184 / 1,294
第3章 救出編
ダブルヘッド 7
しおりを挟む大きく開かれた口の奥から現れるのは、そう。
ダブルヘッドの固有魔法、炎獄の黒炎だ!
ダブルヘッドの攻撃の中でも最も威力があると恐れられている黒炎の魔法。
超高熱で対象を焼くだけでなく、黒炎を受けた傷痕は相応の対処をしなければ腐り壊死してしまうこともあるという凶悪な魔法だ。
この黒炎、まともに受けるとただでは済まない。
とはいえ、こちらも対処する術はすでに考えている。
この黒炎、口を大きく開いた状態から発動までに少し時間がかかるらしいからな。
なら、待ってやる必要はない。
短剣を取り出し、素早く魔力を纏わせる。
そして、投擲!
うなりをあげて飛来する短剣が、狙い違わず大きく開かれたダブルヘッドの口の中に突き刺さった!
「ゴッ、ゴボッ!」
その短剣を標的に。
「雷撃!」
「オォォォ!」
効いてるぞ!
さあ、もう一発だ。
「雷撃!」
「ウゴォォロォォ」
声にならないような悲鳴を上げて左の頭が沈黙する。
よろめくダブルヘッド。
こんな状態の相手を逃す手はない。
2歩でダブルヘッドの首元に飛び込み。
濃密な魔力を纏わせた剣を一閃!
ドズン!
よし!
今度は上手くいった。
それなりの抵抗を感じたものの、剣を振り切ることができた。
当然。
ドン。
地面に転がる左の首。
その首を前にして立ち尽くすダブルヘッド。
己の首が落ちたという事実を信じられないのだろう。
もちろん、ここを逃すはずもない。
振り切った剣を返し、右の首に斬りかかる。
ザスッ!
「グギャァアァ!」
が、駄目だ。
こちらは手応えが足りない。
切断には至らず、傷を負わせただけ。
首元に入った剣を抜き取り、距離をとる。
何が足りないんだ!
2撃目は纏っていた魔力が薄れていたのか。
それとも、雷撃との連撃が必要なのか。
……。
もう一度だ!
「信じられない!? ダブルヘッドの首を斬ったわ」
「本当に?」
「新人冒険者が単独で倒してしまうのか」
「あり得ない……」
気合を入れ、再度剣に充分な魔力を纏わせ。
ダブルヘッドに向き合う。
すると。
ダブルヘッドが怯えた様子で、俺から距離をとるように後退した。
さっきまでの威圧感は完全になくなっている。
なるほど。
こいつ死線をくぐり抜けた経験がないのか。
なら、これはもう俺の敵じゃないな。
残っている右の首を落とせばいいだけ。
時間の問題だ。
ただし、再生能力は厄介だな。
左の首が再生される前に片を付けないと、面倒なことになるか。
よし、次で決めてやる!
一歩踏み出そうと軸足に力を入れたところで。
「ええ!?」
岩の中からの叫び声。
今まで以上に大きなその声に、思わず振り向いてしまう。
「逃げていくわ!」
うん?
一瞬の躊躇ののち、ダブルヘッドに視線を戻すと。
「なっ?」
こちらに背を向け、飛ぶように逃げていくダブルヘッド。
こちらを振り返ることもしない。
その必死の様子に、わずかながら力が抜けてしまう。
「……」
あの速度で森の中を逃げられると、追いつくのは簡単じゃない。
それでも、不可能というほどでもないか。
すぐに追うか?
