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第2章 エンノア編
古野白楓季 5
しおりを挟む<古野白楓季 視点>
「そうなのね」
「大学から近いので便利ですよね」
「まあ、そうね」
「それが理由で古野白さんはこの近くに部屋を借りたのですか?」
「それもあるけど、その、手配してくれたから」
この大学に進学することが決まった時、上から用意された部屋に今の私は住んでいる。
「なるほど。しかし、縁がありますね」
そう……。
あの公園で遭遇した彼が、まさか同じ大学に通っているとは思いもしなかった。
病院の前で別れた時は、もう会うこともないと思っていたのに……。
「そう、ね」
ついさっき。
飲み会で有馬くんの姿を見かけた瞬間、驚きで声が出なかった。
お互い面識のない他人という認識でいることに合意していたから、飲み会の席では有馬くんに話しかけるのも躊躇ってしまった。
いつ話しかけるべきか迷いながら、焼酎ばかり飲んで……。
まあ、おかげで焼酎の話ができたのだけれど。
「有馬くんは、私のこと気付いていなかったけどね」
私のことなんて覚えてもいない、そんな雰囲気だった。
その後の公園で話をしても、なかなか思い出さないし。
やっぱり、良い気はしないわよ。
「いや、それは……。すみません」
有馬くんの恐縮したような顔を見つめていると、目をそらされてしまった。
「別にいいけど……。そんなに雰囲気が違ったかしら」
「前回とちがい、今日は帽子もかぶってラフな感じでしたから。それに、公園は暗かったというのも……」
確かに、あの日は仕事中だったから仕事着を身につけていた。
対して、今夜はジーンズにティーシャツ、それにパーカーを羽織ってサマーニット帽。
かなりラフな格好だ。
でも、帽子を脱いでも気付かなかったのよね。
「……すみません」
「いいわよ。怒っているわけじゃないし」
「はあ」
「まあ、私はすぐに気付いたけどね」
前回も今回も同じような服装だったし、何より身長が高くがっしりした筋肉質の身体つきをしているから、分かりやすかったのよね。
「……」
あまり、苛めたらかわいそうね。
「冗談よ」
なんてことのない会話をしていると、あっという間に私の住むマンションの近くまで来ていた。
この通りをもう数分歩いて右に曲がればすぐに到着する。
駅から離れてこの辺りまで来るとネオンは見られないので、灯りと言えば道端の街灯だけ。
少し薄暗いのよね。
夜になると人通りは少なくなるし、今も通りには私たち以外誰もいない。
1人だと寂しく感じる道だわ。
横には、私の歩調に合わせて歩いている有馬くん。
今夜も色々あったけど、本当に危なかったけれど、有馬くんのおかげで切り抜けることができた。
だから、今もこうして無事に帰ることができる。
不思議な人。
戦闘の場では、あんなに冷静で、というか余裕のある飄々とした感じ。
さっきの居酒屋でも他の子たちとは違う大人びた超然とした雰囲気だった。
それでいて、戦闘能力は計り知れないものがある。
有馬くんの言葉を信じるなら、アイスアローに石を投げて撃ち落としたり、物理結界を力技で破壊したり……。
あり得ない。
常識外れもいいところだわ。
焼酎の飲み過ぎで調子が良くなかったとはいえ、私の炎でも破壊できなかった結界なのに。
はぁ~。
本当に想像の埒外よ。
実際に目にしていなかったら、信じられないわよね。
みんなに話してもきっと信じないわ。
でも、本当にすごかった。
すごかったけど……。
本当に異能を持っていないのかしら?
有馬くんは異能については否定しているし、言動から見ても異能についての認識はないようだった。それは信じていいと思う。
とは言っても、野良の異能者なんてそんなもの。
自分の能力を正しく理解せず、ただ使っているだけという者はかなり存在する。
けど、有馬くんからは真気を全く感じないのよね。
私たち異能者が異能を発現する際に生じるエネルギー。
その真気を彼からは全く感じ取ることができないから。
本当に分からない。
分からないと言えば、もうひとつ。
仮にあの投石が異能だったとすると、それはストーンバレットやストーンボールと言った土系の異能、もしくは念動力系のもの。でも、さっきの結界を破壊したあの力は土系でも念動力系でもなかった。
それが何かは全く分からなかったのだけれど……。
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