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第5章 王都編
到着
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<エリシティア視点>
「ですが、さすがに、ここまでのことは?」
「やらぬと思うか」
「……姫様を親善大使として派遣したのですから」
「うむ。私も最前まではそう思っておったわ」
いかに冷酷無情のあの兄であっても、自身が派遣した大使を襲うなどという凶行を。
しかも、隣国で白昼堂々、王統として恥ずべき蛮行に踏み切るとは。
「正直、想像の埒外だったな」
「では、なぜ殿下の指示と?」
「応戦中は気付かなんだが。野盗の亡骸の中にな、あったのだ」
「まさか」
「見覚えのある顔がな」
「!?」
「良識と恥さえ捨て去れば、なかなか効果的な一手ではある」
「……」
「ワディンでの戦況を聞く限りでは、父上の帰還の日も遠くないであろうからな。こここそが好機と考えたのではないのか」
「……」
「どうだ? 兄上の謀略とは思わぬか?」
「それは……」
「ここには、兄の手の者はおらぬ。不敬などと考える必要もないぞ」
「と、申されましても。私の口からは……」
答えられぬか。
まあ、それも分からぬではない。
「ふふ、意地悪をしてしもうたな」
「いえ……」
「よい、よい。今は答えずともよい。ただし、賊どもから真実を聞き出した暁にはな」
「……はい」
「しっかり聞き出すのだぞ」
「お任せください」
「うむ。期待して待つとしよう」
「はっ」
「それでだ。問題は今後我らがどう動くべきか?」
「……」
「こうなると、トゥオヴィをこちらに連れて来れなかったのは痛いな」
今こそ、トゥオヴィの頭脳の出番なんだが。
「彼女はワディン戦に軍監として出征中ですので」
「それも、兄上の奸計かもしれんぞ」
「……」
「いずれにしろ、ここからが勝負どころだ。良く考えねばな」
***************
野盗を制圧後。
再出発の準備が終わる頃には、結構な時間になっていた。
ここからは賊を引き連れての道行きとなるので、馬車の速度はどうしても遅くなってしまう。
日暮れまでに王都に到着するためには、ゆっくりしている暇はない。
ということで、エリシティア様の一行と連れ立って急ぎ王都へ出発することになった。
「あんな高貴な方が襲われていたとは驚きです」
馬車の中、他の乗客に聞こえないようにウィルさんが小声で話しかけてくる。
「馬車の外観から相当高い地位の方だとは思っていましたが。まさか、王女様だったなんて」
「ええ、私も驚きましたよ」
この馬車の責任者、ジンク、それにウィルさんには詳細を伝えている。
他の乗客の方たちには、今はもう問題ないと簡単に話しただけで、詳しい説明はしていない。
「でも、どうして隣国の王女様がこんな場所にいたんでしょ?」
「親善大使として王都に訪問中だと聞きました。今日はグラスブルでの用事を済ませた帰りのようですね」
「グラスブルにも? 全く気付きませんでした」
「少数で行動していたからだと思いますよ」
「そうなんですか。でも、少数の警護しかいないところを襲われるなんて、不運としか言いようがないですよね」
それは、この襲撃が計画的でなければの話。
「んん? コーキさんが近くにいたのだから、幸運だったのかな」
「……いえ、今回はジンクさんが助けてくれましたから。それで、上手くいっただけです」
「いやいや、兄さんの腕なら1人で十分だったんじゃねえか」
「そんなことはありません。ジンクさんのおかげですよ」
「……まっ、そういうことにしておくか。大見得を切ってたオレの立場もあるしな」
「つまり、ジンクさんとコーキさんが近くにいたから、幸運だったというわけですね」
「そういうこった。だよな、兄さん」
確かに、俺とジンクがいなれば襲撃が成功していた可能性は高い。
そういう意味では、まあ。
「しっかし、あの姫将軍の雰囲気はすごかったなぁ。ありゃ、噂以上だわ」
「姫将軍?」
「知らねえのか? エリシティア王女はそう呼ばれてるんだぜ」
「……」
「そういえば、聞いたことありますね」
ジンクもウィルさんも知っている。
「だろ。有名だからな」
隣国にも轟く姫将軍という異名。
的を射ている。
「そっちの兄さんは何でもよく知ってるのに、腕利きの兄さんは何も知らねえなぁ。田舎の出身か?」
「コーキさんは、遠国からオルドウに来たばかりなんですよ。ですから、キュベリッツやレザンジュの世情に疎いのも当然で」
「なるほど、なるほど。そういうことか」
ジンクにつられるように、ウィルさんの声も大きくなっている。
もう小声どころじゃない。
いいのか、これ?
戦闘後の疲れなど全くないかのように、よく喋るジンク。
その話を聞きながらも、街道の先の気配を探り続ける。
「……」
また野盗や魔物が出る可能性もあるからな。
油断はできない。
が、それは杞憂のまま馬車は順調に進み。
魔物にも、野盗にも遭遇することなく、問題が起きることもなく、無事に王都の城門に到着することができた。
「ですが、さすがに、ここまでのことは?」
「やらぬと思うか」
「……姫様を親善大使として派遣したのですから」
「うむ。私も最前まではそう思っておったわ」
いかに冷酷無情のあの兄であっても、自身が派遣した大使を襲うなどという凶行を。
しかも、隣国で白昼堂々、王統として恥ずべき蛮行に踏み切るとは。
「正直、想像の埒外だったな」
「では、なぜ殿下の指示と?」
「応戦中は気付かなんだが。野盗の亡骸の中にな、あったのだ」
「まさか」
「見覚えのある顔がな」
「!?」
「良識と恥さえ捨て去れば、なかなか効果的な一手ではある」
「……」
「ワディンでの戦況を聞く限りでは、父上の帰還の日も遠くないであろうからな。こここそが好機と考えたのではないのか」
「……」
「どうだ? 兄上の謀略とは思わぬか?」
「それは……」
「ここには、兄の手の者はおらぬ。不敬などと考える必要もないぞ」
「と、申されましても。私の口からは……」
答えられぬか。
まあ、それも分からぬではない。
「ふふ、意地悪をしてしもうたな」
「いえ……」
「よい、よい。今は答えずともよい。ただし、賊どもから真実を聞き出した暁にはな」
「……はい」
「しっかり聞き出すのだぞ」
「お任せください」
「うむ。期待して待つとしよう」
「はっ」
「それでだ。問題は今後我らがどう動くべきか?」
「……」
「こうなると、トゥオヴィをこちらに連れて来れなかったのは痛いな」
今こそ、トゥオヴィの頭脳の出番なんだが。
「彼女はワディン戦に軍監として出征中ですので」
「それも、兄上の奸計かもしれんぞ」
「……」
「いずれにしろ、ここからが勝負どころだ。良く考えねばな」
***************
野盗を制圧後。
再出発の準備が終わる頃には、結構な時間になっていた。
ここからは賊を引き連れての道行きとなるので、馬車の速度はどうしても遅くなってしまう。
日暮れまでに王都に到着するためには、ゆっくりしている暇はない。
ということで、エリシティア様の一行と連れ立って急ぎ王都へ出発することになった。
「あんな高貴な方が襲われていたとは驚きです」
馬車の中、他の乗客に聞こえないようにウィルさんが小声で話しかけてくる。
「馬車の外観から相当高い地位の方だとは思っていましたが。まさか、王女様だったなんて」
「ええ、私も驚きましたよ」
この馬車の責任者、ジンク、それにウィルさんには詳細を伝えている。
他の乗客の方たちには、今はもう問題ないと簡単に話しただけで、詳しい説明はしていない。
「でも、どうして隣国の王女様がこんな場所にいたんでしょ?」
「親善大使として王都に訪問中だと聞きました。今日はグラスブルでの用事を済ませた帰りのようですね」
「グラスブルにも? 全く気付きませんでした」
「少数で行動していたからだと思いますよ」
「そうなんですか。でも、少数の警護しかいないところを襲われるなんて、不運としか言いようがないですよね」
それは、この襲撃が計画的でなければの話。
「んん? コーキさんが近くにいたのだから、幸運だったのかな」
「……いえ、今回はジンクさんが助けてくれましたから。それで、上手くいっただけです」
「いやいや、兄さんの腕なら1人で十分だったんじゃねえか」
「そんなことはありません。ジンクさんのおかげですよ」
「……まっ、そういうことにしておくか。大見得を切ってたオレの立場もあるしな」
「つまり、ジンクさんとコーキさんが近くにいたから、幸運だったというわけですね」
「そういうこった。だよな、兄さん」
確かに、俺とジンクがいなれば襲撃が成功していた可能性は高い。
そういう意味では、まあ。
「しっかし、あの姫将軍の雰囲気はすごかったなぁ。ありゃ、噂以上だわ」
「姫将軍?」
「知らねえのか? エリシティア王女はそう呼ばれてるんだぜ」
「……」
「そういえば、聞いたことありますね」
ジンクもウィルさんも知っている。
「だろ。有名だからな」
隣国にも轟く姫将軍という異名。
的を射ている。
「そっちの兄さんは何でもよく知ってるのに、腕利きの兄さんは何も知らねえなぁ。田舎の出身か?」
「コーキさんは、遠国からオルドウに来たばかりなんですよ。ですから、キュベリッツやレザンジュの世情に疎いのも当然で」
「なるほど、なるほど。そういうことか」
ジンクにつられるように、ウィルさんの声も大きくなっている。
もう小声どころじゃない。
いいのか、これ?
戦闘後の疲れなど全くないかのように、よく喋るジンク。
その話を聞きながらも、街道の先の気配を探り続ける。
「……」
また野盗や魔物が出る可能性もあるからな。
油断はできない。
が、それは杞憂のまま馬車は順調に進み。
魔物にも、野盗にも遭遇することなく、問題が起きることもなく、無事に王都の城門に到着することができた。
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