30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
上 下
413 / 1,294
第6章 移ろう魂編

メッセージ

しおりを挟む
 見失ってしまった?

「……」

 非常に多くの人々が往来しているこの大通り。
 周りを見渡しても、それらしき姿は見つからない。

 気配を探るのも、喧騒の中じゃ難しい。

「……」

 仕方ないか。
 この人混みの中なんだから。

 それにまあ、光の加減で白銀に見えただけかもしれない。
 見間違いの可能性も低くないだろう。


「もういいのですか?」

「はい。待たせてしまって、すみません」

「問題ないですよ。では、宿に向かいましょう」




 王都カーンゴルムに入った日の夜。

 ウィルさんとヴァルターさんから、王都には10日程度滞在することになりそうだと予定を告げられた。
 その間は自由に行動して良いとの許可も。

 また休日だらけになってしまう。
 キュベルリアの休日と同様、散策くらいしか思いつかないのに。

 散策に10日かぁ……。
 まっ、ゆっくり黒都を見物するとしようか。

 しかし……。

 今回も、俺だけ自由。
 俺だけ蚊帳の外か。

 お家の事情やら何やら問題があるのは理解しているし、俺を巻き込まないように配慮してくれているというのも分かっている。

 それでも……。
 俺ももう片足を突っ込んでいるような気がするんだが。

「……」

 深く関わるなというなら、そうするだけ。
 ただし、今後は必要な情報はしっかりと伝えてもらうぞ。



 ということで、翌日はカーンゴルムの街を散策して過ごすことに。
 当然、ひとりでの散策だ。

 一日中ゆっくりと街の中を歩き……。
 色々と見て回って……。

 悪くない1日だった。
 想像通りキュベルリアと同様に見所がたっぷりの街だったな。

 うん、充分に楽しめた。
 これならあと数日は散策しても飽きることはないだろう。

 けど、その前に。
 今夜は日本に戻ろうかと思っている。

 武志が戻ったばかりで、何も問題などないとは思うが。
 一応、確認しないとな。

 さてと。

「異世界間移動!」



 自室に戻った俺は、まずは入浴。
 久しぶりの風呂をゆっくりと楽しんだ後。
 良い気分で部屋に戻ると。

 ん?

 電話機の表示部分が点滅している。
 留守番電話のメッセージか?

 俺はまだ携帯電話を手に入れていないので、連絡手段は古野白さんにもらったポケベルと家の電話のみ。
 ポケベルを使うのは古野白さんくらいで、家の電話番号を知っている者も数人だけ。
 自身で電話を使うことも多くはない。

 つまり……。
 メッセージが残っているなんて、珍しいことなんだ。

「……」

 電話に近寄り、ボタンに指を。

『ピィィィ……23件です』

 はあ!?
 何だ??

 この俺にその数は、多すぎるだろ!

 不在にしていたこの数日で、そんなに連絡があったなんて!

 異能関係か?
 古野白さんに何かあった?

 いや、違うな。
 古野白さんならポケベルにも連絡があるはずだが、そこには何も入っていない。

 となると、誰だ?

 香澄か、母さんか?
 里村、武上か?

 それとも、武志?
 幸奈か?

「……」

 嫌な予感がする。
 何か良からぬことが起こっているような。

 一体何なんだ?
 今は問題になるようなことなど、ないはずなのに。

 焦る俺の前では、電話機がゆっくりと録音メッセージを再生するべく準備をしている。

 留守番電話の再生準備が終わり、そして。

『…………………………〇月〇日〇時〇分です』

 無言。
 メッセージは無しか。
 これだと誰だか分からないな。

『…………………………〇月〇日〇時〇分です』

 次も無言。

『…………………………〇月〇日〇時〇分です』

 3件続けての無言!

 まさか、23件全て無言とか?
 質の悪いイタズラじゃないだろうな。

「……」

 まっ、それなら、それでいいか。
 何も起こっていないのなら。

 そんなことを考えながら、聞こえてきた4件目。

『兄さん! 兄さんいないのかよ!? くそっ…………〇月〇日〇時〇分です』

 武志だ。
 が、用件が入っていない。
 時間は、2日前。
 慌てている感じだったが、何かあったのか?

 と、次のメッセージだ。

『まだいないのか…………〇月〇日〇時〇分です』

 また武志。

『どこいったんだよ…………〇月〇日〇時〇分です』

『いい加減にしろよ。こんな時に…………〇月〇日〇時〇分です』

『まだかよ…………〇月〇日〇時〇分です』

 武志からの連続メッセージ。
 でも、これじゃあ、何の用件か分からない!

 いったい、何があったんだ?

『…………〇月〇日〇時〇分です』

『ちっ…………〇月〇日〇時〇分です』

『…………〇月〇日〇時〇分です』

『……何してんだよ…………〇月〇日〇時〇分です』

『…………〇月〇日〇時〇分です』

 無言も含めてすべて武志なのか?
 もう、嫌な予感どころじゃない!

 けど、まだメッセージは残っている。
 次は。

『……武志だ。姉さんが、姉さんが倒れた…………〇月〇日〇時〇分です』


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

1000歳の魔女の代わりに嫁に行きます ~王子様、私の運命の人を探してください~

菱沼あゆ
ファンタジー
異世界に迷い込んだ藤堂アキ。 老婆の魔女に、お前、私の代わりに嫁に行けと言われてしまう。 だが、現れた王子が理想的すぎてうさんくさいと感じたアキは王子に頼む。 「王子、私の結婚相手を探してくださいっ。  王子のコネで!」 「俺じゃなくてかっ!」 (小説家になろうにも掲載しています。)

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

処理中です...