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第3章 救出編
セレスティーヌ 13
しおりを挟む<セレスティーヌ視点>
「セレス様」
そんな風にコーキさんのことを考えていると、少し離れた場所からコーキさんに声をかけられた。
「もうすぐ料理ができますよ。……まだ寝てるのかな?」
えっ、待って!
今の私、駄目。
変な顔になっている?
とっさに寝返りを打つふりをして、顔を背ける。
彼からは私の顔は見えないはず。
そうよ。
まだ私は眠っているのです。
「……」
こんなに焦るのも、彼のことを意識しているから。
今ははっきりとそれを自覚している。
彼を意識しだしたのは多分……。
大空洞内をどれだけ移動しても同じ場所を進むだけ。
転移から逃げ出せない事実にも落胆し、もうここから出ることができないのではと絶望した時だったわ。
『セレスティーヌ様を保護してテポレン山を下ることを私は約束しました』
『必ず約束は守ります』
その言葉を聞いた時、私の目に信じられないものが入ってきた。
ユーナスあにさまが、私の目の前にいたの。
そんな訳がないと、まばたきした次の瞬間には消えていたけれど。
多分、光の加減でそう見えただけだとは思う。
でも、それまでは、コーキさんを見てユーナスあにさまに似ていると思ったことなどなかったのに……。
確かに、あにさまの黒茶色の髪とコーキさんの黒髪は少しだけ似ているけれども、似ているのはそれくらいだから。
とにかく、その時の私は、コーキさんの姿がユーナスあにさまに見えたことに驚きと、そして喜びを感じていた。
『セレスはいい子だね』
『セレス、かわいいよ』
『セレス、ごめんね』
だから、ユーナスあにさまの声が頭の中に響き渡っていたのだと思う。
ユーナスあにさま……。
遠縁の伯爵家の次男であるあにさま、幼い頃から私をずっと護ってくれた側仕え兼護衛騎士。
将来は神娘たる私の側近になることが約束されていたあにさま。
いつも優しかったあにさま。
大好きだったあにさま。
だけど……。
私が殺してしまった。
私のせいで死なせてしまった。
私の未熟な力のせいで……。
『セレス、大丈夫だよ』
そのあにさまの声が私の頭の中に響く。
その声はとても優しく、私を救い上げてくれるよう。
未熟な予知の力を過信した結果の失態。
あにさまに対して犯した私の罪。
それが許されたと錯覚してしまう程に。
だから……。
『私のことは、セレスと呼んでいただけませんか』
なんてことを言ってしまったのだと思う。
コーキさんも、いきなりそんなことを言われて驚いた顔をしていたけれど、言った私の方も驚いていたの。
そんなことを言うつもりはなかったから。
でも、結果的に良かったんだわ。
コーキさんはセレス様としか呼んでくれなかったけれど。
その声を聞いて、どこか面映ゆいところはあったけれど。
それでも確かに嬉しかったのだから。
それからは、私とコーキさんの距離は随分近くなったと思う。
コーキさんは少し打ち解けてくれたようだし、私もそう。
私がずっと被っていた仮面も少しずつ外れ始めていたから。
貴族家の娘、神娘である自分、それに相応しくあれと被っていた仮面。
言動どころか思考までそれらしく作ってきた。
そんなこと全てが馬鹿らしくなってきたから。
そんな自分は悪くない気分だった。
いえ、むしろ嬉しかったわ。
こんな場所にいるのに、心地良いとさえ思えたくらいだから。
でも、こんな極限状況でそんな楽しい時間が長く続く訳もなかった。
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