30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

廃墟ビル 14

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「今度はこっちの番だな!」

 いまだ呆然と立ち尽くしている橘に接近するも。

「ちっ!」

 またもや瞬間移動。
 あと一歩のところで、逃げられてしまった。

「お前、何者だ?」

 声が遠いな。
 今回は俺の背後じゃないのか。

 その橘は……。
 少し離れた屋上の端に立っている。

 瞬間移動から直接攻撃に移ることなく、俺から距離をとったと。

「本当に普通人なのか?」

「……もちろん」

 こうやって逃げ回られると、捕まえるのに時間がかかってしまう。
 厄介だな。

 いや、そうでもないのか?
 SP切れが近い今なら……。

「それが本当なら、大したものだ」

 SPが底を突いた時点で終了。
 ただし、橘が逃走を図らなければの話か。

「異能なしで異能者の攻撃をここまでしのぐとは」

「……」

「しかも、この俺の攻撃を……信じがたいことだな」

 やつを逃がさないためには、どうすればいい?
 やはり、一撃を入れて倒すしかないのか。

「ひとつ聞こう。異能者でもないお前がなぜ鷹郷に付く?」

「……」

「無関係のお前がなぜ鷹郷を選ぶ?」

 それは古野白さんがいるから。
 あと、武上も。
 それに。

「そっちが里村をさらおうとしたからだ」

「あの人質か。なるほど……。それについては謝ろう。それに、彼を害する意図はなかった」

「だから?」

「こちらに付く気はないか?」

 古野白さんを裏切れと。
 そんなことするわけがない。
 が……。

「何のために?」

 理由だけは聞いてやる。

「我々の理念を実現するためだ」

 理念の実現とは抽象的なことを。
 そんなもの、古野白さんも鷹郷さんも同じだろ。

「異能者を解放するという理念だ」

「……」

 解放?

「有馬、橘の話を聞く必要はねえ。全てそいつの妄言だ」」

「そうよ、私たちは自由なんだから」

 そうだよな。
 どう考えても、ふたりに解放が必要だとは思えない。

「そのふたりは洗脳されているだけだ」

「それも出鱈目だからな」

「いいや、真実だ。実際に、このふたりは鷹郷の指示で動いている。自由意志なんかじゃない」

「何言ってるの。私は私の意志で動いているわよ」

「本当にそうなのか? 自由なのか?」

 自由。

 その言葉はとても甘く、そして重い。
 30年も異世界に焦がれ続けた俺にとっては、何よりも……。

「当たり前でしょ」

「ああ、オレたちは動きたいように動いてるぜ」

 古野白さんと武上が真に自由なのか?
 そんなこと俺には分からない。
 ただ、ふたりは自身を自由だと思っている。

 なら、それでいい。

 確かに、組織の制約なんかは存在するだろう。
 洗脳とは言わないまでも、それに近いものもあるのかもしれない。

 けど、それが組織ってもんだろ。
 その中で自由だと思っているなら、それが自由なんだよ。

「こちらに付いて、一緒に解放を自由を目指さないか?」

「……」

 その言葉。
 軽く使うもんじゃない。

「橘の話なんか、聞いちゃ駄目よ!」

 ああ、分かってる。

「どうかな?」

「残念ながら、あなたに付く気にはなれない」

「ふっ。それこそ、残念な話だ」

「……」

「やむを得ない、か」

 ああ。
 ここで決めよう。

「本当に残念だよ」

 懐から、またナイフを取り出す橘。
 今度は小ぶりなナイフ。
 それを2本だ!

「これで」

 っ!
 2本はまずいぞ。

 仕方ない!

 瞬時に魔力を体内に巡らせ、身体全体を強化。
 効率無視の速度重視。
 粗くてもいい。
 とにかく強化を!

「終わりだぁ!」

 立て続けに2本を投擲。
 そして消失。

 強化は、よし、間に合ったぞ。

「……」

 どこだ?
 どこから来る?
 
 そこかぁ!

 ほんの僅かな時間差で、俺の真後ろと左横に2本のナイフが現出。
 橘もこちらに走り寄ってくる!

 避けるか?
 いや、ここは。

 半身になり、後ろのナイフに上段の横蹴り!
 右足裏でナイフを蹴り上げる。

 バーン!

 右足を蹴り上げたまま、左足を軸にして90度回転。
 次は後ろ回し蹴りだ!

 バキッ!

 左横から飛んできたナイフを粉砕。

「なっ!?」

 そこに突っ込んできた橘。
 驚愕の表情を浮かべている。
 また転移を使うつもりだろうが。

 驚愕のその一瞬が命取りなんだよ!

 回し蹴った勢いで跳躍。
 空中で半回転し右足で着地。
 そのまま右足を軸にした左の回し蹴りを橘に!

「ぐっ!!」

 入った!
 橘の脇腹に吸い込まれるように中段蹴りが入った。

「うぅぅ!」

 鈍い感触が左足に……。
 少しやりすぎたか。

「ううぅぅ」

 膝から崩れ落ち悶絶する橘。
 転移をする余裕もなさそうだ。

 それでも、一応。
 うつ伏せに呻いている橘の襟を持ち上げ、胸に手を当て。

「うぅぅ」

 掌底を。

「っ……」

 意識を刈り取ることに成功。
 これで、逃げられることもないだろう。

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