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第5章 王都編
和見幸奈 14
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<和見幸奈視点>
武志が帰って来たあの日。
わたしは武志と入れ替わるように家を出て、功己とふたりでカフェに出かけた。
功己と一緒に行きたかったカフェ。
ずっと行きたかった海沿いのカフェ。
やっと行くことができた。
こんな状況なのに。
とっても嬉しかった。
わたしは、それだけでもう!
ただ……。
武志が戻った和見家から。
家から追い出されるようにして出かけたという事実。
この事実は消えてくれない。
「……」
心に刺さる僅かな痛み。
寂しさ。
いまだに、そんなものを感じてしまう。
あの家に、まだ期待しているのだと、実感してしまう。
自分の弱い心を……。
本当に嫌になる。
「……」
けれど。
それに反するような安心感。
ほっとするような感情も、同時に生まれていた。
武志が戻ったことで、父の偏執が無くなったら。
私への異常な執着が消えてくれたなら。
地下室に呼び寄せるのをやめてくれるに違いない!
ここ最近の絶望に近い思いの中に。
希望が!
希望が生まれたと、そう思えた……。
そんな思いを隠しながら訪れたカフェ。
功己はコーヒーを気に入ってくれたし、窓からの眺めも喜んでくれた。
わたしは……。
最初は暗い気分を引きずっていたし。
功己に変なことも言っちゃった。
ごめんね。
「……」
でも、やっぱり。
楽しかった。
功己と一緒にいると、それだけで元気が出てくる。
何度も経験してるし、分かってることなのに。
何度目でも嬉しいし、楽しい。
「……」
あの大窓から、海に沈む夕陽を見た時。
なぜだか自分のことのように感じて。
思わず感傷的になってしまったけれど。
ちょっと変な空気が流れただけだよね?
大丈夫だよね?
その後。
帰る間際に、とっても嬉しいサプライズがあったから。
想像もしていなかったモノをプレゼントしてくれたんだから。
翠緑の石のついたペンダント。
とても綺麗な石。
エメラルドや翡翠のような宝石。
「……」
嬉しい!
ほんとに、ほんとに!
言葉にできないくらい嬉しい!!
こんな素敵な宝石を、わたしのために選んでくれた。
わたしの言葉を覚えていてくれた。
功己の温かな気持ちが、わたしに幸せを運んでくれる。
「……」
エメラルドの石言葉は幸福と誠実。
翡翠にも幸福の意味があったような……。
ねえ、功己。
緑の宝石はすごく貴重な石なんだよ。
昔の中国では、第二夫人にダイヤモンドを第一夫人に翡翠を贈ったと言われるくらいなんだから。
功己はそんなことを知って、プレゼントしてくれたのかな?
ふふ。
だったら、嬉しいな。
「……」
コーキと過ごした海沿いのカフェでの時間。
本当に幸せな時間だった。
これで、わたしにも幸福が訪れる。
きっと!
そう思えたのに……。
……。
……。
その僅か数日後。
夕食時に父から告げられた一言。
「今日の夜中に電話する。分かっているな」
「……」
絶望がまた大きな口を開けて、わたしの前に現れてしまった。
深夜の自室。
わたしは父からの連絡におびえながら、身動きもできずにいる。
今日の夕食後。
何をしていたのか、何を考えていたのか?
よく分からない。
覚えていない。
ただ気がつけば、部屋にひとり。
部屋でひとり、座っているだけ。
「……」
目の前には携帯電話。
父からの着信があるかもしれない携帯電話。
携帯電話を前にして座るわたしの心の中は……。
不安?
恐怖?
絶望?
ああ……。
もう分からない。
自分の感情が何なのか?
まったく、一欠片も。
「……」
功己。
わたしどうしたら?
どうすればいいの?
功己、功己……。
……。
……。
頼りたい。
でも、頼れない。
頼りたくない。
こんなわたし!
絶対に知られたくない!
「……」
だから、わたしは。
このまま。
ただ座っているだけ……。
……。
……。
「っ?」
携帯が震えている!
