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第4章 異能編

廃墟ビル 6

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<古野白楓季視点>



 4階で倒した炎の異能使いをロープで拘束した後。
 鷹郷さんが尋問したのだけれど、有益な情報はほとんど手に入れることができなかった。

 どうやら、この男。
 あいつらの仲間になったのは最近のことで、ただの下っ端らしい。
 詳しいことを知らないのも当然ね。

「こいつも連れて行くしかねえか」

「そうね」

 ロープで拘束済みとはいえ異能者を放置するのもはばかられる。
 余計な荷物が増えてしまうけれど仕方がない。
 ガムテープで口をふさいだ男を連れ、捜索を再開することに。




「あとはもう屋上だけですね」

「そうだな」

 5階から8階まで捜索したものの、結局彼らの姿を見つけることはできず。
 残るは屋上だけ。
 追い詰めたと考えていいのか、それとも……。

「あいつら、下に逃げてねえだろうな」

「それはないでしょ」

 ここで逃げるなら、何のために廃墟ビルにやって来たのかってことになる。

「屋上での戦いになりそうだな」

「はい」

「やっと戦えるぜ」

 鷹郷さんと武上君と私。
 万全の3人が揃っている状況。
 人質もいない。
 何も問題はない。

 ただ、この暑さは……。

「しっかしよぉ、このくそ暑い中、迷惑な連中だぜ」

「……」

 廃墟ビルの中なのだから、冷房などあるはずもなく。
 私たち3人は全員が汗にまみれている。

 シャツが肌に張り付いて不快でしかない。
 けど、もうそれも終わり。

 決着をつける。
 屋上で幕引きよ。

「おかげで、体力を削られちまった」

「やむを得まい。それより、ふたりとも分かっているな」

「もちろん」

「はい」

 屋上では、敵がこちらを待ち伏せているに違いない。
 何らかの仕掛けがある可能性も考えられる。

 それでも、ここは突入するしかないのだから。
 十分に警戒して進むだけ。

「屋上に出る前に、こいつの足も拘束しておこう」

 鷹郷さんの指示通り、炎の異能者の足をロープで拘束。

「うっ、うっ!」

「準備完了です」

「よし。いくぞ、突入だ!」

 その声と共に屋上への扉が開かれた。
 夏の強い陽光が目に入り、僅かに目を閉じてしまう。
 けど、そんなこと構ってられない。

 まずは、炎の異能者を屋上に転がす。
 そして、屋上に足を踏み入れ散開。

 敵はどこ?

 いた!

 屋上中央の少し奥。
 屋上の端よりに位置する出入り口から離れた地点に、ふたりが立っている。
 嫌な嗤いを浮かべながら。

「遅かったなぁ。待ちくたびれたぜ」

 喋るのは氷使いのパーカー男。
 傍らには念動力使い。

 この2人以外に敵は見当たらない。
 2人だけ?
 他にもいると思っていたのに……。

「2人だけみたいだぜ」

「相手がどうあれ、油断はするなよ」

「了解」
「了解」

 でも、本当にこれだけ?
 何もないの?

 敵は2人で、異能も使ってこない。
 待ち伏せの利点がない。

 どういうこと?
 こっちにとっては、助かるけれど……。

「元々お前らが勝てるチャンスなんてほぼねえけどよ。完全に勝機を逃したなぁ」

 不敵に言い放つ武上君も、不審に思っているのは間違いないわ。
 目がそう語っているもの。

「はっ、そんなわけないだろ」

「……」

 口の端に嗤いを残したまま。
 やっぱり、何かある?

「話は後でいい。ふたりとも、プランBだ」

 鷹郷さんの言葉に、止まっていた身体が反応する。
 勝手に動く。

 もう何度も行ってきたシミュレーション。
 染み付いている動き。

 武上君が駆ける。
 鷹郷さんが続き、私も。

「……」

 そうね。
 少し疑問は残るけれど、今は相手を倒すのみ。




***************************




「ここだよね?」

「ああ、このビルだ」

 里村とふたり、炎天下の中を歩き続け。
 目的地である廃墟ビルの前に到着した。

「思ってたより静かだよ」

「……そうだな」

 ビルの入り口にも周りにも、人の姿は見えない。
 戦闘音も聞こえない。
 静かなものだ。

「……」

 このビルは今秋に取り壊され新しいビルが建造される予定ということで、周りには仮柵が設置され立ち入り禁止の看板が置かれている。

 そんなビルの中に正面から堂々と入って行くのは、さすがに躊躇してしまう。
 この暑さもあって、近くに人がいないのはありがたいことだが……。

 とりあえず、ビルの周りを調べるか。

 仮柵を越え、ビルの敷地内へ足を踏み入れる。
 そのまま裏手に回り、周りに問題がないか確認。

 特に何もない、か。

「誰もいないし、問題もなさそう」

 里村の言う通り。
 人影どころか、気配すら感じない。



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