30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

黒と白

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「コーキ先生、フォルディさん、こちらです」

「シアさん、ボクまでいいんですか?」

「もちろんですよ。さあ、どうぞ」

 お茶の用意ができたということで屋敷内に招かれ、テーブルに案内される。
 白を基調とする落ち着いた空間。
 大きな窓からは暖かな陽光が降りそそいでいて、とても心地が良い。

 その柔らかい空気の中にセレス様。
 変わらぬ凛とした佇まいが、陽光の中で一層存在感を際立たせているようだ。

「……」

 やっぱり、セレス様にはこんな空間が似合っている。
 魔落の岩肌の中で過ごした日々を思い出し、そう感じてしまう。


「どうぞ、お座りください」

 指定された席に足を向けると。

「コーキさん、お久しぶりです」

 セレス様が席を立ち、出迎えてくれた。

「クウーン」

 ノワールもだ。

「セレス様、オルドウを散策して以来ですね。変わりはありませんか?」

「はい、私は。シアとアルのおかげで、楽しく過ごせております」

「それは、良かった」

 新雪のように真白な肌と腰まで伸びた白に近いプラチナ色の髪、それに薄紅色の瞳。
 他では見かけることもない特徴を持つのがセレスティーヌ様。

 もちろん、目立つのはそれだけではない。
 非常に優れた容貌に強い意志を秘めた瞳。
 発する雰囲気。

 次元が全く違う。
 これで人目に付かないわけがない。

 ちなみに、シアもかなりの美形だ。
 セレスさんと一緒にいるから目立たないけれど……。

 容姿も良く、性格も良い。
 ヴァーンが惚れるのも納得だな。

 そんなシアとセレス様。
 とてもお似合いの主従だよ。


「ふふ、ありがとうございます。それで、そちらの方がフォルディ様」

「はい、こちらは私の友人のフォルディさんです。いつもお世話になっているんですよ」

「そんな、お世話になっているのはこちらの方で……。フォルディです、よろしくお願いします」

「こんな姿で申し訳ありません。私はセレスと申します。フォルディ様のお話は伺っておりましたが、こうしてお会いできて嬉しいです」

 こんな姿と言うセレス様。
 今は髪と顔をベールのような物で隠している。

「そんな、ボクなんか……。その、フォルディとお呼びください」

「では、フォルディさんとお呼びしても?」

「あっ、はい、それでお願いします」

 セレス様のことは貴族の令嬢だと伝えただけなのだが、フォルディさんのこの狼狽えた様子。
 やっぱり、セレス様は別格だな。

「それでは、セレス様。お茶をお淹れしますね」

「ええ、お願い」

 席を立つシア。
 お茶を淹れる仕草も手慣れたもの、か。

「ところで、セレス様。それ取っても大丈夫だと思いますよ。そのままじゃ、お茶を飲むのも大変ですし」

 アルが指摘するのはセレス様のベール。

「……コーキさん?」

「ええ、私も問題ないと思います」

 神娘であるセレス様の外見については、それほど知られているわけじゃないらしい。
 それなら、ある意味引きこもりであるエンノアの者が彼女を見ても、ワディンの神娘であると見抜くことはまずないだろう。

 それにまあ、仮に見抜いたとしても、フォルディさんが害のある行動をとるとは思えない。
 それは間違いない。

 ということで、ワディンの神娘であることは隠した上で簡単に事情を話し、フォルディさんには理解してもらった。

「それでは、失礼します」

 ベールを外し、素顔をあらわにするセレス様。

「……!?」

 うん?

「白……!!」

 驚愕の表情で呟くフォルディさん。
 セレス様の美しさに驚いたのか?
 
 それとも、神娘と気づいた?

「白と……黒! 白黒!!」

 いや、違うか。
 呟く言葉が白と黒なんだから。

「って、あ! 申し訳ありません。ボーッとしてしまって」

「……大丈夫ですか?」

「ええ、すみません。つい、見惚れてしまいまして……」

 そうなのか?

「本当に申し訳ありません」

「いえ……」

 それにしても。
 白というのは分かるが、黒というのは?






※  第2章でゼミア長老たちが語っているエンノアの救世主に関する話。
   『黒と白がエンノアを救う』というような預言があるようです。
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