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第6章 移ろう魂編

激闘 1

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「コーキ、やれるか?」

「ああ」

「……頼むぜ」

「了解だ。ヴァーンはそこで休んでいろよ」

「……」

 剣を片手に、こちらに近づき立ち止まる剣姫。
 まだ剣を構えることもなく、こちらを見つめて立っているだけ。

 なのに……。

 凄まじいな。

 ただ向き合っているだけでも、ひしひしと伝わってくる。
 まだ、一合も打ち合っていないのに理解できる。

「……」

 今までこちらの世界で戦った何者よりも手強いだろう。
 そんな圧力を、避けようもなく肌で感じてしまう。

 キュベルリアでは、その実力の一端を覗いたつもりでいたけれど。
 そんなものじゃない。

「こんな状況で剣を交わしたくはなかったが……」

 剣姫の涼やかな口元からこぼれ出る一言。
 抑揚のない響きに、僅かに滲む感情。

「交わしたくもあった」

「……そうですか」

 剣姫に剣を向け、正眼に構える。
 剣姫は手に持った剣の切っ先を地面に向け下ろしたまま。
 構えなど必要ないかのよう。

「……」

 すり足で間合いを詰める。
 剣姫は動かない。

 なので、こっちは簡単に正中線を支配することができる。
 明らかに有利な状況。

 が、剣姫は全く動じていない。

「……」

 剣姫の剣術に理合はないのか?
 それとも、常識外れの理合がある?
 彼女ほどの相手だと、つい考えてしまう。

 この雑念が初手に影響を与えてしまった。

 相手の剣先が僅かに動いたと思った次の瞬間。
 剣が飛ぶように目の前に迫ってくる!

 一瞬だけ遅れた反応。

 だが!

 キン!

 よし、間に合った。

 下から向かってくる剣姫の剣を叩き落とし、返す剣で胴に斬りこむ。
 が、叩き落としたはずの相手の剣が俺の右脇腹に向かって!?

 駄目だ!
 剣姫の剣が俺の脇に届く方が早い!

 受けるには鋭すぎる!

「くっ!」

 無理な体勢から身体を捻るようにして、左後方に跳躍。

 剣先が俺を撫でる!
 服を切り裂く!

 それでも、なんとか避けることができた。
 本当にギリギリの回避。

「……」

 急ぎ、次撃に備え体勢を整える。
 が……。

 剣姫の追撃はない。

「……」

「……」




*********************

<和見幸奈視点(姿はセレスティーヌ)>



「おれが出ます!」

 アル君が、茂みを出ようとしている。

 わたしは……。

 わたしは動けない。
 逃げることもできない。
 ただ、ここで見ているだけ。

 神娘の力も使えない。
 力が使えたら、祝福で傷を癒すこともできるのに!

 無力なわたし。
 そんなわたしのために、みんなが頑張ってくれている。
 自分の身を犠牲にして、わたしを逃がすために。

 今のわたしにそんな価値があるの?
 あるとは思えない!

 申し訳なくて、情けなくて……。


「アル、待って!」

「姉さんは出てくるなよ」

「違うの、あそこを見て!」

「っ!? コーキさん?」

「そうよ、コーキ先生よ」

「こんなこと……。夢じゃないよな?」

「ええ、夢じゃないわ」

「でも、髪がおかしいぞ」

「そうだけど。髪は茶色だけど、あれはコーキ先生よ」

「そうか! コーキさんが!」

 あれがコーキさん。
 テポレン山でわたしを助けてくれた命の恩人。

 なのに……。
 やっぱり、実感がない。

 それどころか、何か違和感が?
 これは何?

「……」


「でも、どうしてここに?」

「分からない。でも、先生が来てくれたら」

「ああ、心配いらないな」

「もう大丈夫よ。アルが出る必要もないわ」

「……」

「セレス様、安心してください。コーキ先生が来てくれましたから」

「……はい」

 ふたりの顔からは、さっきまでの悲壮感が嘘のように消えている。
 コーキさんのことを心から信頼しているのね。
 それだけの力を持っている人なんだ。

 それは……わたしも知っているはず。

 でも、やっぱり変。
 コーキさんのことを考えると。
 思い出そうとすると、何かが……。

 えっ、痛い?!
 頭が!!


「おっ、戦いが始まるぞ!」






*********************

〇間合 ……相手との物理的距離。適切な距離。精神的な意味もある。
〇正中線……体の中心を縦に通る線。自分の正中線上に相手を置くと有利。
〇理合 ……合理的、必然的な剣のすじ。剣撃への必然の条理。

 ※ 簡易の説明ですので、ご理解くだされば幸いです。
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