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第5章 王都編
舞踏会 1
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王宮の舞踏会に合わせて、市民も街で踊りを楽しむ。
どうせ楽しむのなら場所は広い方がいい。
なるほど、そういうことか。
「皆さんが広場に集まっている理由は、舞踏会なんですね?」
「そうだと思います」
「どうりで、この人数。凄いですよ!」
ほんの数分で、かなりの人たちが広場に入ってきた。
この広い空間が今や市民で溢れかえっている。
ほぼ満員といった状態。
「はい。本当に増えてきました」
「皆さん、舞踏会を本当に楽しみにしているんですね」
「その、ようです」
舞踏会の音楽を街中に流して、民衆がダンスを楽しむ。
王宮の貴族も街に暮らす市民も、皆がひとつになって楽しむ。
なかなか粋なことをするものだ。
「あっ、始まりそうですよ」
息子のノリスが指摘した直後、舞曲がどこからともなく流れてきた。
初めて聴く音色。
なのに、どこか懐かしい感じがする音楽。
そんな音色がゆっくりと、確かな音量をもって耳に届く。
音源がどこにあるのか分からない不思議な響き。
魔道具でも使っているのか?
広場以外でも鳴り響いているようだ。
しかも、かなりの音量。
時を告げる鐘の音量以上だぞ。
ただ……。
耳にとても心地いい。
こうして聞いているだけでも、気分がよくなってくる。
本当に。
「……」
そんな感慨を抱く俺とは対照的に、広場に集まった市民の人々は……。
音楽に合わせて踊りを始めている。
男女のカップルだけじゃない。
男同士、女同士でも笑顔で踊っている。
みんな思い思いに、自由に。
決して揃っているわけじゃない。
上手いわけでもない。
けど、みんなが微笑みながら、楽しそうに。
リズムに合わせて、心から楽しそうにステップを踏んでいる
「……」
みんなが自由に動いているはずなのに、なぜか四組で一団となっているグループが多い。
その四組の舞踏の様は、あちらの世界のカドリールのよう。
無造作に調和がとれている。
まったく作為の感じられない美しさだ。
「……」
ああ。
熱気が凄い。
活気が凄い。
広場が生命の喜びで溢れている。
「……」
初めて直接目にするこういう舞踏。
いいものだなぁ。
と、見惚れている内にあっという間に1曲が終了。
たった1曲が終わっただけなのに、広場は今や特設舞踏会場のようになっている。
僅かな休憩の後。
2曲目が始まった。
テンポの違う楽曲だ。
「ノリスさん、これは何曲続くのでしょう?」
「街に流れるのは5、6曲らしいです」
王宮ではまだまだ舞踏会は続くが、街に流される音楽は限定されているとのこと。
だからこそのこの空気なのかもしれないな。
「……」
2曲目の軽快なリズムが人々を誘い。
熱気がさらに高まっていく。
踊るつもりのない俺まで、体が動き出しそうだ。
「ノリスさん、踊りは?」
「私はカデルの民ですから、こういう場ではちょっと」
この状況でも人目が……。
「それに、ダンスはあまり好きじゃありませんし」
「……そうですか」
「コーキ様は、舞踏の嗜みは?」
「少しだけ、ですね」
今考えると恥ずかしいことながら、異世界で必要になるかもしれないと考え習った経験があるんだよ。
「それでは、参加されないと」
「私もあまり好きじゃありませんので」
「ああ、なるほど」
ルネアスさんとノリスさん同様、俺も見ているだけで充分。
ただ、2人の傍らにいる妹のファミノは……。
「……」
「……」
寂しそうな顔で周りを眺めている。
「お父さん……」
「お兄ちゃん……」
「……」
この様子、明らかだよな。
「ダメ、かな?」
「ファミノ、カデルの民が浮かれている姿を見せるのは良くないんだよ」
「でも……」
ファミノは父や兄と違って、紫の髪色じゃない。
その髪色は、リーナによく似た鮮やかな朱の色。
これならカデルの民として目立つこともないと思うのだが。
兄と2人で踊ると目についてしまう、ということか?
「ファミノ、我慢しなさい」
「……」
そろそろ2曲目も終わりに近づいている。
「みんな、楽しそう……」
「いいなぁ……」
小声でつぶやくファミノ。
下唇を噛んで我慢しているぞ。
「……」
10歳にも満たない幼い子供が。
周りの人々は皆笑顔で踊っているというのに。
今にも涙が溢れそうな瞳で眺めるだけ。
「あっ、2曲目終わっちゃった」
兄を庇い、俺の身を心配してくれた心優しい少女。
彼女のこの表情を見ていると……。
「……」
「……」
「……」
はぁぁ。
正直、踊るのはあまり好きじゃない。
興味もない。
経験があると言っても、随分と昔の話だ。
それに、こんなことするようなタイプでもない。
柄じゃない。
決してない。
けど……。
3曲目ももう中盤。
迷っている時間ももったいないか。
仕方ない。
「ルネアスさん、私と一緒ならファミノさんが踊っても目立ちませんよね」
「それは……。ですが、カデルの娘とですよ」
差別意識?
あるわけがない。
「私には全く関係のないことです」
「……」
「問題ないですよね」
「まあ……」
「それでは」
問題ないということで。
ちょっとばかり気合が必要だが。
よし!
