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第3章 救出編
異世界人
しおりを挟む「その、私は異世界人ですが、こちらの世界の人々と特に変わりはないと思いますので、今まで通り接してくれれば嬉しいです」
「えっ? 何を言ってるの?」
「……」
何って、どういう意味だ?
「私はコーキさんが異世界人でも全く気にならないわ。あなたが恩人であることに変わりはないし。ただ、少し驚いただけよ」
そういうことか。
「ありがとうございます。嬉しいです」
気にしないという言葉。
ありがたく受け取っておこう。
「それより、コーキさん、また口調が硬くなってるわよ。もっと、楽に話すって約束したでしょ」
「そうなんだけど、もうすぐシアたちと合流するかもしれないからさ」
「それまでは楽にして」
「……分かった」
「それで、話を戻すけど、あなたが異世界人ってこと周りの人は知っているのかしら?」
「誰も知らないんだ。それで……セレス、お願いなのだけど、異世界人だってことは黙っていてもらえないかな。できれば、ふたりだけの秘密で」
「ふたりだけの秘密……。え、ええ、いいわよ。あなたがそう言うなら秘密にするわ」
「ありがとう。本当に助かるよ」
「そこまで安心するって、秘密が漏れるとまずいことでもあるの?」
これは……。
セレス様には話しておいた方がいいかもしれないな。
「異世界人であるという事実が3人に知れたら、この世界に存在できなくなるんだ」
「えっ!? そんな……。嘘でしょ?」
「残念ながら本当なんだよ」
「……そうなの? だったら、私以外のふたりの人に知られたら元の世界に送還されるってこと?」
理解が早くて助かる。
「そうなるかな」
「本当に……。分かったわ! 絶対誰にも話さない」
「ありがとう」
「いいのよ、そんな事なんでもないわ。あなたが私にしてくれたことに比べたら。それに、会えなくなるのは……」
ありがたいことだ。
セレス様の言葉なら信じることができるな。
秘密にしてくれるのは本当に助かる。
「とにかく、黙ってる!」
「助かるよ」
これで一安心。
「と、ところで、トトメリウス様が私の停滞を緩和してくださったという話だけど」
ああ、それも話さないとな。
「どういうことなのかしら?」
「それについては……」
セレス様がワディンの神娘であることと、その異能についての話は既に聞いている。
今はほとんど使えないという話もだ。
なので、彼女のステータス画面を確認し鑑定した結果を伝えることにした。
ステータス画面に関しては話が長くなるので、今は適当にごまかしながら伝えたんだけどさ。
「……本当なのね」
「本当です。それに、祝福は本来ワディン領でしか使えない力だったようですが、今はワディン領以外でも使えるようです。力は弱まるみたいですけど」
セレス様の持つ祝福のスキル。
それは祈りを捧げることで生物、植物などの持つ生命力を増進させるというもの。
具体的には、成長促進、免疫力向上、HP回復、そんなところかな。
とにかく、非常に優れた力だ。
「嬉しい……」
ただ、もう1つの能力である予知はワディン領以外ではほぼ使えないみたいだ。
それを伝えたところ。
「えっ、だって、それならあれは!? さっきも? でも、ほぼということなら……」
ひとりでぼそぼそと呟きながら考え込んでしまった。
が、それも少しの間だけで、その後は祝福が使えるだけありがたいと、喜んでいたな。
事実を伝えた俺としても一安心といったところだ。
ああ、そうそう、加護についても伝えたのだが、これに関しは詳細が分からないので加護が存在するという事実だけを伝えるにとどめた。
まあ、それは既にトトメリウス様に聞いて知っているんだろうけどさ。
ということで、シアたちに合流する前に話しておきたいことは全て話し終わった。
日も随分と傾いてきたことだし、そろそろ下山するとしようか。
歩くこと数分。
「ゴホッ、ゴホッ」
セレス様が咳込んでいる。
「大丈夫ですか」
「ええ、平気」
神域を離れてから、咳が増えているんだが……。
「それより、コーキさん。あそこにいるのは?」
「見えてきましたね」
俺にとっては、随分と久しぶりに見る景色。
テポレン山と常夜の森の境界に位置する空地が目に入ってきた。
まだ少し距離はあるが、木々の隙間から空地を眺めることができる。
「シアたちが待ってくれているみたいです」
シアとアル、それにギリオンとヴァーンベック。
他にも2人の冒険者っぽい者がいるな。
あっちは、まだ俺たちに気づいていないようだが。
「本当に到着したのね……。本当に!」
「ええ、到着です」
「よかったぁ……」
「……」
ああ、本当に良かったよ。
ここまで苦労したからなぁ。
感慨ひとしおというのも納得できる。
俺も胸にくるものがあるし。
……。
「セレス様、それで、この後ですが」
「ええ」
「地下大空洞やトトメリウス様のことは秘密で。この20日以上の期間は無かったということで」
俺が異世界人であることを含めそのあたりの話は複雑なので、もう一切なかったことにしようと2人で決めている。
そもそも、この世界では数時間しか経過していないのだから。
「分かっているわ」
「では、行きましょうか。それと、口調はこれでいきますからね、セレスティーヌ様」
「分かったわ。いえ、分かりました。ただし、セレスティーヌは止めてくださいね」
「了解いたしました。セレス様」
「では、参りましょうか」
「ご随意のままに」
恭しく頭を下げたまま右手を差し出す。
セレス様が俺の手を取る。
「ふふふ、行きましょう」
**************
<セレスティーヌ視点>
トトメリウス様の神域を出てから、なぜか頭痛が治まらない。
咳も出るし、呼吸も苦しいような気がする。
久しぶりに、あの領域を出たからかしら。
空気の違いなのかな。
でも、これくらいなら平気。
もう、そこにシアたちが待っているのだから。
我慢できる。
それより、今は。
「コーキさんは……異世界人なのね」
「……そうですね」
「本当なのね」
「ええ、この世界とは異なる世界からやって来ました」
やっぱりそうなんだ。
本来なら驚きで呆然とするところだけど、なぜだかスッキリと腑に落ちたような感覚でいっぱいになる。
だって、コーキさんの今までの行動は、私の知っている誰ともちがう。
普通の人じゃないって思っていたから。
だから、異世界人と聞いても納得するだけだった。
それに、テポレン山の地中で何度か見た夢。
見たこともない、全く知らない世界に私がいる夢。
想像もできないくらい高い建物、絵の内容が次々と変化し音まで出る絵画、馬なしで走る馬車……。
もう何が何だか分からない夢。
でも、まるで現実のように感じられた。
あの感覚は予知のもの……。
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