30年待たされた異世界転移

明之 想

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第3章 救出編

魔落 6

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 強いことは分かっていたが、ここまでやるとはな。

 特に、スピードとパワーは俺の想像を超えている。
 あの小さな身体でどうしてここまでやれるんだというレベルだ。

 その上、魔物特有の単調で力任せの攻撃という訳でもない。
 ある程度の技術と考えを持って攻撃してくるという厄介さがある。

 これはもう、魔物図鑑に載っている通常のゴブリンとは全く別の魔物だと考えた方がいいな。

 ホント、驚きのゴブリンだ。

 単純に強さという点だけ見ると、ダブルヘッドの方が数段上だろうが、その戦闘技術は俺が戦った魔物の中でもずば抜けているよ。

 まあ、それでもだ。

 今の俺が脅威を覚えるほどではない。
 これも事実だ。

 この世界では、俺も結構もまれたからな。
 さらに、レベルアップもしている。
 俺も以前と同じじゃないんだよ。


「グギ、グググゥ」

 こちらの様子を窺いながら、唸り声をあげている黒ゴブリン。

 さて。
 あいつの実力も分かったことだし、今度はこちらの剣を味わってもらおうか。

 1歩、2歩とゴブリンに向かって足を運ぶと。
 焦ったようにゴブリンが棍棒を突き出してきた。

 相変らず鋭い一撃だが、今さら見る必要もない攻撃だ。

 身体を捻るようにして棍棒を躱し、その捻転の力を利用し剣を首元に叩き込む。

「グギャァァ」

 手にはそれなりの抵抗があるものの、剣の通過を阻害するほどではない。
 常夜の森の浅域あたりにいる魔物の皮膚よりは硬いが、ダブルヘッドとは比べものにならないな。

 その身体の持つ防御力は、そこそこというところか。




「コーキ様、お見事です。素晴らしい戦いぶりでした」

 岩陰に隠れるセレスティーヌ様のもとに戻ると、労いの言葉が。

「なんとか倒せましたが、通常のゴブリンよりかなり強力な個体みたいですね」

 そんな強力なゴブリンが、なぜここに存在するのか。
 やはり、ここは魔落。
 状況的にそう考えるのが妥当、だよな。

「確かに、外見も少し違いますし。ですが、コーキ様の敵ではありませんでした」

「まあ、そうですね。あのゴブリン1匹でしたら」

 強力なゴブリンではあったが、このレベルの魔物に1対1で負ける気はしない。

 今後現れるのがこの程度の魔物なら……。
 仮にここが魔落だったとしても過剰に恐れる必要はないのかもしれないな。

 とはいえ、集団でかかってこられると厄介ではある。
 今のところ遭遇した魔物は黒ゴブリン1匹だけなのだから、魔物の集団に遭遇する可能性は高くないと思うが……。

「本当に心強いです!」

「それは良かった、です」

 そんなキラキラした目で見つめられると、返答に窮してしまう。

「……探索を続けましょうか」

「はい!」



 その後も周囲の探索を続けながら、空洞内を先に向かって進んでいく。
 砂地に岩が点在している眺めは変わらないまま。
 ここから脱出する手がかりも特に見つからない。
 まるで、茫漠とした荒野をただ歩いているだけのようだ。

 そんな状態がしばらく続き。
 魔物に遭遇することもなくそれなりの時間が経過。

「そろそろ昼休憩にしましょうか」

「私はまだ大丈夫ですよ」

「先は長いかもしれませんから、無理する必要はないです。休める時に休んでおきましょう」

「……はい」

 食料の手持ちが乏しいため、僅かな量しか口にすることはできない。
 が、少しでも体に入れておいた方がいいだろう。

「では、あちらの岩陰で」

 休憩に適した岩陰に2人で座り、携帯食の準備に取り掛かっていると。

「……」

「どうしました?」

 俺の表情の変化に目ざとく気づいたセレスティーヌ様が声をかけてくる。

「……魔物がこちらに向かってきます」

「えっ! またゴブリンですか?」

「それは分かりませんが、複数の魔物のようです」

 まだ、距離は離れているが、結構な数の魔物がこちらに向かって来る。

「複数! どれほどいるのでしょう?」

「2、3という数ではありません。かなりの数です」

 10体以上。
 ひょっとすると数10体はいるかもしれない。

 魔物の集団に遭遇する可能性は低いはず。
 なんて思っていたら、これだ。

「そんな! コーキ様?」

 また戦うのか? と。

「魔物の種類と数次第では、隠れてやり過ごすつもりです」

 それが可能であればの話だが。

「とりあえず、近づかれる前に端に移動しましょう」



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