453 / 1,294
第6章 移ろう魂編
兆し 3
しおりを挟む
<剣姫イリサヴィア視点>
なぜ私が黒都の冒険者ギルドにいるのか。
それは……。
黒晶宮での用事を終えた後。
殿下から依頼を受けることになり、さらに可能ならギルドにも手を貸してやってほしいと頼まれたから。
「……」
レザンジュの王子である殿下からの依頼ですらイレギュラーなもの。
その上、冒険者ギルドからも仕事を受けるなんてことは……。
正直言って、仕事を受ける気持ちにはなれない。
ただ、今回のレザンジュ訪問の前に、オズから念を押されているのだ。
できるかぎり殿下の希望を叶えてほしいと。
ならば仕方ないということで、やってきた冒険者ギルド。
提示された内容は殿下の依頼のついでにこなせるものだった。
さらに、殿下の依頼優先は当然で、場合によってはギルドの仕事は放置しても良いらしい。
そこまで言われると、無下に断ることもできない。
もう、引き受けるしかないだろう。
「ミッドレミルトには、こちらの冒険者メルビンさんの率いる冒険者たちが同行しますので」
「……」
「イリサヴィアさん」
握手を求めてきたのは30歳くらいの男性冒険者。
彼がメルビンという2級冒険者らしい。
穏やかな雰囲気を纏っているが……。
「よろしくお願いします」
「……よろしく頼む」
「今回はミルトから山に入り、エビルズピークまで現地調査を続けます。その途中で辺境伯の足取りをつかんだ際は……」
「そちらに専念させてもらおう」
「ええ、その方向で進めてください」
「うむ」
「では、さっそく向かいましょうか」
「ああ」
引き受けた以上は、何があろうと依頼達成のために全力を尽くすのみ。
ならば、急いだ方がいい。
優先すべき殿下の依頼も、ギルドからの依頼も、拙速を尊ぶ類のものなのだから。
****************
<セレスティーヌ視点(姿は和見幸奈)>
ああ!
何てことを!
私があんなことをするなんて!!
「……」
あの時は幸奈さんの感情が入ってきて、異なる私の経験と感情も私の中に入ってきたから。
それで混乱していたから。
いつもの私ではなかったから。
だから……。
どうかしていたとしか思えない。
「……」
でも、あの抑えきれない感情は。
私のもの?
私の中に存在する?
さっきは私の感情だと思っていたけれど……。
分からない。
「……」
冷静に考えてみると、理解できないことばかり。
ただ……。
あんなはしたない行為は……。
恥ずかしい。
本当にいたたまれない。
「……」
コーキさん、私のことどう思っているのかな?
今の私を?
あの映像の中のコーキさん。
とても頼もしかった。
私のことを強く想ってくれた。
もちろん、今のコーキさんも頼りがいがあるし、私のことを大切にしてくれる。
でも、あの映像は……。
あのコーキさんは今のコーキさんじゃない。
私に対する眼差し、想い、言葉。
今の私に向けられたものとは違う。
そう思うと、切なくて。
痛くて。
「……」
だけど、もし同じことが起こったら。
テポレン地中と同じように私があんな事を口にしたら。
きっと、今のコーキさんも同じ言葉を私にくれると思う。
私が死んでしまったら……。
……。
……。
はぁぁ。
こんな時なのに、私は何を考えているの。
「……」
お父様、お母様、お兄様。
シア、アル、ディアナ、ユーフィリア、ヴァーンさん。
幸奈さん。
あっちの世界では、きっと大変な状況だと思う。
今後もどうなるか分からない。
心配……。
みんなのことが心配。
それなのに!
つい、自分のことばかり考えてしまう。
駄目だな、私。
情けない。
本当に……。
……。
……。
コーキさんが病室を去って、あっちの世界の私に会いに行ってしまって。
私はこの世界でひとり。
寂しくて不安だったけれど、こんな姿を見られるくらいなら……。
少し時間をもらえて良かったのかも。
だから、コーキさんが帰って来るまでに。
それまでに、以前の私に戻らなきゃ。
でも、まずは今日!
今日を乗り切らなければいけない!
「……」
今日これから。
両親と会うことになっている。
こちらで私が目覚めてから、初めての対面だ。
しっかりしないと!
ああ。
もうすぐ、この病室に両親がやって来る。
幸奈さんの記憶の中で見たあの父親と母親が。
彼らに会うんだ。
私ひとりで。
「……っ!」
幸奈さんの感情が私の中で膨れ上がる。
不安が込み上げてくる。
この感情は……恐怖?
