30年待たされた異世界転移

明之 想

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第6章 移ろう魂編

カーンゴルムへ 4

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<ヴァーンベック視点>



「ファイヤーボール!」

 魔法名だけを口に。
 発動は……よし、無詠唱成功!

「ギャン!」

 右に向けて放ったファイヤーボールがホーンベアーの肩に着弾した!

 この距離でこの速射。
 簡単に避けることはできないだろうよ。

 ただし、深手じゃない。
 が、時間は稼げそうだ。
 こっちの素早い魔法攻撃に驚いて、2頭とも立ち止まっているからな。

「……」

 シアと共にコーキから学んだ詠唱破棄によるファイヤーボール。
 成功確率はまだ高くないし威力も若干落ちるが、この速射性はとんでもねえ。
 こんな場面では頼りになるぜ。


「グルルゥゥゥ!!」

 おうおう。
 凄い形相でこっちを睨んでくれる。

 けどなぁ。
 この短時間で充分なんだよ。

「ヴァーンさん、大丈夫か!」

「怪我はない?」

 アルとシアの登場だ。

「ああ、問題ねえ」

「我らもいるぞ」

 ディアナにユーフィリア、後ろにはセレスさんもいる。
 よーし、万全だろ!

「おう、頼りにしてるぜ」

 魔法を使えるのはシアと俺、それにユーフィリア。
 他の2人は生粋の剣士だ。
 なら。

「想定通り、アルとディアナと俺が前衛。ユーフィリアは魔法で支援を頼む。シアはセレスさんを護りながら魔法だ」

「「「「了解」」」」

「分かってると思うが、あいつの咆哮には気をつけろよ。いくぞ!」

 今後起こる可能性のある様々な事態については既に移動中の馬車の中で話し合っている。
 もちろん、魔物に遭遇した際の対処法や戦闘についても相談済みだ。
 なので、ぎこちないながらも連携はそれなりにとれている。

 俺とアルが前方のホーンベアーを倒すべく戦闘を開始。
 ディアナは右手のホーンベアーの足止めをしている。
 ユーフィリアは俺とディアナの中間位置。今はディアナの支援中だ。
 シアは後方。セレスさんの傍らで戦況を見ながら魔法での攻撃を狙っている。

「ギャン!」

 よし!
 アルの剣がホーンベアーの左腕を切り裂き、俺の剣も腹部に傷を負わせた。
 ともに浅いものの、成果としては十分。

「このまま削っていくぞ」

「おう!」

 右、左、上に下にと俺とアルが剣を振るう。
 あの素早いホーンベアーを手数で圧倒している。

「やるな」

「当たり前だ」

 アルとは常夜の森で数回一緒に戦ったことがあるが、ここまでできるとは。
 予想以上だぜ。

 が、油断は禁物。
 ほら、くるぞ!

「グゥルォォ!」

「アル、後ろに跳べ!」

「っ!」

 こちらの細かな攻撃など無視するとばかり、ホーンベアーの右腕が大きく振るわれる。
 強力な一撃、凄い風圧だ。

 喰らわなきゃ問題ねえがな。

「アル、あいつの大振りだけは気をつけろよ」

「分かってらぁ」

 不敵に笑いながら、ホーンベアーに向かっていく。

「……」

 あいつ、ギリオンに似てきたな。
 剣の扱いだけじゃなく、戦闘中の態度まで。

 けどまあ、大口を叩くだけの動きではある。

「続けるぞ!」


 俺とアルの剣がホーンベアーを少しずつ切り裂いていく。
 右手ではユーフィリアの支援のもと、ディアナがひとりで上手く対処している。
 さすが腕利きの護衛騎士様ってところだ。

 そんな戦闘がしばらく続き……。

 俺とアルの前のホーンベアーはその毛が真っ赤に染まるほど。
 深手は負っていないが、さすがにもうきついだろ。

「グルゥゥゥ」

 その声にも力がない。
 このまま順調にいけば、もうすぐ倒せそうだ。
 が、最後まで気を抜いちゃいけねえ。

 何といっても凄まじい力を持っているからな。
 一撃で戦況をひっくり返す力を。

 それに、あの咆哮。
 まだ出してねえが……。

 と、そこで。

「ヴゥゥゥ」

 一歩下がったホーンベアーの口元が震える。
 ここでくるのか?

「みんな、耳を抑えろ!」

 俺が声をあげた直後。

「グウオォロォォォォォ!!!」

 空気を震わすようにしてホーンベアーからとんでもない咆哮が発せられた。

「くっ!」
「っ!」
「うっ!」
「……」
「!?」




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