武志が帰って来たあの日。
わたしは武志と入れ替わるように家を出て、功己とふたりでカフェに出かけた。
功己と一緒に行きたかったカフェ。
ずっと行きたかった海沿いのカフェ。
やっと行くことができた。
こんな状況なのに。
とっても嬉しかった。
わたしは、それだけでもう!
ただ……。
武志が戻った和見家から。
家から追い出されるようにして出かけたという事実。
この事実は消えてくれない。
「……」
心に刺さる僅かな痛み。
寂しさ。
いまだに、そんなものを感じてしまう。
あの家に、まだ期待しているのだと、実感してしまう。
自分の弱い心を……。
本当に嫌になる。
「……」
けれど。
それに反するような安心感。
ほっとするような感情も、同時に生まれていた。
武志が戻ったことで、父の偏執が無くなったら。
私への異常な執着が消えてくれたなら。
地下室に呼び寄せるのをやめてくれるに違いない!
ここ最近の絶望に近い思いの中に。
希望が!
希望が生まれたと、そう思えた……。
そんな思いを隠しながら訪れたカフェ。
功己はコーヒーを気に入ってくれたし、窓からの眺めも喜んでくれた。
わたしは……。
最初は暗い気分を引きずっていたし。
功己に変なことも言っちゃった。
ごめんね。
「……」
でも、やっぱり。
楽しかった。
功己と一緒にいると、それだけで元気が出てくる。
何度も経験してるし、分かってることなのに。
何度目でも嬉しいし、楽しい。
「……」
あの大窓から、海に沈む夕陽を見た時。
なぜだか自分のことのように感じて。
思わず感傷的になってしまったけれど。
ちょっと変な空気が流れただけだよね?
大丈夫だよね?
その後。
帰る間際に、とっても嬉しいサプライズがあったから。
想像もしていなかったモノをプレゼントしてくれたんだから。
翠緑の石のついたペンダント。
とても綺麗な石。
エメラルドや翡翠のような宝石。
「……」
嬉しい!
ほんとに、ほんとに!
言葉にできないくらい嬉しい!!
こんな素敵な宝石を、わたしのために選んでくれた。
わたしの言葉を覚えていてくれた。
功己の温かな気持ちが、わたしに幸せを運んでくれる。
「……」
エメラルドの石言葉は幸福と誠実。
翡翠にも幸福の意味があったような……。
ねえ、功己。
緑の宝石はすごく貴重な石なんだよ。
昔の中国では、第二夫人にダイヤモンドを第一夫人に翡翠を贈ったと言われるくらいなんだから。
功己はそんなことを知って、プレゼントしてくれたのかな?
ふふ。
だったら、嬉しいな。
「……」
コーキと過ごした海沿いのカフェでの時間。
本当に幸せな時間だった。
これで、わたしにも幸福が訪れる。
きっと!
そう思えたのに……。
……。
……。
その僅か数日後。
夕食時に父から告げられた一言。
「今日の夜中に電話する。分かっているな」
「……」
絶望がまた大きな口を開けて、わたしの前に現れてしまった。
深夜の自室。
わたしは父からの連絡におびえながら、身動きもできずにいる。
今日の夕食後。
何をしていたのか、何を考えていたのか?
よく分からない。
覚えていない。
ただ気がつけば、部屋にひとり。
部屋でひとり、座っているだけ。
「……」
目の前には携帯電話。
父からの着信があるかもしれない携帯電話。
携帯電話を前にして座るわたしの心の中は……。
不安?
恐怖?
絶望?
ああ……。
もう分からない。
自分の感情が何なのか?
まったく、一欠片も。
「……」
功己。
わたしどうしたら?
どうすればいいの?
功己、功己……。
……。
……。
頼りたい。
でも、頼れない。
頼りたくない。
こんなわたし!
絶対に知られたくない!
「……」
だから、わたしは。
このまま。
ただ座っているだけ……。
……。
……。
「っ?」
携帯が震えている!
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