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第3章 救出編

酔っ払い 3

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 口角を歪めた表情のヴァーンが前に出る。
 これは相当頭にきているようだな。

「ヴァーン、一応言っておくが程々にな」

 そう言う俺も頭に血が上っているけどな。

「分かってらぁ」

「……負けんなよ」

「負けるわけねえだろ」

 この三流冒険者たちがどれくらいの強さかは分からない。
 分からないが、強者の雰囲気はまったく感じない。

 まあ……。

 こんな酔っ払いなんかにヴァーンが負けることはないだろう。

「こいつら、エラそうに」

「ヤラン、やってやれ」

「おう」

 ヤランがヴァーンに、ゾルダーが俺に向かってくる。

 とはいっても、さすがに剣は抜いていない。
 こいつらも最低限の理性は持ち合わせているようだ。

 なら。
 素手で勝負といこうか。

「そっちは任せた」

「了解」

 俺に対するのはゾルダー。
 シアに手を出したやつだ。

 そのゾルダーが直線的に殴りかかってくる。
 フェイントでも仕掛けてくるのかと警戒してみるが、全くそんな素振りもない。
 ただ、真っ直ぐに突き出された右の拳。

 結構な力は籠っているが、それだけのこと。
 避けるのが容易過ぎて、逆に戸惑うくらいだ。

「避けやがったな」

 そりゃ、避けるだろ。

「くらえ!」

 また同じように拳を出してくる。

「……」

 本当に冒険者なのか。
 いくらなんでも、これはないぞ。

 ただ力に任せて拳を振り回しているだけじゃないか。
 酔っているとはいえ、これじゃあ、まったく相手にもならない。

 様子を見る必要もないな。

「こいつ、ちょこまかと動きやがって。大人しく食らいやがれ」

 食らうわけないだろ。

「ダアッ!」

 何の工夫もなく突き出された右の拳。
 それを躱して懐に入り込む。
 空を切ったままの右腕を掴み、そのまま背負ってやる。

「なっ!?」

 初めて見る技だろ。
 この世界には柔道なんてないからな。

「えっ?」

 宙を舞うゾルダー。

 地面は砂地だが、かなり痛いと思うぞ。
 我慢しろよ。

 ドーンッ!

「ウグッ」

 綺麗に背負い投げが決まった。

「ウゥ……」

 酔っ払いが頭を打つと危ないからな。
 そこだけは配慮してやったぞ。

 でも、背中は相当痛いだろ。
 ついでに肘も入れておいたから、そっちも効いたか。

「ウッ、ウッ」

 ああ、そうか。
 息がしづらいか。
 でも、大丈夫だ。
 それはすぐに回復する。

 ほら、楽になってきただろ。

 それで。

「まだ、やるか?」

「……」

 返事がない。
 と思ったら、気を失っている。

 ……。

 これが冒険者かよ。
 色々な意味でガッカリだ。


 と、そこに。

「コーキ先生、凄いです。今のは何なんですか?」

 駆け寄ってきたシアの顔が輝いている。

「ちょっとした投げ技だよ。で、ヴァーンの方は?」

 ああ……。

 馬乗りになって殴ってるな。

「ヴァーン、それくらいにしとけよ」

「ん? そうだな。これくらいで許してやるか」

 いや、いや、そいつも気を失っているぞ。
 やり過ぎじゃないか。

「ヴァーンさんも凄いです」

 シアは喜んでいるけど。

「だろ。俺も強いんだぜ」

「はい。おふたりとも、本当に強いんですね」

「俺に惚れちまったか」

「なっ、何言ってるんですか」

「顔が赤いぞ」

「ヴァーンさんが、変なこと言うからです」

「そうかぁ」

「そうです。でも、ありがとうございました」

「ああ、いいってことよ」

 こいつら楽しそうだな。
 まあ、いいけどさ。

「ケリーさん、このふたりは気を失っているだけですから、後のことはお願いしてもいいですかね」

「あっ、ああ。任せてくれ。酔いがさめたら、こいつらにはしっかりと言い聞かせておく」

「頼みます。それと、余計なお世話でしょうが、パーティーメンバーはよく考えた方がいいですよ」

「……そう、だな」

 こんな2人と組んだら苦労するだけだろ。
 ケリーさんはまともな冒険者のようだから、組む相手は考えた方がいい。

「俺も、こいつらとはもう組まないつもりだ。酒を飲んだことも驚きだったが、まさか酒でここまで変わるとは思わなかったからな」

 酒で豹変する輩か。
 まっ、こんなところで飲むのがそもそもの間違いだと思うけどな。

「それがいいですね」

「その、今回は本当にすまなかった」

「ケリーさんが、何度も謝る必要はないですよ」

「いや、今はまだ俺もパーティーの一員だからな」

「そうですか。でも、もういいですので」

「……分かった」

「では、これで失礼します。ヴァーン、シア、帰ろうか」



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