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第3章 救出編
魔落 11
しおりを挟むさてと、今日はもうこんな時間だ。
ここ以上に安心できる場所もそうは見つからないだろうし、今夜はここで休むとするか。
となると、セレスティーヌ様が休んでいる間に夕食の準備だな。
ショルダーバッグから携帯食を取り出す。
当たり前のことながら、残りは少ない。
昨夜の夕食は遠慮なく食べたが、今後のことを考慮して今日の朝と昼は少なめの食事で済ませている。
なので、この夕食と明日の朝まではなんとかなるが、その後がなぁ。
水は魔法で生成可能、塩もショルダーバッグの中に入れているので問題ない。
だけど、肝心の食料の手持ちがない。
となると、この地で調達しなければいけないのか。
もちろん、食料がなくても水さえあれば、人は数日くらいは生存可能だ。
とはいえ、それが魔物との戦闘を余儀なくされるこの極限状態でとなると、かなりあやしいものがある。
空腹での緊張状態、戦闘が続くというのはあまり考えたくない。
この地で調達となると……。
あの蜥蜴型の魔物や蛙型の魔物はどうだ。
食材として使えるんじゃないのか。
こちらの世界に来てから魔物を口にしたことはないが、食用に適した魔物が存在するということは知っている。ものによっては、高級食材になるものもあるということだ。
蜥蜴と蛙の肉が食用可能か?
試す必要があるな。
翌朝、この地下大空洞に落下してから3日目。
今日も早朝から大空洞内の探索に明け暮れる。
その間に遭遇した魔物は昨日と同じく黒ゴブリン、蜥蜴型、蛙型、ウルフ系の魔物など。
どの魔物も常夜の森やテポレン山で俺が普段戦っている魔物より数段強かったが、何とか無事に倒しきることができた。
強力な魔物が跋扈するこの地下大空洞、魔落。
フォルディさんの話によると、魔落の魔物は正気を失っているものが多いとのことだったけど、いまのところそんな感じでもない。
まあ、魔落だろうがただの大空洞だろうが、今の俺にとってはどうでもいいことだ。
ここがどこだろうと、脱出するだけなのだから。
懸案だった食料問題については。
昼前に蜥蜴型と蛙型の魔物を倒した際、鑑定で調べたところ魔物の名称が分かるだけだった。
仕方ないので、俺が少量食べて様子を見ようかと思い、解体後切り分けた肉を念のため再度鑑定してみると。
これがなんと!
食べることができると判明したんだよ。
今回は、ホント、鑑定がいい仕事をしてくれた。
これで、食糧問題はとりあえず解決したかな。
食料に関しては一安心。
ではあるものの、肝心の脱出については全く目処がたっていない。
2日の間ずっと探索を続けているのだが、空洞内は同じような景色が続くばかりで何の手掛かりも見つからない状況……。
この空洞はいったいどうなっているんだ?
2日間歩き続けているというのに、いつまで経っても空洞の端のようなものに行き当たらない。
空洞内を歩いている感じでは、この空洞は湾曲することなくほぼ真っ直ぐ続いているように思える。それなのに、端が見えない。
テポレン山の中の空洞だとしたら、さすがにここまでの広さはないはずだ。
ということは、やはり、ここはテポレン山のはるか下方。
地底にこの空洞は存在しているということか。
だとすると、このまま探索を続けても地上に出る手がかりを見つけるのは難しい。
俺たちが落ちてきたあの円柱空間を上に進むしか脱出する術はないと。
そういうことになるのか。
それは困難な話だ。
……。
とりあえず、しばらくはこのまま探索を続けるか。
そんな考えにとらわれた半刻ほど後。
「うん?」
身体に違和感を覚え立ち止まる。
空気の膜のようなものに弾かれるような感覚。
これは!?
「何か変な感じがしますね」
「ええ」
セレスティーヌ様も感じたようだ。
一瞬弾かれたような感覚を覚えるが、そのまま足を進めると……。
特に問題なく先に進むことができる。
気になって戻ってみるが、そこにはもう何も感じない。
しかし、さっきの感覚は?
「何なのでしょうか?」
「分かりませんが、この地下に落下する際にも同じようなものを感じました」
「私を庇って落下していた時ですか」
「そうです」
「……何なのでしょうね」
「結界、かもしれませんが、だとするとすんなり通過できるというのが……」
「そうですよね」
「それにもう何も感じませんから」
先ほど違和感を覚えた辺りに足を進めても手を伸ばしても、弾かれるような感触は全くない。
「不思議ですね」
ふたりとも疑問に思うばかりだが、ここで議論しても答えは見つかりそうにない。
「考えても無駄ですね。まずは、今夜の野営地を探しましょうか」
「はい」
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