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第3章 救出編
魔落 18
しおりを挟む12日目。
この4日間も探索を続けたが、成果は出なかった。
いや、そうとも言い切れないか。
手掛かりが見つからない場所を探索対象から排除していくという作業は捗っている。
その点では、成果が出ていると言えるかな。
このまま続けていけば、探索対象はさらに絞られていく。
そして、最終的には脱出口を見つけることができる。
そうなるはずだ。
そうなってほしい。
「……」
もちろん、分かっている。
これが、脱出口が存在するという前提のもとでの話だということは。
でも、今はそれを信じて続けるしかない。
他の手段は……。
今は考えるべきではないことだ。
「コーキさん、今夜はここで休みましょうか」
「そうしましょう」
野営地に選んだのは、大空洞横壁にある広い横穴空間。
野営に最適なあの場所だ。
こうして毎日同じような場所を探索しているおかげで、休む場所だけは幾つも見つけている。
せめて夜は安全な場所で休みたいからさ。
そんな休憩候補地の中でも、この横穴は最上のものだ。
何といっても広いんだよ。
そんな横穴。
入った後に俺の土魔法で入口を隠せば、安全を確保できる。
完全に安全かと言えばそうではないのだろうが、今のところ野営中に魔物に襲われたことはない。なので、安心してもいいだろう。
「明日は、またあの転移元の調査ですね」
「ええ、明日こそは見つけましょう」
「はい!」
A地点を出発し、大空洞内の探索をしながらB地点に到着。
そこで転移の発動原因を調べ、A地点に転移。
そして、またB地点を目指し探索を始めると。
これが今のルーティンとなっている。
もちろん、B地点は最も力を入れて調べている場所だ。
そこをずっと調査すれば良いという考えもあるし、実際行ってもみた。
けれど、成果が出ないまま長時間同じような作業をすることは、むしろ効率が悪いと判断した結果。B地点で試したい調査を全て終えた後は、A地点に戻って他の箇所を調べながらB地点を目指し、その道中で新たに思いついた探索法をまたB地点で試す。
現時点では、そういうことになっているわけだ。
もちろん、B地点の調査の過程でA地点への転移を試す必要があるというのも理由の1つではある。
とにかく、今はこのルーティンに従って行動していると。
「もう、このイビルリザードの肉の硬さにも慣れました。よく噛めば、美味しいですものね」
「確かに、噛めば噛むほど旨味が出てきます」
何度目になるか分からない魔物肉の食事。
栄養的にはどうかと思うが、ビタミン剤があるおかげで助かってはいる。
ホント、エンノアの皆さんに渡すために購入したビタミン剤をショルダーバッグに入れておいて良かったよ。
「そうなんですよ。コーキさんも、分かってますね」
「はは」
セレス様も随分とこの魔物肉に慣れたものだ。
しかし、もう何度も思っていることだが、大貴族のお嬢様とは思えない順応力だな。
「でも、やっぱり、イビルエッグの方が上ですね。ええ、分かってますよ。イビルリザードが沢山残っているということは」
「そうですね。とりあえず、イビルリザードを先に食べておきたいので」
申し訳ないが、しばらくはイビルリザード優先ということになる。
「ところで、コーキさん。怪我は本当に平気なんですか?」
「ええ、問題ないです」
今日の探索中、ゴブリンとダブルヘッドを同時に相手することになってしまい、そこで少し怪我を負ってしまったんだよな。
まあ、浅い傷だったので既に治癒魔法で完治済み。
今はもう何ともない。
そんな傷より、むしろ以前負った黒炎による火傷の方が問題なんだ。
いまだに完治することはなく、治癒魔法と回復薬で対症療法をするのみ。
数時間おきに火傷痕が浮かび上がってくる。
とはいえ、痛みに関しては、今はあまり気にしていない。
問題は回復薬。
残りが少ないからなぁ。
これを使い切った後が心配なんだよ。
あと何日もつことか……。
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