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第2章 エンノア編

エンノア 17

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<長老ゼミア視点>



「コーキ殿が我らに仇なすとは思えん。いや、ありえんじゃろ」

「とは思いますが……。力を見られたのでは」

「一瞬のことじゃが、フォルディの力を見られたやもしれんな」

「そう聞いております」

「ふむ。じゃが、見ておらぬやもしれん。それに、力を見られたとして……」

「……」

「フォルディとユーリアを救ってくれた恩、今まさに病に伏す者たちを救ってくれようとしておる恩、これだけでも信頼にあたうじゃろ」

「ですが」

「コーキ殿とは、折を見て話をするつもりでいるからの。心配は無用じゃ」

「はい」

「しかし、根拠なき好意とはのう」

「不思議です」

「これ以前にエンノアの者と接触したとは考えられぬか?」

「それはないと思われますが」

「まあ、そうじゃろうの」

「コーキ殿は、出会って僅かばかりの時間で我らに好意を持っていただいた、そういうことになりますか」

「そう考えるしかあるまい」

 厚意を抱いているという事実があるのじゃから、納得するしかないわの。

 いずれにしても、今回のことはコーキ殿の人柄と、エンノアへの好意があれればこそ。
 我らにとっては僥倖としか思えぬことじゃわい。

「それで、この恩をどう返せば良いものか。お主に良案はあるかの?」

「……」

「この恩に見合う物など我らは持ち合わせておらぬか」

「……はい」

「そうなると……我らの力で返すしかないかの。コーキ殿が望めばじゃが」

「まさか、我らの力を明かすのですか!?」

「場合によってはの話じゃ」

「……」

「不服かの」

「いえ……」

 納得しておらぬようじゃな。

「コーキ殿は信用できる。お主もそう思うておるじゃろ」

「はい。ただ、万が一の場合は」

「ふむ」

「操作できぬかもしれませぬ」

「そうじゃな……。いざとなれば、わしの命と引き換えに操作を試すしかないの」

「ゼミア様……」

「まあ、そんなことはあるまいよ」

「……はい」

 そんな浮かぬ顔をせずともよいわ。
 コーキ殿との出会いがもたらすものを考えれば分かるじゃろうに。

「お主は心配性じゃが、今回ばかりは要らぬ心配じゃぞ。何と言っても……」

 ふむ、口に出すとなると、やはり躊躇うのう。
 それだけの重みがあるということじゃ。
 スペリスも同じ思いかの。

「何と言ってもコーキ殿は我らの救世主となられる御方、いや、その可能性が高い御方じゃからの」

 ここからが本題じゃぞ。
 それは、スペリスも分かっておること。

「やはり、ゼミア様もそうお考えになりますか」

「あの御方である可能性は高いじゃろうの。そうは思わぬか?」

「黒目黒髪、読み難く操作し難い心。エンノアに対する行動。ゼミア様がそのように考えられるのも当然だと思います」

「そうじゃな」

「ですが……」

「白の御方じゃな」

 スペリスは慎重じゃな。
 そこが良いところでもあるのじゃが。
 とはいえ、確かに今のままでは断定はできぬわな。

「はい、これで白の方がいらっしゃれば何も言うことはないのですが」

「ふむ、問題はそこよ」

「はい」

「それでもじゃ。コーキ殿が我ら宿願の御方である可能性は高い。これから白の方を連れて来られる可能性も高いじゃろ」

「はい、その時こそは」

「そうじゃの」




*************




 昨夜、診察と治療を終えた俺は療養室の隣室で仮眠をとることになった。
 日本とエンノアを行ったりきたりで睡眠も不規則になってはいるけれど、日本にいる間は比較的しっかりと睡眠をとれている。

 そういう訳だから、精神的なものは別として身体には疲労は溜まっていないはず。

 仮眠でも充分だろう。


「……ん?」

 揺さぶられる肩に意識を戻される。

「サキュルスさん?」

「コーキ殿、睡眠中すみません。少しよろしいでしょうか?」

 懐中時計を見る。
 3時間ほど眠れたかな。

「はい、どうしました?」

 重症者の容体を確認するため、今はサキュルスさん、フォルディさんと俺の3人交代で仮眠をとりながら看病を続けている。

「アデリナの症状が少し……」

 その言葉で即座に目が覚める。

「分かりました。様子を見に行きましょう」

 何があった?
 前の時間の流れでは明日未明に亡くなったアデリナさん。
 昨夜の治療の効果がないなら、いつ容体が急変してもおかしくはない。

 駄目だったのか?
 冷汗が流れる。

 急いで駆け付けた先では……。

 明らかに顔色が良くない。

「アデリナさん、大丈夫ですか?」

 アデリナさんの寝台の横に立ち語りかける、が。

「……はい、だい、じょぶ、です」

 全く大丈夫じゃない。
 まずい状態なのか?
 やはり、俺では対処できないのか。

 ……。

 けど、意識はある。
 話せるだけまし、なのか。

 なら俺は……。

 今できることをするだけだ!

「ちょっと失礼します」

 脈をとり、熱を確認。
 他にも素人診察を行う。

「……」

「どうですか?」

 隣のサキュルスさんが訊ねてくる。

「熱が高いですね」

 それは確かだが、何が原因か正確には判断できない。
 とはいえ、おそらく……。

「どういうことでしょう?」

「異なる病を併発しているのかもしれません」

「では、どうしたら?」

「これから治療してみます」

 アデリナさんの前で不安な顔を見せるわけにはいかない。
 だから、そう答えたものの。

 素人知識では何の病なのか確定などできないし、最善の治療ができるとも思えない。
 正直、自信はない。

 それでも、今持っている薬類などで可能なことを考えるしかない。
 もし、駄目なら、その時はリセットして。

 ……。

 ……。

 しまった!
 セーブを忘れているんじゃないのか?

 すぐさま、ステータスを確認する……。

 やってしまった!
 セーブをせずにここまで過ごしている。

 フォルディさんを助ける前に、あるいは、エンノアの地下に入る前にセーブしようと思っていたのに、思わぬ出来事のせいですっかり失念していた。

 なんてことを!

 ……。

 けど……。

 今さら悔やんでも、どうしようもない。
 とりあえず、今できることは?

 まずは、ここでセーブ?
 いや、ここで使うべきなのか?
 今後リセットして、この時間に戻って来ても、できる事はあるのか?
 できる事があるなら、今これからできるんじゃないのか?

 ……。

 いや、ちがう。
 何ができるか分からないからこそ、今ここでセーブだ。

『セーブ』

 口に出さずにセーブを完了。

 ここからは、今の俺に考えられる治療をするだけだ。

 助けてみせる!



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