30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

和見武志 1

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<和見武志視点>


 このままじゃ駄目だ。

 姉さんが壊れる。
 壊れてしまう。

 どんな手を使っても、それだけは避けないと!

「……」

 姉さんを助けるには、家を出る必要がある。
 あの地獄のような家を脱出しなきゃいけない。
 できるだけ早く。
 可能なら年内に。

 それなのに、もし僕が捕まったら?
 今ですら限界に近い姉さんは?

「……」

 姉さんは本当に良く頑張っている。
 頑張り過ぎるくらい頑張っている。

 もう充分。
 これ以上は必要ない。
 姉さんは家を出るべきなんだ。

 けど、姉さんは和見家から離れようとしない。
 もう大学生なんだから、可能なのに。
 あんなに辛い目にあって、いつも苦しい表情をしているのに。
 どうして?

 姉さんに理由を聞いても僕には教えてくれない。
 ただ静かに微笑んで、家を出ることはできないと答えるだけ。

 和見家で、もう何年も酷い扱いを受け続けているのに。

「……」

 だから。
 僕が助ける!

 姉さんが自分で家を出ないというのなら。
 僕が連れ出してやる!
 それだけだ。

 ただ……。

 そう決意しても、僕には力もお金もなかった。
 姉さんを助ける術なんて何も持っていなかった。

 この異能を手にする前までは!

「……」


 あの家に歯向かうのは簡単なことじゃない。

 とんでもなくいびつで歪んでいる和見家。
 それでも、持っている力は絶大だ。
 和見家の資産や権力は並じゃない。

 そんな大きな力を持つ和見家の当主である父さんに、高校生の僕がどうやって立ち向かうというのか。

 僕ができることなんて……。

 そう思い嘆いている間にも、姉さんの状況は悪くなるばかり。
 僕は自分の無力さに押しつぶされてばかり。

 そんな日々を送っていたある日。
 僕に天からの恩恵が与えられたんだ。

 それは異能。
 結界を使いこなす力。

 最初は……。
 異能なんてものの存在を知らなかった僕は、ただ戸惑うだけだった。
 わけの分からない力を手にしてしまった自分に怯え、戸惑い、閉じこもる毎日だった。

 そんな僕を救ってくれたのが橘さん。
 橘さんが僕に新しい世界を見せてくれた。

 異能とは何なのか、その使い方、価値、日本における異能者の立場。
 それらを橘さんは僕に教えてくれた。
 想像もできないような話だったけれど、橘さんの話を聞いて色々と納得したし自信を持つこともできた。

 そして、何より。

 今の僕なら姉さんを助けることができる。
 この力はそのためのもの。
 そう確信できたんだ!

「……」

 もうすぐ姉さんを助けることができる。
 あの家から救い出せる。
 そう思っていたのに……。


 そんな僕が今捕まってしまったら?
 想像しただけでも、恐ろしくなってしまう。


 駄目だ!
 僕が弱気になってどうする。
 僕以外誰も姉さんを助けることなんてできないんだぞ。

 そうだ。
 やるしかない。
 次は勝つしかない。

「……」


 あいつが……。
 あいつが姉さんを助けてくれていれば……。

 よそう。
 今さら考えても、どうしようもない。

 僕にできるのはこの異能を使うことだけ。
 今度こそは上手くやってやる。




**********




 廃墟ビルで異能戦が行われた翌日。

 一晩経っても頭の中は変わらない。
 幸奈のこと、そして武志のことばかり。

「……」

 ついつい考え込んでしまう。
 思い悩んでしまう。

 けど、そんなことをしても何も得ることなんてできない。
 悩む暇があったら動くべき。
 そうやって俺は生きてきたんだろ。

 なら、どうする?

 武志の行方を探るしかない。
 とにかく動くんだ。


 まずは武志の通う高校とその周辺に足を向ける。
 さらに、以前の武志がよく立ち寄っていた場所を回り、廃墟ビルやあの公園なども捜索してみる。

 一日かけて歩き回ったものの、成果はなし。
 それも想定内だ。

 翌日以降も、思いつく限り幾つもの場所を回ってみる。
 時間を置いて、同じ場所に複数回足を運ぶ。

 それでも、武志の姿もその痕跡も全く見つけることができなかった。

 こうなると……。
 またぞろ無駄な思索がぶり返してくる。
 足が止まりそうになる。

「……」

 駄目だ。
 今は動きを止めちゃいけない。
 やれることをやり続けるのみ。

 続けて、続けて、武志を見つけ出してやる。
 橘の下から連れ戻してやる!


 とまあ、そんな毎日を過ごしているわけだが。
 やはり、オルドウのことも気になってしまう。

 なので、日本時間の深夜にオルドウに移動し、朝に戻ってくるという生活を送ることにしたんだ。
 これなら、オルドウに着いてすぐ仮眠をとったとしても7、8時間はあちらで活動できる。
 その後に日本に戻れば問題もないだろう。

 異世界間移動の時間差は、こういう時に助かるな。
 オルドウで12時間過ごしたとしても、日本では6時間しか経過していないのだから。


 というわけで、久々のオルドウ。
 まずはセレス様の様子を見るため、シアとアルがセレス様に用意した家に足を向けることにした。
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