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第6章 移ろう魂編
魔剣士 3
しおりを挟む<ヴァーンベック視点>
「ワディンの者たちだな?」
「……」
この凄腕女剣士。
ワディンの誰かを探している。
となると、探す相手は辺境伯とセレスさん。
この2人しかないだろう。
ちっ!
まずい状況だぜ。
ただ、予想通り、予感通りでもある。
「嘘だろ?」
「弱っていたとはいえ、相手はブラッドウルフだぞ」
「凄い!」
「たった一振りで!」
「まだ若い女性なのに」
「何者だ?」
「あれが敵なのか?」
「ワディンの敵?」
後ろでは、ワディン騎士たちの動揺した囁き声。
よーく分かるぜ。
こう対峙しているだけで、俺の背中にも冷たいものが流れてるんだからよ。
「うむ……」
静かな口調。
抑揚のない表情。
なのに、まるで鬼神に睨まれているようじゃねえか。
アンタ、何者だ?
「もう一度だけ問おう。お前たちはワディンの者なのか?」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
「「「「「「「「……」」」」」」」」
再び発せられたその淡々とした一言に、皆が沈黙しちまう。
ただ圧倒されて……。
「答えぬか」
答えないんじゃない。
答えられねえんだ。
「沈黙は何よりも雄弁なもの……。では、まいろう」
「っ! 待ってください。我々は!」
恐ろしい圧力に抗って、隊長が口を開いた。
さすが、隊長だ。
「何だ?」
「我々は……」
けど、この相手に下手な言い訳はできねえか。
なら、俺の方がましだな。
「俺は……冒険者だ」
「……」
っとに、喋りづれえ。
「ワディンじゃない」
「冒険者……。なるほど、お前は冒険者のようだな」
通じた!
「ああ、キュベリッツの冒険者だ」
「うむ。その言が正しいとしても」
ルボルグ隊長やワディン騎士を一瞥する表情に変化はねえ。
「他の者はワディンであろう」
「……」
やはり、ごまかせねえか。
「……いえ、我々も冒険者です」
隊長!
ここで、それを?
「くだらぬ嘘を」
「……」
「時間の無駄だな」
駄目だ。
話を聞くつもりもねえぞ。
「後ろに隠れている者を渡してもらおう」
「なっ!?」
セレスさんのこと、気づいてる?
「……何のことでしょう?」
「今さら、戯言は要らぬ」
「……」
もう、交渉なんかできる状況じゃねえ。
シア、アル、分かってるな。
早くセレスさんを連れて逃げるんだ。
「拒否するのであれば、こちらからいただくだけ」
そう言って、3人が隠れている茂みに足を向ける女剣士。
くっ!
こうなりゃ、仕方ねえ。
「させねえよ」
「通しませんよ」
女剣士の前に立ちふさがった俺の横にはルボルグ隊長。
「ここを通すわけにはいかぬ!」
「通さない!」
ディアナにユーフィリアも。
「「「「「「その通りだ!」」」」」」
「「「「「「ああ」」」」」」
ワディン騎士たちも俺と隊長の後ろに。
「……」
みんな、この途轍もねえ女剣士に挑むつもりかよ。
さっきまで完璧に圧倒されてたってのに。
無謀すぎるぜ。
けどよぉ。
はは……。
不思議と笑えてくるな。
こうなりゃ、やるしかねえか。
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