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第5章 王都編

王都冒険者ギルド 2

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 冒険士の爵位を持つ剣姫イリサヴィア様、そして今俺の目の前にいるヴァルターさん。

 1日に2人もこんな実力者に遭遇するなんて、オルドウでは考えられないぞ。
 さすが王都だな。


「こちらはコーキさん。私の護衛としてキュベルリアまで同行してくださった方です」

 ああ、俺も挨拶をしないと。
 そう思ったところで、カロリナさんが先に。

「この度は王都までウィルミネア様を護っていただき、ありがとうございました」

 ウィルミネア様?
 ウィルさんの本名か?

 しかし、カロリナさんが謝辞を?
 ウィルさんのことを様付けで?

「心から感謝申し上げます」

「……護衛は私の仕事ですから」

「それでもですよ」

「オレも感謝している」

「いえ……」

 カロリナさんに続いて、ヴァルターさんも謝辞を述べてくれる。
 この2人とウィルさん。いったい、どういう関係なんだ?

「感謝はしているが……。まず、ギルド証を見せてもらえないか?」

 3人の関係に若干戸惑っているところに。
 次はギルド証?
 ここで身元確認をすると?

「ヴァルター! そんな失礼なことを!」

 顔色を変えたウィルさんが、珍しく声を荒らげている。
 俺のために、ありがたいことだ。

 けど、ギルド証を見せるくらい、何のことはない。

「ウィルさん、問題ないですよ」

「ですが」

「ほんと、平気です。ヴァルターさん、どうぞ」

「ああ……っ!?」

 ん?
 ギルド証を受け取ったヴァルターさんの動きが止まっている。

「……あんた5級なのか!」

「まあ、そうですね」

 ダブルヘッド討伐の功績で昇級が決まっているのだが、まだ手続きを終えていないんだよな。

「5級……」

 手続きをしていないのだから、ギルド証も当然5級のまま。

「5級の剣士? それとも魔法使い?」

「魔法も剣も使います」

「魔法も剣も使えて5級だと?」

「ええ、そうなります」

「コーキさんは、冒険者になってまだ日が浅いから」

「それでも、剣と魔法が使えて初級というのは……」

 誰でも最初は5級なんだ。
 珍しいことじゃないだろ。

 それとも、実力があれば、すぐに昇級できる方法があるのか?

 あっ!
 そういえば、特例昇級試験があったような……。
 早期の昇級に興味がなかったから、すっかり忘れてた。


「ウィル様、これは問題ですよ」

「何がです?」

「5級の冒険者じゃ、お嬢の護衛は務まらないってことです」

 ウィル様からお嬢に変化した?

「そんなことはありません。コーキさんの腕は私が良く知っています。それに、今回も見事なものでした」

「野盗討伐のことですね」

「ええ」

「お嬢は、戦闘を直接目にしましたか?」

「……見てないけど」

「つまり、そういうことです」

「見てないけど、実際に野盗を倒しているでしょ」

 ウィルさんの口調がくだけてきたぞ。

「戦ったのは彼だけじゃない。他の者が降したんですよ」

「……」

「何と言っても、5級なんですから」

 オルドウでは5級だからと言って、ここまで下に見られることはなかった。
 王都の5級冒険者の地位は、かなり低いんだな。

「級なんて関係ないわ」

「関係あるんです」

 ヴァルターさんは等級を重視している。
 ウィルさんは軽視している。
 どこまでいっても平行線。

「……」

 ところで、このヴァルターさんの名前。
 アレじゃないよな。

「関係ない。5級でもコーキさんは強いんだから」

「強さが分かるんですか?」

「もちろん!」

「ですが、お嬢はそちらの専門ではない」

「あんた、それは……」

 ヴァルターさんの発言を遮るカロリナさん。

「ああ、部外者の前で話すことじゃないな」

「問題ないわ。コーキさんは私たちの事情も少し把握しているから」

「ウィルミネア様、それは本当ですか?」

「話したんですかい?」

「ええ、夕連亭の者が了解した上で、簡単な事情を」

「なんで部外者に話すかなぁ。しかも、ベリルも了解済みとは。相手は5級の駆け出し冒険者だってのに」

「だから、コーキさんの腕は5級冒険者のものではないと言ってるでしょ」

「それなら、昇級してるはずです」

「コーキさんなら、すぐに昇級するわよ」

 俺の腕を信用して、反論を続けてくれるウィルさん。
 ありがたいことだ。

 ただ、ヴァルターさんにとって俺は、5級の会員証を持つ新人冒険者にすぎない。
 何を言っても無駄だろう。

「5級のギルド証。それが全てですよ」

「……」

「今後はオレが護衛を選びます。ここのギルドから信用できる者を連れてきますので」

「私の護衛はコーキさんです!」

「……」

「今後もコーキさんがいれば、問題なんて何もない!!」

「お嬢が、そこまでの信頼を……」

 ヴァルターさん、驚いてるな。
 まあ、俺もウィルさんの信頼に驚いているけど。

「分かりました。そこまで言うのなら仕方ない」

「やっと分かってくれたのね」

「ええ、お嬢の気持ちは分かりました。が、その腕が信用に足るか? その確認は必要ですから」

「確認?」

「確認です」

 これは!

「コーキさんよ、立ち合いでオレが実力を見てやろう」


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