上 下
279 / 1,194
第4章 異能編

廃墟ビル 2

しおりを挟む

「ツーツーツー」

「……」

 古野白さんの声が途切れ、電子音だけが響いてくる。

 嫌な予感が当たったというか、予想通りというか。
 これはもう……。

 異世界露見的には近づいちゃいけない状況。
 距離を取るべき案件なんだろうな。

 とはいえ、ここで退き返すという選択肢は俺にはない。
 廃ビルに行くという一択のみ。

 ただし、やみくもに動くつもりもない。
 廃ビルで、古野白さんが危ないようなら手を貸す。
 問題がないなら、隠れて様子を見るだけ。

 この方針で進めるつもりだ。

 まっ、里村が敵の手に落ちていない現状では、そこまで大きな問題もないはず。
 そう思いたいものだが、電話の切れ方が気になってしまう。


「有馬くん?」

 ずっと、こちらの様子を窺っていた里村。
 気になるのも当然だな。

「何の話だったの?」

 どう考えても、廃墟ビルは安全じゃない。
 里村は連れて行かない方がいいよなぁ。

「何の電話だったの?」

「……廃ビルに来る必要はない、と」

「それ、嘘だよね」

「……」

「嘘だよね」

「……悪い」

「もう! ボクを連れて行きたくない気持ちは分かるけど、今さらだよ。何があっても驚かないからさ、一緒に行ってもいいでしょ」

「……」

「さっきは良いって言ったよね」

「まあ、な」

「じゃあ!」

 仕方ないか。

「……分かった。けど、約束は守れよ」

「もちろんだよ。ありがと、有馬くん」




**************

古野白楓季このしろふうき視点>



鷹郷たかごうさん、あいつら本当にこのビルに現れるんですか?」

「そういう情報が入っている」

「そうでしたね。でも、私たちふたりで……」

 今回は急な出動だったので、人数を集めることができなかった。
 だから、鷹郷さんとふたりで事に当たっている。

「心配か?」

「いえ……」

 そうは答えたものの。

「……」

 鷹郷さんの力は十分理解している。
 対異能における経験も能力も疑いようがない。
 それでも、敵が何人いるか分からない現状。
 あの橘もいるかもしれない状況。

 ふたりでは心許ない、そんな気がしてしまう。

「心配は無用だ。武上も呼んだからな」

「武上君が! 連絡がついたんですか?」

「ああ、さっきまでは着信に気付かなかったそうだ」

「……」

 武上君、何やってるのよ。
 何のために携帯電話が支給されていると思ってるの!

 本当にいい加減なんだから。

「すぐ来るそうだ。3人いれば安心だろ」

「それは、まあ……」

 2人と3人では大違い。
 これで少し気持ちが楽になった。

「だから古野白君、もうしばらく待機するぞ」

「はい、分かりました」

 鷹郷さんとふたり、廃墟ビルを監視できる場所に姿を隠して敵が現れるのを待つ。
 敵より先に、武上君に到着してもらわないと困るのだけれど。

「古野白君には苦労を掛けるな」

「いえ……」

 最近は私が敵の矢面に立つことが多い。
 鷹郷さんは、それを気にしてくれているのだと思う。
 でも、全ては私が望んだこと。
 後悔はない。

「鷹郷さんには、いつも助けてもらっていますから」

「……」

 私がこうしていられるのは鷹郷さんのおかげ。
 その思いに偽りはない。

 ただ、このところの騒動では……。
 鷹郷さんではなく、彼の力ばかり借りているような気がする。

 彼の助けなかったら私は今頃どうなっていたことか?
 あの結界に捕らわれて……。
 想像するだけで、気分が悪くなるわね。

 まあ、でも今は。

「集中しましょうか」

「そうだな」

 そんな少し居心地の悪い会話をしながら待つこと数分。

「よお、お待たせ」

 武上君が到着した。

「遅いわよ」

「そっかぁ? 敵さん、まだ現れてないんだろ」

「そうだけど」

「なら、問題ねえな」

 相変わらず、緊張感がない。
 もっとしっかりしてほしいのに!

「オレに任せとけ」

「……」

 これでいて実戦では頼りになるのだから、あまり文句も言えないのよ。
 ほんと、彼の身体強化は凄いから。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

処理中です...