この蒼鱗の魔物。
 四足に太く長い首、長い尻尾。
 そして、恐ろしく重量感のある胴体に、2つの翼。
 さっきの謎魔物を一回り大きくしたような姿態だが、問題はその身体の大きさじゃない。

 ステータスがとんでもないんだ!



???
???

エビルズマリス
エビルズピークの悪意

HP  813
MP   95
STR 594
AGI 171
INT 206

<スキル>
気配消去 分身 ???


 MP、AGI、INTは俺の方が勝っているものの。
 HPは俺の約4倍。
 STRは約2倍。

 おそらく、防御力も凄いのだろう。
 それに、スキルまで。

「グルルゥゥゥ……」

 今まで戦ってきた魔物どころじゃない。
 ダブルヘッドもトリプルヘッドも、比べ物にすらならない。

 エビルズピークの悪意。

「……」

 勝てるのか?




*********************




 エビルズピークの山頂付近。
 最近のお気に入りの寝床であるその地で、それ・・は眠っていた。

「……」

 ヒトに対する渇望が消えたわけではない。
 依然として胸の内に強く存在している。

 それでも空腹になれば獲物を喰らうし、腹がくちくなれば眠くもなる。
 眠くなれば何の遠慮もいらない。
 ただ、眠るだけ。

 ここには、己に害を与えるものなど存在しないのだから。

 ……。

 ……。

 ん?
 んん?

「……?」

 胸の奥がチクリと痛む。
 微かな痛みではあるが、最近は感じることもなかった痛み。

 その痛みに、まどろみの心地良い気分が消えていく

「!?」

 さらなる痛み?

 何だ?
 何が?

「……」

 しばらくの逡巡。
 そして……。

 覚醒とともに知覚する事実。

 分身がやられた!?
 己が分身を倒す者が、この近くにいる?

 驚き、憤り、好奇に頭が冴えてくる。

 そこに送られてきた分身の思念。

 ウマイ、ウマイ!

 イタイ!

 コワイ!!

 この感情、この思念は?

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