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第6章 移ろう魂編
激闘 6
しおりを挟む剣の一振りで、細剣に纏わりついていた紫電までも綺麗に消し去ってしまう剣姫。
「魔法もこれだけ使えるとは! ふふ……」
薄く笑みを浮かべる剣姫に、雷撃を受けた影響は見えない。
右手に持つ細剣も既に魔力付与済み。
剣身は、むせるほどの紅蓮を纏っている。
これまでで最高の魔力量だろう。
準備は万端か。
けれど、それは俺も同じ。
今の魔法で色々と理解できたこともある。
つまり。
ここからが本当の勝負!
「君のような冒険者がオルドウにいたとはな」
「……」
「アリマという名など聞いたこともなかったというのに」
うん?
どうして、その名を知っている?
剣姫に告げた覚えはないぞ。
アリマと名乗ったのは、キュベルリアの冒険者ギルドでヴァルターさんと手合わせした時だけ。
ひょっとして、あの場にいたのか?
なら、俺の剣を知っていたと?
「剣も魔法も称賛に値する」
「……」
「恐ろしい使い手だ」
「魔法を簡単に斬り裂くあなたの方が恐ろしいですよ」
「君にもできるだろ」
確かに。
剣に魔力を纏えば、俺にも斬ることは可能だ。
ただ、剣姫のように巧みに対応できるとは思えない。
「魔力を纏った君の剣なら、斬れるはず」
「……」
「ただ、この剣はどうかな?」
「!?」
言葉と共に、剣姫の刺突が飛んでくる。
無拍子じゃない、通常の剣撃。
とはいえ、奇襲に近い一撃だ。
さらには、紅蓮の業火を纏った峻烈な魔力の剣。
ギン!
何とか弾くことはできた。
が、剣身を打ち合わせただけで手が痺れている?
「うむ」
軌道を逸らされた紅蓮の細剣。
勢いを消すことなく空に円を描き、横薙ぎに変化した!
そのまま、こっちの胴に向かって!
ギン!
痺れた手を振るい、真上からの打ち落としに成功。
それでも、終わらない。
下方に逸れた紅蓮が再変化、逆袈裟となって斬り上がってくる。
この勢い。
この角度。
さらに、こちらの体勢。
まともに受けるのは悪手だろう。
ならば、後ろに跳躍回避。
だというのに!
剣姫も跳んだ!
俺とほぼ同時に跳躍した剣姫。
逆袈裟の一撃が迫ってくる!
「くっ!」
斜めに斬り上がってくる紅蓮に、俺の剣を無理やり叩きつけ。
キン!
相手の勢いを僅かに削ぎ、こっちは紅蓮の剣を受けた反動を利用して、さらに半歩の後退。
ブゥン!!
眼前を紅蓮が通過。
紙一重のところで避けることができた。
「……」
再度後ろに跳躍するも、剣姫の追撃はない。
逆袈裟を振り抜いた体勢で動きを止めている。
「……」
「これも避けきるか」
「ギリギリですよ」
今のは本当に危なかった。
速度と威力が上昇したのは分かっていたが、想像以上だったからな。
「うむ……」
このレベルでは、些細なことでさえ命取りになる。
防戦一方になってしまった今の攻防からも明らかだ。
「やはり面白い」
「……」
「君の剣とは、ゆっくり語り合いたいものだな」
同感だ。
「が、剣を楽しめる状況でもない」
それも同感。
「残念ながら、な」
「……」
剣姫との戦いは恐ろしくも面白いものがある。
思う存分、腕を試したい気持ちになってしまう。
ずっと戦っていたい気持ちに……。
けど今は、そんな場合じゃない。
長く戦って消耗しちゃいけない。
この後にも何かが起きる可能性があるのだから。
早く決着をつけるべき!
「次で決めよう」
「……ええ」
と?
剣姫の発する空気が変わった?
まだ上があるのか?
途轍もないな!
が、こちらもまだ強化できる。
最高の強化を!
「……」
「……」
よし。
お互いに準備は整った。
あとは攻撃するだけ。
「……」
「……」
魔法か?
剣か?
剣姫は魔力で強化はできるものの、魔法自体は使えないようだ。
そうすると、より有効なのは……。
ほんの僅かな逡巡。
数秒にも満たない時間。
「っ!」
懸の先を取られた。
地を蹴る剣姫。
その一足で彼我の距離が消失!
迫る剣姫!
これは?
剣質が違う?
魔力の変質か?
紅蓮が消え、彼女の髪色に似た青藍の剣身に?
青藍の剣が凄まじい剣圧と共に襲いかかってくる!
が、やることは同じ。
懸の先、先の先をとることができずとも、後の先はとれる!
こちらも跳躍だ。
青藍の剣がこちらに届くより先に己の剣を打つ。
相手の剣をいなすことなく、そのまま剣を!
ただ、ひたすらに早く!
最速の剣を!
*********************
懸の先をとる……相手が打とうと意識する直前を制すること。
先の先をとる……相手が構えた状態から、技を出そうと動き出す直前を制すること。
後の先をとる……相手が出した技が決まる直前を制すること。
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