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第6章 移ろう魂編

蒼鱗の天魔 6

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「おおぉ!」
「やったぞ!」

「すげえ!」
「こいつを一撃とは。さすがだぜ」

 沸き立つ冒険者たち。
 ワディンの騎士たちも後ろで興奮している。

 けど、まだ戦闘は終わっちゃいないぞ。

「グルオォォォ!」

 レザンジュ王軍を蹂躙していた魔物がこっちに向かってるからな。
 あいつを倒さないと終わりじゃない。

「おい、あっちを見ろ」

「魔物がやって来るぞ」

 冒険者連中もワディン騎士たちも気づいたようだ。
 浮きたっていた空気が急激に冷めていく。

 ただ、地響きを立て坂を下ってくるその姿は。
 今倒したばかりの魔物と瓜二つ。

「まるっきり同じ魔物じゃねえか」

「なら、心配ねえな」

「ああ、一撃だぜ」

 四足微翼のその姿態。蜥蜴にも竜にも見えてしまう。

 さっきと同様、鑑定ではステータス値しか確認できない。
 とはいえ、数値は似たようなもの。
 これなら、問題ないだろう。

 さっさと片付けるか。
 そう思ったところに。

「今度は私が相手しよう」

 剣姫イリサヴィアが立ち上がっている。
 目には力を、身体には活力を溢れさせて。

 回復が早いな。

「傷は大丈夫ですか?」

「治療は済ませた。問題ない」

 そうか。
 なら、ここは任せよう。

「あいつの鱗もその下の筋肉も相当硬いので、気をつけてください」

「承知した」

「では、お願いします」

「うむ。こちらとしても、君に世話になってばかりはおれぬからな」

「……」

 さっきまで戦っていた相手だというのに。
 真面目というか律儀というか。
 ほんと……。

 まっ、信頼の置ける人物ではあるよな。


「グゥオォォ!!」

 おっと、到着したぞ。

「まいる!」

 もう何度も見た神速の初動。
 その一歩で襲い掛かる魔物に接近、攻撃を軽く躱し。
 上に跳躍。

 敵の頭を越える跳躍から、勢いよく振りかぶられる魔剣ドゥエリンガー。
 魔力の籠った強烈な一撃が魔物の首に振り下ろされ!

 ガッ!

 青藍の残光を放ちながらドゥエリンガーが魔物の首に埋まり。

 ガシュッ!

 鱗を切断。

 ドシュッ!!

 肉を切断。

 強靭なる太首を一撃で斬り落としてしまった。

「オォォ……」

 ドッシーン!

 魔物はその巨体に相応しい轟音を立て、沈黙。

 1頭目に続き2頭目も。
 2頭目の謎魔物も、呆気なくエビルズピークの地に沈んだ。


「「「「「「「おお!!」」」」」」」

「さすがだ!」
「恐ろしい威力だぜ!」

「こっちも一撃かよ!」
「さっきの剣以上だな」

 見事な剣撃。
 これぞ真の一撃撃破。
 本当に素晴らしい。

 剣姫イリサヴィアの剣の冴えは、見ているこっちが怖気を感じるほどだ。
 魔剣を使っている効果もあるのだろうが、それにしても、あの剣には感服するしかない。

 魔法と気を使ったとはいえ、この剣姫によく勝てたもんだな。



「君の助言のおかげで倒すことができた」

 こちらに戻って来た剣姫。
 その表情は穏やかなもの。
 完全に落ち着きを取り戻している。

「全てイリサヴィア様の実力ですよ」

「……君には勝てなかったがな」

「……」

 そう言われると、返答に困る。

「下らぬことを言ってしまった」

「いえ……」

 これもまた返事に窮する。

「もう魔物もおらぬ。終わりと思って良いだろう」

「……」

 近くに魔物は見当たらない。
 気配も感じない。

 終わりだな。

「……」

 剣姫も冒険者たちも、この後セレス様を追うことはないはず。
 向こうで倒れているレザンジュ王軍にも力は残っていないだろう。

 なら、俺たちはこのままワディン領に向かうだけ。
 何も問題はない。

 俺は……。

 まずは、幸奈とふたりきりで話がしたい。
 そもそも、俺はそのためにここに来たんだからな。

 けど、みんながいるこの状況でふたりになれるのか?
 詳しい話ができるのか?

「……」

 今は難しそうだ。
 だったら、一言だけでも。

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