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第3章 救出編
魔落 21
しおりを挟む死んでしまいたい。
そんな言葉を聞いて、俺は。
俺は……。
「セレス様……」
開いた口の端から言葉が出てこない。
なんて言葉を返せばいいのか?
どんな言葉も、そう……。
「……」
どうしようもなく軽く思えてしまう。
「これ以上はもう……」
俺の目の前には、俯いて膝を抱え座り込むセレス様。
昨日までのセレス様の姿はもうここにはない。
「……心が強くないの」
光を反射するほどに艶のあった白銀の髪、どこまでも透き通っていた白磁のような肌。
そんなセレス様の容姿も……。
水魔法で生成した水を使うことで、ある程度の清潔さを保っていたのだから、昨日までと変わりはないはずなのに。
「あなたとは違う」
「セレス様」
「……」
いつかは脱出できるという希望があったからこそ、セレス様は俺について来てくれた。
俺もセレス様を護ってここを脱出しようと努力してきた。
そんな俺にセレス様は何度も感謝の言葉をくれた。
不満を口にせず、明るく振る舞ってくれた。
……。
心はそんなに簡単なものじゃない、か。
この過酷な生活の中で、脱出への希望が薄れてしまうと心は容易に砕けてしまう。
セレス様の心は崩壊寸前なのだろう。
でも。
俺の心?
俺の心が強い。
そんなことはないんだ。
俺が多少なりとも冷静でいられるのは、ただ……。
有馬 功己 (アリマ コウキ)
レベル 4
20歳 男 人間
HP 143
MP 203
STR 241
AGI 166
INT 274
<ギフト>
異世界間移動 基礎魔法 鑑定初級 エストラル語理解 アイテム収納
セーブ&リセット(点滅)
セーブ&リセット 1
<アイテム>
・ショルダーバッグ
・イビルリザードの背肉 4
・イビルリザードの腹肉 6
・イビルエッグの背肉 3
・イビルエッグの腹肉 3
<所持金>
3,530メルク
<クエスト>
1、人助け 済
2、人助け 済
3、魔物討伐 済
4、少数民族救済 済
5、貴族令嬢救済 未
<露見>
地球 2(点滅)/3
エストラル 0/3
力強く光るセーブ&リセットの文字。
「……」
俺の心が強いわけじゃない。
冷静でいられるのは、セーブをしているから。
ただ、その一事があるから。
それだけなんだ。
セーブに頼っている心が強いわけがない。
「……」
それでも、セーブのおかげであっても、今冷静でいられることをありがたいと思う。
神様からいただいた恩恵、決して自慢できることではない。
だけど、ここで俺まで取り乱してしまったら、もうどうにもならないだろ。
俺はセレス様を保護し脱出するんだ。
だからさ。
使えるものは何でも使う。
リセットでも何でも。
とはいえ、まだリセットを使うつもりはない。
ここでやれることはあるはずだし、それに……。
これは以前から考えていたことなのだが。
俺がリセットしてセーブした時点に戻った場合、前の時間軸はどうなるのか?
その時間の流れ自体が消えるのか、それとも俺がいないまま時間が流れていくのか?
パラレルワールドのように世界は続くのか?
真実は分からない。
分からない以上、リセットする前の時間の流れを生きる人たちを犠牲にしているという思いを拭い去ることができないんだ。
だから、今ここで使う気にはなれない。
まだ、できることがあるはずだから。
もちろん、この大空洞内でも最悪の状況になったら躊躇なくリセットを使う。
その覚悟はできている。
「……」
この考えが、俺を支えているだけなんだ。
セレス様、俺は強くないんだよ。
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