「……」
でも、これは避けては通れないこと。
今の私は彼らの娘。
この世界の私は和見幸奈なのだから。
なぜ私が黒都の冒険者ギルドにいるのか。
それは……。
黒晶宮での用事を終えた後。
殿下から依頼を受けることになり、さらに可能ならギルドにも手を貸してやってほしいと頼まれたから。
「……」
レザンジュの王子である殿下からの依頼ですらイレギュラーなもの。
その上、冒険者ギルドからも仕事を受けるなんてことは……。
正直言って、仕事を受ける気持ちにはなれない。
ただ、今回のレザンジュ訪問の前に、オズから念を押されているのだ。
できるかぎり殿下の希望を叶えてほしいと。
ならば仕方ないということで、やってきた冒険者ギルド。
提示された内容は殿下の依頼のついでにこなせるものだった。
さらに、殿下の依頼優先は当然で、場合によってはギルドの仕事は放置しても良いらしい。
そこまで言われると、無下に断ることもできない。
もう、引き受けるしかないだろう。
「ミッドレミルトには、こちらの冒険者メルビンさんの率いる冒険者たちが同行しますので」
「……」
「イリサヴィアさん」
握手を求めてきたのは30歳くらいの男性冒険者。
彼がメルビンという2級冒険者らしい。
穏やかな雰囲気を纏っているが……。
「よろしくお願いします」
「……よろしく頼む」
「今回はミルトから山に入り、エビルズピークまで現地調査を続けます。その途中で辺境伯の足取りをつかんだ際は……」
「そちらに専念させてもらおう」
「ええ、その方向で進めてください」
「うむ」
「では、さっそく向かいましょうか」
「ああ」
引き受けた以上は、何があろうと依頼達成のために全力を尽くすのみ。
ならば、急いだ方がいい。
優先すべき殿下の依頼も、ギルドからの依頼も、拙速を尊ぶ類のものなのだから。
****************
<セレスティーヌ視点(姿は和見幸奈)>
ああ!
何てことを!
私があんなことをするなんて!!
「……」
あの時は幸奈さんの感情が入ってきて、異なる私の経験と感情も私の中に入ってきたから。
それで混乱していたから。
いつもの私ではなかったから。
だから……。
どうかしていたとしか思えない。
「……」
でも、あの抑えきれない感情は。
私のもの?
私の中に存在する?
さっきは私の感情だと思っていたけれど……。
分からない。
「……」
冷静に考えてみると、理解できないことばかり。
ただ……。
あんなはしたない行為は……。
恥ずかしい。
本当にいたたまれない。
「……」
コーキさん、私のことどう思っているのかな?
今の私を?
あの映像の中のコーキさん。
とても頼もしかった。
私のことを強く想ってくれた。
もちろん、今のコーキさんも頼りがいがあるし、私のことを大切にしてくれる。
でも、あの映像は……。
あのコーキさんは今のコーキさんじゃない。
私に対する眼差し、想い、言葉。
今の私に向けられたものとは違う。
そう思うと、切なくて。
痛くて。
「……」
だけど、もし同じことが起こったら。
テポレン地中と同じように私があんな事を口にしたら。
きっと、今のコーキさんも同じ言葉を私にくれると思う。
私が死んでしまったら……。
……。
……。
はぁぁ。
こんな時なのに、私は何を考えているの。
「……」
お父様、お母様、お兄様。
シア、アル、ディアナ、ユーフィリア、ヴァーンさん。
幸奈さん。
あっちの世界では、きっと大変な状況だと思う。
今後もどうなるか分からない。
心配……。
みんなのことが心配。
それなのに!
つい、自分のことばかり考えてしまう。
駄目だな、私。
情けない。
本当に……。
……。
……。
コーキさんが病室を去って、あっちの世界の私に会いに行ってしまって。
私はこの世界でひとり。
寂しくて不安だったけれど、こんな姿を見られるくらいなら……。
少し時間をもらえて良かったのかも。
だから、コーキさんが帰って来るまでに。
それまでに、以前の私に戻らなきゃ。
でも、まずは今日!
今日を乗り切らなければいけない!
「……」
今日これから。
両親と会うことになっている。
こちらで私が目覚めてから、初めての対面だ。
しっかりしないと!
ああ。
もうすぐ、この病室に両親がやって来る。
幸奈さんの記憶の中で見たあの父親と母親が。
彼らに会うんだ。
私ひとりで。
「……っ!」
幸奈さんの感情が私の中で膨れ上がる。
不安が込み上げてくる。
この感情は……恐怖?
「……」
でも、これは避けては通れないこと。
今の私は彼らの娘。
この世界の私は和見幸奈なのだから。
31
お気に入りに追加
646
あなたにおすすめの小説
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~
やみのよからす
ファンタジー
病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。
時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。
べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。
月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ?
カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。
書き溜めは100話越えてます…

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。
女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。
※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。
修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。
雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。
更新も不定期になります。
※小説家になろうと同じ内容を公開してます。
週末にまとめて更新致します。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる