30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

エリシティア 3

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<エリシティア視点>



 天命……。

 私を押し上げる目に見えない力。
 そんな曖昧なものを。
 今は強く感じてしまう!

「……」

 天命の陰で散った戦士。
 私のために逝った勇敢な戦士たちよ。

 私は進む!
 今もこれからも。
 お前たちの屍を越えて、私は進み続ける!

 非情だと、そしらば誹れ。
 愚かだと、笑わば笑え。

 だが、戦士たちよ。
 グラズヘイムで、ヴァルハラで、しかと見ておれ。
 この私が玉璽を掴む姿を。

 お前たちの屍の上に天を掴むところを!




「姫様……」

「……」

「あの者たちも本望でしょう」

「……ふむ」

「彼らの献身を無駄にしてはなりませぬ」

 何を今さら。

「当然のことを!」

「はっ」

「ウォーライルよ、私がいつまでも落ち込んでいると思うておるのか?」

「……」

「ふっ、そんなわけなかろう」

「では?」

「天運ともいえる一助をもたらした、コーキとジンクのことよ」

 先の襲撃。
 九死に一生を得ることができたのは、全てコーキとジンクの力によるもの。
 この2人がいなければ、私は今この馬車の中にいることはできなかったであろう。

「彼らのことを考えておったのだ」

「そうでしたか」

「ふむ……」

 ふたりとも素晴らしい腕前だった。
 特に、コーキの魔法は凄まじかった。

 騎士たちも皆、口々に褒め称えておったな。
 ウォーライルにいたっては、エヴドキヤーナ殿の名前を出すほど。

 一撃で10人以上の賊を戦闘不能に陥らせたのだから、それも分からぬではないが……。
 さすがに、エヴドキヤーナ殿ほどではなかろう。

 それでも、素晴らしい魔法の使い手であることに疑いはない。
 身のこなしも相当なものであった。

「……」

 魔法の名手であり、さらに戦士でもある。

 欲しいな。
 あの者を我が陣営に。


「……どう見る?」

「コーキ殿のことでしょうか?」

「うむ」

「一介の冒険者には見えませぬが、かといって間諜の類とも思えませぬ。もちろん、姫様を害する意図なども持っておらぬでしょう」

「腹に一物は抱えておらぬ、か」

「はい」

「……」

 馬車の窓から後ろに目をやると、そこには我らに付き従うように進む乗合馬車が目に入ってくる。

 何の変哲もない乗合馬車。
 冒険者連中が乗るであろう一般的な馬車だ。

 あやしい所など、何も見当たらぬ。

「あれが、ただの冒険者。偶然通りかかった冒険者か」

「おそらくは」

 信じがたいが、信じるしかないのだろうな。

「……」

「エリシティア様、何か?」

「剣姫イリサヴィア、幻影ヴァルター、共にこの国の冒険者であったな?」

「はい。ふたりとも、キュベリッツ王国に籍を置く冒険者です」

「この国の冒険者レベルは高いのか?」

「剣姫や幻影は特殊な例外でしょう。私の知る限りでは、レザンジュとキュベリッツの冒険者の腕に大きな差はないかと」

「……」

「レザンジュには、シャリエルンもおりますし」

 確かに、レザンジュにもシャリエルン率いる精鋭冒険者がいる。
 あの者たちの腕も相当なものだ。

「コーキも例外、特別ということか」

「はい」

「まだ名も売れておらぬ図抜けた冒険者」

「……」

「欲しいな」

「味方にできるなら頼もしいのですが、あのような冒険者を引き抜くのはなかなか……」

「やつらは自由を好む」

「その通りです」

「シャリエルンもそうだが、冒険者の扱いは難しいものだな」

「まことに」

 とはいえだ。
 シャリエルンは冒険者であっても、有事には私に与するはず。

 コーキとも良い関係を……。

「それが一流の冒険者なのでしょう」

「一つの生き方か」

「……」

 自由に生きる。
 ふふ、真逆の人生だな。

「まっ、問題はなかろう」

「問題ですか?」

「あやつが兄上の下に行くようなら障害にもなり得るが、良くも悪くもキュベリッツの冒険者であるからな」

「……」

「今の私には益にも害にもならんだろう。いや、今回は大きな益をもたらしてくれたな。そして、兄上には害をな」

「……」

「そうは思わぬか」

「姫様、それは……」

「気にせずともよいぞ」

「ですが」

「相変わらず真面目なやつだ」

「……」

「私がキュベリッツを訪れたこの時期。このタイミング。賊の動き。全てがそれを示しておる」

「……」

「今はまだ何の証拠もないがな」

 キュベリッツへの訪問を提案し、私に命じたのは他ならぬあの兄。
 今日この地を移動していることのみならず、こちらの予定も動線もすべて把握しているはず。

 何より私を排斥すべく、ずっと……。

「父上たちがワディンに進軍している今は好機であろう」

「……」

 とはいえ、まさかこのような蛮行に及ぶとは思っておらなんだ。
 明らかに油断だな。

 情けない。
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