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第3章 救出編
セレスティーヌ 12
しおりを挟む<セレスティーヌ視点>
コーキさん……。
こうなってしまったのは。
あなたのせいなのよ。
そして、あなたのおかげ。
全てあなたがいたから。
「……」
心も身体も軽い気がする。
こんなの、いつ以来かしら。
この感覚、忘れていた。
でも、これはきっと。
仮面を外したからだけじゃない。
……。
……。
徐々に覚醒してきた私の頭に浮かぶのは……!?
あぁ、なんてことを!
感情を抑えきれなくて。
自暴自棄になって。
コーキさんに殺してなんて言ってしまった。
そんなこと、コーキさんができる訳ないって分かっているのに。
その上、八つ当たりまで……。
記憶が少し曖昧だけど、酷いことばかり言ってしまったと思う。
どうしてあんな?
今まで感じたことのないような羞恥心がこみ上げてくる。
恥ずかしい!
今考えると、情けなくて、恥ずかしくて。
悲しくなってくる。
もう、もう、どうしたらいいの?
「……」
あの時は普通の状態じゃなかったわ。
でも、そんな言い訳……。
ああぁ、もう。
コーキさんに合わせる顔がない。
今すぐどこかに隠れてしまいたい。
でも、ここは地下の大空洞。
そこに、ふたりっきり。
顔を合わさないなんて、そんなことできない。
「……」
そのコーキさんといえば。
今は少し離れたところで食事の準備をしてくれている。
あんな酷い態度をとった私のために食事を。
何も言わず食事を……。
「……」
思えば、最初から私の態度は良くなかった。
あの日、テポレン山で……。
お父様が私のために用意してくれた護衛騎士のみんなの力もあって何とかテポレン山まで来ることができたのだけれど、予想以上にレザンジュ王軍の追跡が厳しくて1人また1人と騎士たちが姿を消してしまい……。
残ったのは付き合いの長い、親しい4人の騎士。
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その4人ともテポレン山中で離ればなれになって、ひとりテポレン山を進む中でグレーウルフに襲われて、そして、あの崖の下。
そこで、コーキさんに出会った。
最初は驚きと恐怖しかなかった。
だって、崖下で目を覚ました私の目の前に、いきなり見知らぬ男性が顔を出したのだから。
それは仕方ないと思う。
でも、問題はそのあと。
あの時の私の態度は、助けに来てくれた人に対するものじゃなかったわ。
シアとアルの話を聞いた後は、多少態度を改めることもできたけれど。
きっと、コーキさんも呆れていたと思う。
コーキさんからしてみれば私は赤の他人。
そんな私のために、危険を冒してテポレン山を上り私を探してくれた、あんな崖下まで来てくれた、そして治癒魔法に回復薬まで。
「ああ……」
思い出すだけでも恥ずかしい。
ワディン家の娘として恥ずべき態度をとってしまったわ。
でも、それでも。
その後の私の振る舞いに比べれば、まだましかもしれない。
コーキさんと出会ってから今までの事を冷静に思い返してみると……。
背中に冷たいものが滲んでくる。
私って碌なことしてない。
コーキさん……。
魔法を使ってイビルリザードの肉を調理してくれているコーキさん。
その背中をつい眺めてしまう。
合わせる顔なんか、ないというのに。
でも、彼は振り向くことなく料理に集中している。
よかった、今の私の顔なんて見られたくないもの。
そう言えば……。
あの時もそうだった。
この地下大空洞に落下した後、私のために用意してくれた食事。
忘れられないわ。
テポレン山を上る途中で持ち物を全て失くしてしまった私と違って、彼は携帯食を所持していた。
その携帯食で私に振る舞ってくれた夕食は、1日以上まともな物を口にしていなかった私にとって何よりのご馳走だった。
もちろん、空腹だったからというのもあるけれど、彼が用意してくれたパンは携帯用の乾パンとは思えないくらい甘くて美味しかったし、干し肉も食べたことのないような味だった。それに、温かい紅茶まで。
「……」
今考えてみるとコーキさんは、テポレン山で遭難しているかもしれない私のためを思って、わざわざ美味しい携帯食を用意してくれたんだわ。
その思いに数日前の私は全く気付かなかった。
考えようともしなかった。
あの時。
私のせいで、この大空洞に落下することになってしまったのに。
嫌な顔ひとつ見せず私を気遣ってくれた。
そんな彼の優しさは……。
そうよ、料理だけじゃない。
今日までずっと私のことを思いやって行動してくれた。
この地下大空洞内での探索中も、魔物との戦闘でも、休む場所を探す時も、夜眠っている時も、いつもいつも私のことを考えて、私の気持ちを優先してくれた。
はあぁぁ。
私は、ホント駄目ね。
何も分かっていなかったわ。
こんな極限状態が続く中で、何の役にも立たない神娘とは名ばかりの小娘のことを大切にしてくれるということが、どれほど難しいかということも理解していなかった。
でも、心の中ではそんな彼の優しさに少しずつ……。
彼が魔物によって深い傷を負った時、どうしようもなく狼狽えてしまったのは、彼がいなくなると困るからではなく、純粋に彼のことが心配だったから。
それが本心だったのかもしれない。
「……」
私を護るために怪我を負ってしまったコーキさん。
彼が負傷する時はいつもそう。
ゴブリンの集団と戦った時も、あの黒い炎を浴びた時も。
その後の戦いでも。
彼ひとりなら、そんな怪我を負わずに済んだかもしれないのに。
今も残る火傷の痕。
顔には出さないけれど、きっと辛いはず。
だって、普通の火傷じゃないから。
そんな怪我を負わせてしまった。
コーキさんに。
あんなに強いコーキさんなのに……。
「……」
コーキさんの強さは尋常ではない。
私もワディン家の娘として育てられたのだから、それなりの者たちを見てきたけれど、彼ほど剣も魔法も扱える者を見たことがない。
それに、とても美しい。
剣を振るう時の身体の動き、放たれる魔法、凄く綺麗なの。
シアとアルに合図を送るために上空に放った魔法も美しかったわ。
まるで、空に花が咲いたようだった。
あんな魔法を自分で作ってしまうなんて。
本当に天才だわ。
でも、努力家でもあるの。
だって、こんな地中で過ごしているのに、早朝に鍛錬しているんだもの。
初めて目にした時は、驚いたわ。
本当に……。
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