いや、その前に。
「ダブルヘッドが逃げたわ」
「逃げたな」
「ああ、逃げた」
「ダブルヘッドが人から逃げた」
「……」
「新人冒険者からな」
「ありえないわ」
「ああ」
「……」
何かいろいろと喋っているが、そんなことより。
「もう安全ですから、出て来てください」
巨岩の中に隠れている冒険者に声をかける。
「ああ……。ありがとう」
「助かったわ。あなたは命の恩人よ」
「心から感謝する」
「……」
冒険者と思われる4人が出てきた。
全員見覚えがあるような気がするが……。
血と汚れでよく分からないな。
まあ、冒険者ということなら、どこかで見かけたこともあるんだろう。
「他にはいませんか?」
「ええ、この4人だけよ」
「そうですか」
やはり、シア、アル、ギリオン、ヴァーンはいないのか。
そうかぁ……。
「それで、傷は大丈夫ですか?」
「結構やられたが、まあ大丈夫だ」
「私も」
「なんとかな」
「……」
ひとりはずっと黙っているが、とりあえず問題はなさそうだな。
それなら。
「では、すぐにオルドウに戻ってください。私はまだ捜索を続けますので」
「え、捜索を?」
「危険じゃないのか」
「バカ言え、あのダブルヘッドを追い返したんだぞ」
「そうだったな」
あの4人を見つけるまで、特にシアとアルを見つけるまで安心はできない。
ここでゆっくり話をしている余裕もない。
「無事にオルドウまで戻ってください。それでは」
駆け出そうとする俺に、4人の中から1人の冒険者が近づいてくる。
「……これを」
そう言って差し出したのは回復薬。
しかも、これは低級じゃないぞ。
高級な回復薬じゃないのか。
「私は怪我をしていませんよ。あなたが使えば良いのではないですか」
これは簡単に手に入るような物ではない。
「俺の傷は大したことはない」
「そうですか」
で、どうしろと。
「今後のこともある。受け取ってほしい」
くれるというのか。
「ですが、これは高級品です」
「助けてくれた礼だ。それに……前の借りもある」
借り?
ということは、この人と関わりがあったと?
顔も髪も血と泥で汚れていて、誰だか分からないんだが。
とはいえ、誰ですかとは聞きづらい。
「だから、黙って受け取ってくれ」
「……そうですか」
こんな高級品を貰って申し訳ない気がするが、今はここで時間を潰している場合じゃない。
とにかく、捜索に戻らないと。
「とりあえず、いただいておきます。後ほどまた」
使わなかった場合は返そう。
使った場合は代金を払うことにしよう。
「では、これで」
今度こそ振り返らず駆け出す。
そんな俺の背中に。
「俺はゾルダーだ。以前のことは、その、すまなかった」
叫び声が投げかけられる。
ゾルダー……?
そうか、あいつだったのか。
シアの魔法訓練中に絡んできた酔っ払いだ。
しかし、全く分からなかった。
顔が汚れていたのもあるが、態度が以前とは全く違ったからな。
「……」
とんでもない奴だと思っていたが。
酒が入っていないと、案外まともな奴なのかもしれないな。
32
お気に入りに追加
646
あなたにおすすめの小説
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!
アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。
->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました!
ーーーー
ヤンキーが勇者として召喚された。
社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。
巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。
そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。
ほのぼのライフを目指してます。
設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。
6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~
やみのよからす
ファンタジー
病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。
時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。
べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。
月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ?
カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。
書き溜めは100話越えてます…

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

見習い女神のお手伝いっ!-後払いの報酬だと思っていたチート転生が実は前払いでした-
三石アトラ
ファンタジー
ゲーム制作が趣味のサラリーマン水瀬悠久(みなせ ゆうき)は飛行機事故に巻き込まれて死んでしまい、天界で女神から転生を告げられる。
悠久はチートを要求するが、女神からの返答は
「ねえあなた……私の手伝いをしなさい」
見習い女神と判明したヴェルサロアを一人前の女神にするための手伝いを終え、やっとの思いで狐獣人のユリスとして転生したと思っていた悠久はそこでまだまだ手伝いが終わっていない事を知らされる。
しかも手伝わないと世界が滅びる上に見習いへ逆戻り!?
手伝い継続を了承したユリスはチートを駆使して新たな人生を満喫しながらもヴェルサロアを一人前にするために、そして世界を存続させるために様々な問題に立ち向かって行くのであった。
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様でも連載中です。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。
女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。
※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。
修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。
雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。
更新も不定期になります。
※小説家になろうと同じ内容を公開してます。
週末にまとめて更新致します。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる