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第5章 王都編

和見幸奈 16

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<和見幸奈視点>



 もっと薬を飲まないとだめ!

 なのに、震えが酷くて薬が掴めない。
 飲めない。

 ああ、震えがおさまらない。

「ぅぅ……」

 なら、このまま!
 震えるままに、顔を包みに押し付け。
 薬を口の中へ。
 飲める、これなら飲める!

 プルルル……。

 着信音は止まらない!

 早く眠くなって!

 プルルル……。

 もっとよ!

 プルルル……。

 もっと、もっとたくさん!

「ぅぅぅ」

 たくさん飲んで眠らないと!!

 プルルル……。

 ……。

 ……。

 ……。



 着信音は?

「……」

 鳴っていない。

 テーブルの上には……。

 大量の薬の包み。
 恐ろしいほどの量……。

 どれだけ飲んだのだろう?
 飲み過ぎた?

 ……分からない。

「……」

 分からないけど、全部は飲んでないと思う。
 それに、ちょっとくらい飲み過ぎたっていい。
 地下室よりは、ましなのだから。

 おぞましい浴槽に、黒衣の女性からの異能。
 あんなこと、もう絶対に嫌だから!

 ……と。

 目の前が歪んできた?

 体もふわふわと。
 ゆらゆらと。
 おかしくなっている。

 眠気?

 ちがう!
 これは、今まで感じたことのない……。

「うっ!」

 やっぱり、飲みすぎたのかな?

 でも、これで眠ることができる。
 地下室に行かなくて済む。

 解放される。

 そう思うけれど……。

 頭の中がおかしい。
 熱くて冷たくて、ぐるぐるして!

 真っ白で、真っ黒で……。

 これ……。

 まずいかな?
 大丈夫なのかな?

「……」

 大丈夫じゃないような気がする。
 目をつぶったら、戻れないような気がする。 

「……」

 ますます酷くなってきた。
 本格的にまずいんじゃ?

「……」

 危険かもしれない。
 もう、戻れない?

 このまま、わたし……。

「ぅぅ……」

 そんな!
 そんなつもりなかったのに……。

 この家も、自分のことも好きじゃないけど、わたしまだ……。

「……」

 ああ。
 もう力が入らない。

 頭も朦朧として……。

 ……。

 ……。

 ……。

 わたし……。

 わたし……。

 ……。

 ……。

 ……。

 価値のある女性に、なりたかったな……。

 昔から……ずっと……。

 父にとって、この和見家にとって……価値のある人間に……。

 だから、わたし……。

 ……。

 ……。

 功己……わたしは価値のある……女性だったかな?
 功己に、相応し、かったかな?

 ……。

 ……。

 こんな素敵な宝石、もらったのに……。

 これから、なのに……。

 それなのに、わたし。
 戻れなかったら……。

 ……。

 ……。

 功己と一緒に、色々なこと、したかったな……。

 お洒落な服を着て、デートしたり。
 海に行ったり、山に、行ったり……。

 遠くに、旅行したり、美味しいもの、いっぱい、食べたり……。

 一緒にご飯食べて、一緒にお茶を飲んで……。
 一緒に歩いて……、一緒に休んで……。

 一緒に笑って、一緒に怒って……、一緒に泣いて……。

 一緒に、歳を取って……。
 一緒に、一緒に……。

 ずっと、一緒に……。
 ふたり、一緒に……。

 ……。

 ……。

 梅の花も……。

 ……。

 ……。

 子供の頃、話して、いた冒険……。
 一緒に冒険して、くれるって……言ってた、よね……。

 功己と、冒険……。
 異能な、んか、使って……。

 一緒に……。
 一緒、に……。

 楽し、そう……。

 ……。

 ……。

 ふたり、で冒険……。

 した、かった、な……。

 そん、な、こと……できる、自分に……なりた、かった、な……。

 こう、き……。

 わた、し……。

 なり、た……い、よ……。

 なれ……る……か、な……。

 ……。

 ……。

 ……。







 第5章 完


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