30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

和見幸奈 3

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<和見幸奈視点>


 この梅の枝を見ている時は、幸せでいられる。
 花言葉とは真逆。
 忍ぶ心なんて必要ないと、この時ばかりは思ってしまう。

 本当に大切な、わたしの大切な宝物。

「……」

 宝物をくれた功己。
 子供の頃より距離ができてしまった功己。

 そんな功己が最近変わった。
 昔のように、わたしに親しく接してくれるようになったのだ。

 何が起こったの?

 理由なんか、まったく分からない。
 でも、でも、こんなこと!

 信じられない。
 頑張って良かった。
 生きていて、良かった。

 嬉しい!!

 そう思っていた。
 そう思っていたのに……。

 なのに、今度は武志が!



 武志……。

 可愛かった武志。
 嫌いだった武志。
 優しかった武志。

「……」

 今辛い思いをしているのは、わたしだけじゃない。
 父も母も同じ。

 母は見るからに元気をなくしている。
 わたしに対する態度はいつも以上に酷いものがあるけれど、母が憔悴しているのは明らかだ。

 父は平気な顔をしている。
 でも、実際は大変な心労を抱えているのだろう。
 わたしに対する言動が日増しにきつくなっているのを見ても、それは確かなことだと思う。
 今まではまるでそこに存在しないかのように、わたしに対しては無関心だったのに。

「……」

 武志のいない和見家。
 父と母のそんな状態にずっと耐えていたけれど、わたしの身体も心も悲鳴を上げ始めているのが分かる。

 頭では理解できることを、身体が拒絶し始めているのだ。

 こんな状況で、わたしは……。

 どうしたらいいのか分からない。
 けど、武志がいなくなった理由がわたしにあるのだとしたら……。

 もう何もかも投げ出してしまいたい、ついそう思ってしまう。

 この家が嫌だ。
 わたし自身も嫌いだ。



 父と母が変わったあの頃から、ずっと自分が嫌いだった。
 自分がこんな娘だから愛されないのだと思って、何度も何度もわたしは……。

「……」

 異能のことを知って、真実を知って、考えが少し変わったけれど、それでもわたしの中には根強く自己否定が残ったまま。

 それが不健全なことだと、頭では理解しているけれど……。

 どうにもならないくらい深く心に刺さっている。
 自分で取り除くことなんてできないほど。

「……」

 そんな思いを消し去ってくれるのが功己。
 功己と会っている時だけ、そんな自分から解放される。

 でも、今は……。


 そんなことばかり考えていたからだろう。
 久しぶりに昔の夢を見た。
 今はもう分かっていることなのに、それでも辛い夢。



『姉なのだから武志にあげなさい。冷たい子ね』

 いたい!
 痛いの!

『本当、どうしようもない娘だわ』

 もうやめて!
 そんな目でわたしを見ないで!

 これは武志にあげるから。
 優しい子になるから。
 だから、わたしのことを嫌わないで。

『異能の血さえ継いでいなければ、こんな娘……』

 ああ、お母様……。
 わたしを見捨てないで。



 長い間聞くことのなかった言葉がわたしの胸に爪を立ててくる。
 もうとっくに諦めていたはずなのに、涙が溢れ出てきてしまう。

「ううぅ……」

 夢から覚めた後もしばらくは、起き上がることができなかった。
 ほんの少しうたた寝をしただけだというのに、とても身体が重い。

 とはいえ、いつまでもこうしてはいられない。
 もうすぐ夕食だ。
 その時間に食卓に着いていないと、何を言われるか分からない。

 涙の痕を洗面所で洗い流していると、玄関のチャイムが鳴った。

 誰?

 急いで確認したモニターの中、そこに映っていた訪問者は……功己!

 どうしたのかしら?

 昨日会ったのに?

 昨夜カレーを作ってあげたばかりなのに……。






********************************


・梅の話は、第1章『序 10』になります。
・功己の訪問は、第4章『手料理 1、2』の翌日、『和見家 1』話の話になります。


※ ここで、各人の異能認識について少し整理しておきます。

・和見父
 幸奈の異能知識を認識  武志の異能知識を認識せず、異能を持つことも認識せず。

・和見幸奈
 武志の異能知識を認識せず、異能を持つことも認識せず   父の異能知識は認識。

・和見武志
 幸奈、父の異能知識を認識せず。

・功己
 武志が異能を持つことのみ認識。

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