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第6章 移ろう魂編

エビルズピーク 13

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<剣姫イリサヴィア視点>



 剣戟と魔物の咆哮。
 時折混じる魔法の炸裂音。

 間違いない。
 この先で魔物との戦闘が行われている。

 戦っているのはワディン辺境伯一党なのか?
 定かではないが、可能性は決して低くない。

「もう少し先でしょうか?」

「ああ、この樹林地帯の先だろう」

 この辺りは木が密集して立ち並んでいるので進みづらい。
 急いでいるのに厄介なものだ。

「辺境伯がいると良いのですが」

「うむ……。まあ、貴君らには関係のない私の仕事なのだがな」

「そうでしたね」

 彼らはミルトとエビルズピークの異状調査をしているだけ。
 辺境伯については、関わる必要もない。

「貴君らは急がずともよい。私ひとり急げばよいのだ」

「いえいえ、付き合いますよ」

「……そうか。ただ、戦闘に助力は不要だぞ」

 冒険者が仕事以外で戦う必要などない。
 今後どのような影響が出るか分からないのだから、要らぬ禍根など残さぬが好し

 それが冒険者というもの。
 もちろん、メルビンたちなら理解しているだろう。

「まあ……分かりました」

「うむ」



 目の前に広がる木々を避け、踏み、切りながら進み続ける。
 しばらく、そうして道を切り開いていると……。

 突然視界が広がり。
 前方に現れたのは広場のような空き地。
 ここまでの密集が嘘のような、いきなりの空白地帯だ。

 と、驚いている場合じゃないな。

 戦闘は……。

 その先、テポレン方面に見える坂の辺りで戦っている。

「あそこですね」

「ああ」

「行きましょうか」

 既に見えているその坂に、近づくと……。


「グゥロオォォォ!!」

「「「うわぁぁぁ!」」」
「「「おおぉぉ!」」」
「「「ぎゃあぁ!!」」」

「オオォォォ!!」

「「「痛い!」」」
「「「っ!」」」

「逃げるなぁ!」
「戦えぇ!」

 2頭の魔物の姿、それに多数の武装兵。

「……」

「……」

 多くの者が負傷し地に伏している。
 立っている者も満身創痍。

 対する魔物はブラッドウルフ。

「グルルゥゥ」

「グルゥゥ」

 ブラッドウルフもかなりの傷を負っている。
 が、まだまだ戦える状態のようだ。

「……」

 目の前の武装している者たちは、レザンジュ王軍の兵か?

 エビルズピークで辺境伯を追跡していたところ、ブラッドウルフに遭遇したと。
 おそらく、そういうことだろうな。

 しかし、この有様は……。

「どうしましょうか?」

「考えるまでもなかろう」

 これを放置するわけにもいくまい。

「依頼とは関係ありませんが?」

 仕事以外の戦闘は不要。
 無駄なことはしない。
 それが冒険者というもの。

 ただし。

「魔物討伐は冒険者の責務。であろう?」

「責務とまでは……」

「……」

「まっ、了解ですよ」

「うむ」

 とはいえ、悠長に戦っている時間はない。
 さっさと片付ける必要がある。
 100歩ほど先に見える連中のもとに急がねばならんからな。

「素早く片付けるぞ」

「了解。では、1頭は我々が引きつけますので」

「ああ」

「グルルゥゥ……」

 私はあちらを始末するとしよう。


「な、なんだお前らは?」
「誰だ?」

「助けに来てくれたのか?」
「来るな、ブラッドウルフがいるんだぞ!」
「危ない!」

 混沌としている戦場を駆け、一気にブラッドウルフに接近。

「グロォォォ!」

 負傷しているブラッドウルフが、接近する私に気付き襲い掛かってくる。
 が、何の問題もない。

 こちらは、ミルト山でブラッドウルフと戦ったばかり。
 力加減も、魔力を纏う程度もはっきり覚えている。

 それゆえ、一撃で充分。
 この一振りで足りる。
 さあ、眠ってもらおうか。


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