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第6章 移ろう魂編

激闘 5

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「ヴァーン殿、本当に彼に任せて良いのでしょうか?」

「もちろん。というか、それしかねえだろ」

「手助けはできます」

「駄目だな。隊長たちが手を出すと、あっちの冒険者連中も黙っちゃいねえ。となると、間違いなく何人かが命を落とすことになるぞ」

「……」

「戦いに人死ひとじにはつきもの、とはいえ回避するに越したことはねえ」

「そうかもしれんが、私は!」

「ディアナ、この後もセレスさんの護衛は続くんだ。冷静に判断しろ! ここは、こいつに任せた方がいい」

「……」

「私はヴァーンの言う通りだと思う」

「ユーフィリア!」

「任せよう、ディアナ」

「……」

「話は終わりだな。ってことで、戦いは任せたぜ」

 気楽な調子で俺の背中に言葉を投げてくるヴァーン。
 だが、心中は違うはず。

「……分かってる」

「今回は本気でやれよ」

「さっきも本気だった」

「違うな。おまえ、魔法使わなかっただろ」

「……」

「剣にこだわる気持ちも分かるけどよ。こいつぁ、模擬戦じゃねえ。勝たなきゃ意味ねえんだぞ」

「……ああ」

 そうだな。
 これは剣の試合じゃない。
 魔法を使わない相手にも魔法は使うべきだ。

「ただし、剣姫は魔法を斬り裂ける。注意しろよ」

「……」

 魔力を纏った剣なら、魔法を斬っても不思議じゃないか。



「待たせたな」

 俺のかなり後方に、ヴァーン、アル、ワディンの騎士たちが控え。
 剣姫の後ろには、メルビンと冒険者が待機している状態。

 俺と剣姫の周りには、広い空間が生まれている。

「さあ、続きをしよう」

「……ええ」

 激闘が再開する。

 だというのに、遡行前の光景がまだ頭に残ったまま。
 どうしても離れてくれない。

 これでいいのか?
 迷いは消えていない。
 けれど、今はもう。
 戦うしかない!


「今回は魔法を使わせてもらいます」

「うむ、律儀なものだな」

「……」

「わざわざ告げる必要などないものを」

 分かってる。
 これはただの自己満足。
 けど、それが大事なんだよ!

 いくぞ!

「アイスアロー!」

 剣姫との距離は約5メートル。
 至近距離からのアイスアローはどうだ?

 パリン!

 抜剣するや、初動で振りぬき氷の矢を粉砕。
 剣姫は平然としたもの。

 そうだよな。
 決まるわけないよな。

「……」

 剣姫はその場を動かない。
 こっちの魔法を待っていると?

 いいだろう。
 撃ってやる!

「ファイヤーボール!」

 ヒュン!

 炎も断ち斬るか。
 ヴァーンの言った通りだ。

 なら、次は。

「風刃!」

 不可視の風の刃。
 これなら?

 シュッ!

 はは。
 あっさりと対応してくれる。

 けど、次は簡単じゃないぞ。
 斬れるか?

「雷撃!」

 襲い掛かる雷電。
 剣を振るう剣姫。
 振り上げた細剣に纏わりつく紫雷光!

 バリバリ!

 凄いな。
 雷撃の進行も防いでいる。

「くっ!?」

 が、紫電は消えていない。
 そう、痺れているはず。

「ぬん!」

 右上に振り上げていた細剣を、紫電を纏ったままに左下に一振。

 シュン!

 消失!
 雷撃が消えた!

 細剣からは紫雷が消え失せ、元の冷ややかな蒼白い剣身に戻っている。

「痺れがあるか?」

「……」

 言葉に反するように、剣を持つ手を左右に動かす剣姫。
 痺れは、ほとんど残ってないのだろう。

 すると。
 振るう細剣に再び朱が灯り、紅蓮へと変化。
 魔力の付与が完成しようとしている。

「うむ」

 雷撃にもこの対応。
 素早い魔力運用。
 さすがだよ。

 ただ、これで理解できた。
 使える魔法も使えない魔法も。
 効果の程も。

 魔法で戦えるってこともだ。



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