「お嬢さん」
ファミノの目線に合わせるように、片膝をつく。
「っ!?」
「お嬢さん、私と踊っていただけませんか?」
どうせ楽しむのなら場所は広い方がいい。
なるほど、そういうことか。
「皆さんが広場に集まっている理由は、舞踏会なんですね?」
「そうだと思います」
「どうりで、この人数。凄いですよ!」
ほんの数分で、かなりの人たちが広場に入ってきた。
この広い空間が今や市民で溢れかえっている。
ほぼ満員といった状態。
「はい。本当に増えてきました」
「皆さん、舞踏会を本当に楽しみにしているんですね」
「その、ようです」
舞踏会の音楽を街中に流して、民衆がダンスを楽しむ。
王宮の貴族も街に暮らす市民も、皆がひとつになって楽しむ。
なかなか粋なことをするものだ。
「あっ、始まりそうですよ」
息子のノリスが指摘した直後、舞曲がどこからともなく流れてきた。
初めて聴く音色。
なのに、どこか懐かしい感じがする音楽。
そんな音色がゆっくりと、確かな音量をもって耳に届く。
音源がどこにあるのか分からない不思議な響き。
魔道具でも使っているのか?
広場以外でも鳴り響いているようだ。
しかも、かなりの音量。
時を告げる鐘の音量以上だぞ。
ただ……。
耳にとても心地いい。
こうして聞いているだけでも、気分がよくなってくる。
本当に。
「……」
そんな感慨を抱く俺とは対照的に、広場に集まった市民の人々は……。
音楽に合わせて踊りを始めている。
男女のカップルだけじゃない。
男同士、女同士でも笑顔で踊っている。
みんな思い思いに、自由に。
決して揃っているわけじゃない。
上手いわけでもない。
けど、みんなが微笑みながら、楽しそうに。
リズムに合わせて、心から楽しそうにステップを踏んでいる
「……」
みんなが自由に動いているはずなのに、なぜか四組で一団となっているグループが多い。
その四組の舞踏の様は、あちらの世界のカドリールのよう。
無造作に調和がとれている。
まったく作為の感じられない美しさだ。
「……」
ああ。
熱気が凄い。
活気が凄い。
広場が生命の喜びで溢れている。
「……」
初めて直接目にするこういう舞踏。
いいものだなぁ。
と、見惚れている内にあっという間に1曲が終了。
たった1曲が終わっただけなのに、広場は今や特設舞踏会場のようになっている。
僅かな休憩の後。
2曲目が始まった。
テンポの違う楽曲だ。
「ノリスさん、これは何曲続くのでしょう?」
「街に流れるのは5、6曲らしいです」
王宮ではまだまだ舞踏会は続くが、街に流される音楽は限定されているとのこと。
だからこそのこの空気なのかもしれないな。
「……」
2曲目の軽快なリズムが人々を誘い。
熱気がさらに高まっていく。
踊るつもりのない俺まで、体が動き出しそうだ。
「ノリスさん、踊りは?」
「私はカデルの民ですから、こういう場ではちょっと」
この状況でも人目が……。
「それに、ダンスはあまり好きじゃありませんし」
「……そうですか」
「コーキ様は、舞踏の嗜みは?」
「少しだけ、ですね」
今考えると恥ずかしいことながら、異世界で必要になるかもしれないと考え習った経験があるんだよ。
「それでは、参加されないと」
「私もあまり好きじゃありませんので」
「ああ、なるほど」
ルネアスさんとノリスさん同様、俺も見ているだけで充分。
ただ、2人の傍らにいる妹のファミノは……。
「……」
「……」
寂しそうな顔で周りを眺めている。
「お父さん……」
「お兄ちゃん……」
「……」
この様子、明らかだよな。
「ダメ、かな?」
「ファミノ、カデルの民が浮かれている姿を見せるのは良くないんだよ」
「でも……」
ファミノは父や兄と違って、紫の髪色じゃない。
その髪色は、リーナによく似た鮮やかな朱の色。
これならカデルの民として目立つこともないと思うのだが。
兄と2人で踊ると目についてしまう、ということか?
「ファミノ、我慢しなさい」
「……」
そろそろ2曲目も終わりに近づいている。
「みんな、楽しそう……」
「いいなぁ……」
小声でつぶやくファミノ。
下唇を噛んで我慢しているぞ。
「……」
10歳にも満たない幼い子供が。
周りの人々は皆笑顔で踊っているというのに。
今にも涙が溢れそうな瞳で眺めるだけ。
「あっ、2曲目終わっちゃった」
兄を庇い、俺の身を心配してくれた心優しい少女。
彼女のこの表情を見ていると……。
「……」
「……」
「……」
はぁぁ。
正直、踊るのはあまり好きじゃない。
興味もない。
経験があると言っても、随分と昔の話だ。
それに、こんなことするようなタイプでもない。
柄じゃない。
決してない。
けど……。
3曲目ももう中盤。
迷っている時間ももったいないか。
仕方ない。
「ルネアスさん、私と一緒ならファミノさんが踊っても目立ちませんよね」
「それは……。ですが、カデルの娘とですよ」
差別意識?
あるわけがない。
「私には全く関係のないことです」
「……」
「問題ないですよね」
「まあ……」
「それでは」
問題ないということで。
ちょっとばかり気合が必要だが。
よし!
「お嬢さん」
ファミノの目線に合わせるように、片膝をつく。
「っ!?」
「お嬢さん、私と踊っていただけませんか?」
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