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第5章 王都編

偽宝 2

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<キュベリッツ王国王太子視点>



 宝具ラピタルの偽宝の効果が切れたあと。
 一歩も動くことなく、最前と変わらぬ場所に佇むリーナ。

 ただし、その姿は変貌を遂げている。
 濃紺の髪と蒼眼は、ともに鮮やかな朱に。
 顔立ちも……顔立ちすらも若干変化しているのだ。

 このリーナと剣姫が同一人物だと気づく者はまずいないだろう。

 まあ、僕にはどちらもリーナに見えるけどね。


「……返して」

「貴重な宝具だからね。もちろん、返すさ」

「……」

「どうぞ」

 宝具を受け取る彼女の目は凍り付くほどに冷たい。

「ごめん、ごめん。勝手なことして悪かったよ」

「……」

「いや、でも、君がさ、晩餐会に出る資格がないって言うから……」

 ちょっとやり過ぎたかな?

「それにほら、君にはその色が似合ってるから、ね」

「……」

「あっ、もちろん、蒼色も似合ってるよ」

「……」

「リーナ?」

「……」

 まいったなぁ。
 口もきいてくれない。

 これはもう、謝るしかないぞ。

「本当にごめん。ラピタルの偽宝には二度と手を触れないからさ、許してくれないかな」

「……二度と?」

「そう、絶対触れないと誓うよ」

「はぁ」

 おっ、これは悪くない溜息だ。

「分かったわ。そのかわり、今夜の晩餐会には出なさいよ」

「了解だ。あっ、君も一緒に出てくれるよね」

「……」

「僕のパートナーは君だけなんだからさ、ねっ、サヴィアリーナ嬢」

「オズ……」




「えっ、どうして剣姫に戻るんだい?」

 再びラピタルの偽宝を装着したリーナ。
 剣姫イリサヴィアへと変化へんげしてしまった。

「公爵令嬢サヴィアリーナが、この服装だとおかしいでしょ」

「ああ、なるほど」

 今の衣装は男装に近い冒険者用のもの。アクセサリーの類もつけていない。
 どう見ても、公爵令嬢にふさわしい姿ではない、か。

「この姿に戻ったことだし、もうギルドを出るわよ」

「そうだね、晩餐会に向かうとしよう」

「……」

 僕もリーナはああいう場は好きじゃない。
 それでも、ふたり一緒なら我慢できる。

「私はレザンジュに出発する準備をしないといけないの」

 次の仕事はレザンジュで。
 当然、その話も聞いているさ。
 ただし。

「明日出発するわけじゃないよね」

「それは……」

「だったら、問題はない」

「……」

「お嬢様、一緒に晩餐会を楽しみましょ」

「……分かったわよ」

「よし、決まりだ!」

 ということで。

「もう少しここでゆっくりしていこうか」

「ここに残ってどうするの?」

「幻影とアリマ青年がまだ訓練所にいるからね」

「話でもするつもり?」

「それもいいかもしれないけど……やっぱり後日かな」

「勧誘?」

「できるならね。まっ、その前に彼のこと調べないと」

 腕は問題なし。
 人柄も大丈夫なんだろう。
 あとは身元だけ。
 そこも問題なければ、ためらう理由もない。

「冒険者を騎士に迎えるのは難しいわよ」

「騎士じゃなくてもいいさ。僕は形にはこだわらないからね」

「そう……」

「ところで、話を戻すけど。リーナはアリマ青年との勝負に興味はないのかい?」

「……結果が分かっている勝負よ」

「……」

「興味なんか持てるわけないわ」

 ずっと彼の動きを目で追っていたのに?

「でも……」

「でも?」

「いずれ彼とは戦うことになる。そんな予感がする」








************************


※ 公爵令嬢サヴィアリーナ(リーナ)はラピタルの偽宝で姿を変え、剣姫イリサヴィアとして活動しているようです。

※ サヴィアリーナとイリサヴィアは、あちらの世界でのアナグラム的なものになります。

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