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第3章 救出編

セレスティーヌ 9

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 咄嗟に身を投げ出し、セレスティーヌ様を抱きかかえる。
 セレスティーヌ様は細身の身体だが、身長は160センチほどある。
 それでも、俺なら抱えることは可能だ。

 セレスティーヌ様の頭部を俺の手と胸で守り。
 そのまま斜面を転がり落ちる。

 2回転、3回転……。

 幸運なことに、僅かな時間で身体が静止した。

「あ、あ!?」

「セレスティーヌ様、大丈夫ですか?」

 しばらくは放心していたセレスティーヌ様だったが、すぐに大丈夫だと答えてくれた。
 俺の身体も問題ない。

 転がり落ちた斜面を眺めてみると。

「ああ、そういうことか」

 斜面が比較的緩やかで長くもなかったため、少し平らになったこの場所で止まることができたみたいだ。
 とはいえ、すぐ先にはまた斜面が続いている。
 油断はできない。

「あの、ごめんなさい。私のせいで……」

「いえ、こちらが油断していたからです。私の責任です」

 体力のない女性が、この過酷な状況でずっと気を張っていられるわけがない。
 それを放置した俺の責任だ。

「それで、セレスティーヌ様、どこにもお怪我はありませんか?」

「私は大丈夫です。コーキ様は?」

「良かった。私も問題ないです」

 上手く庇うことができたようだ。
 とりあえず、良かった。


「では、戻ろうと思うのですが立てますか?」

 立ち上がり、セレスティーヌ様の手を取る。
 無理な場合は、背負ってもいいし抱えてもいい。
 貴族女性に対する作法が問題ではあるけど。

「えっ? あ、はい」

 戸惑うように俺の手を取り立ち上がるセレスティーヌ様。

「ありがとうございます」

 と答えた、その時。

「あっ!?」

 セレスティーヌ様が踏み出した左足、その先にある地面が左足を飲み込むように陥没!

 そして崩落!
 地面が崩れ落ちた!!

「きゃあ!」

 驚きながらも掴んでいたセレスティーヌ様の手を強く握り、こちらに引き上げようと踏ん張る。

 が、俺の足元も。

「えっ!?」

 俺の足を包み込み、そして。

 崩れ落ちてしまった!

「きゃあぁぁ!!」

 これはまずい!
 また斜面を転がり落ちるのか!

 セレスティーヌ様を胸元に引き寄せ、先程と同様に抱きかかえる。

 次の瞬間。

 何?

 宙に投げ出された感覚と共に目の前が薄暗くなる。
 何が起こった?

 背中に地面を感じない。
 これは、転がっていない?

 それどころか、浮遊感?

 宙に投げ出され落下していく感覚だ。

 いったい、何が起こったんだ?

 薄暗闇の中を落ちて行く。
 落ちて行くと感じるだけの時間がある。

 それだけの高さがあるということだ。

 これは、かなりまずいぞ!

 何が起こったのかは分からないが、かなりの距離を落下することになる、それは間違いない。

「くっ!」

 どこまで対応できるか分からないが、やれるだけのことをやるしかない。

「コーキ様!」

「大丈夫。離れないでください」

 セレスティーヌ様を強く抱きかかえ身体中に魔力を纏い強化する。
 さらには、セレスティーヌ様も俺の魔力で包みこむ。
 他人の身体を俺の魔力で覆った経験などないが、今は可能なことをするだけだ。

 風が顔を耳を叩く。
 魔力で覆ってはいるが、それでも感じてしまう。

 それだけの速度で落下しているんだ。

 もう数秒は経過していると思うが、地面に到着しない。
 これは並みの深さじゃないぞ。

 本格的にまずい。

 さらに身体に魔力を纏い、衝撃に備えかつてないほどの最大限の強化を施す。
 その直後、下方から軽い抵抗が身体を包み込む。

 何だ?

 そう思った時には、その感覚はなくなり再び落下。
 が、落下速度が随分と落ちたような気がする。

 何が何だか分からないが、これはついているぞ。

 と、薄暗かった視界に少しばかり光が差してきた。
 まだ暗いが周りの状況が確認できる。

 焦りと緊張の中、下方を確認。

 地面らしきものが見えてきた。

 あれは?
 落下予測地点のすぐ近くに……植物か!

 くっ、あと少しで衝突する。

 セレスティーヌ様を庇うように抱え込み、全力で風魔法を斜め下方に発動。
 今できる最大の魔力を込めた風魔法。
 ただの風を叩きつける!

 そして、俺の背中を下にして、そのまま落下。

 バサバサ、バサーーーン!!

 密集した何かの中に飛び込んだ。

「ぐっ!!」

 背中に強い衝撃。
 その衝撃で呼吸が止まりかける。

「……はあ、はあ、はあ」

 が、すぐに呼吸は回復。
 よかった、呼吸ができる。

 身体はどうだ?

「……」

 受けた衝撃で体中が強張ってはいるが……。

 手も足も動く、頭も問題ない。
 大きな痛みは……。

 どこにもない、のか。

 かなりの距離を落ちたのに?
 落下途中の謎の抵抗感、あれで衝撃を和らげることができたと?

 それに強化と風魔法。

 ……。

 とにかく、運が良かったみたいだな。

 と、それよりセレスティーヌ様だ。

「セレスティーヌ様?」

 声をかけるが返事はない。
 予定通りセレスティーヌ様を胸の前で抱えながら上手く俺の背中から落ちることができたようなので、セレスティーヌ様は俺の目の前にいるのだが。

 意識を失っているのか?
 大丈夫なのか?

 呼吸と脈拍を確認。
 そこは問題ないようだ。

 とすると、気を失っているだけか。
 それとも……。

 ひとまず、俺の傍らに横たえる。

 ……。

 うん、まあ、こうして見ると。
 呼吸は安定しているし、身体にも目立った外傷はない。
 穏やかに眠っているようにしか見えないな。

 俺同様にその身体全体を魔力で包み、俺をクッションにしたのだから、問題ないと思うのだが……。

 目を覚ます前に、とりあえず治癒魔法で身体全体に処置を施しておくか。

 ということで、効果の程はあやしいが治癒魔法は終了。
 さて、起こした方がいいのか、もうしばらく様子を見るか?

 と考えたところで、既視感が。

 ああ、そうか、つい数刻前に同じような状況にあったんだよな。
 半日の間に2度までも。
 何という不運、いや生きているなら幸運なのか。

「はぁ~」

 幸運なわけないか。



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