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第2章 エンノア編

フラッシュバック 2

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『エンノアの食事はいかがでしょう? お口に合いますか?』

 エンノアの夜の宴。
 ゼミアさんとその家族、スペリスさん、ミレンさん、ゲオさん、サキュルスさんが参加しているのだが、フォルディさんの姿がない。

『ええ、とても美味しいです』

 美味しいのは間違いないが、どうにも料理に集中できない。

『それは嬉しいお言葉です。なにか気に入られた料理はございましたか?』

『そうですね……。この肉なんかは濃厚な味わいなのに食べやすくて、とても美味しかったです』

 集中できないが、味は確かだ。

『ああ、それはブラッドウルフの背肉ですね』

『それは、さきほどの』

『はい、コーキ殿からいただいたブラッドウルフです。コーキ殿の歓迎の宴にコーキ殿からいただいた食材を使うというのも失礼かと思いましたが、ブラッドウルフの肉は非常に珍しい食材でとても美味なものですから。新鮮なうちに是非味味わっていただきたいと思いまして』

 そうなのか。
 そんな食材をエンノアの皆さんに提供できて良かった。
 美味しいものを食べて、元気になってもらいたい。

『いえ、提供した食材を使っていただいて私も嬉しいです。しかし、ブラッドウルフの肉は初めて食べるのですが、美味しいんですね』

『お気に召されたようで、こちらとしても安心しました。まあ、その背肉もコーキ殿のおかげなのですが』

 こんな気持ちで食べていても、本当に美味しく感じる。
 フォルディさんにも食べさせてあげたいな。

 ……。

 そんな気分じゃないか。

 ……。

 大丈夫だ。
 そう、大丈夫。
 俺が何とかするから。

 リセットしてやり直すから。



――――――



 俺が何とかする?
 リセットする?

 ……。

 なぜ、そんな?

 ……。

 ……。

 滴る汗が頬を伝ったまま地面へと落ちていく。
 背中も冷たくなってきた。

 噛みしめた唇に血がにじむ。
 汗と血が混ざり合う。
 気持ち悪い。

 頭が痛い。

 うっ!
 吐きそうだ。

 そして、また光が……。



――――――



『コーキ殿、今夜は病人まで診ていただき、本当にありがとうございました』

 ゼミアさんとスペリスさんが、頭を下げて感謝の意を表してくれる。

『いえ、今後もお力になれれば嬉しいのですが……』

『その気持ちだけで十分です』

『コーキ殿も随分とお疲れでは?』

『私は、まあ……大丈夫です』

『そうは見えませんが』

『顔色が優れぬようで』

『いえ、本当に平気です』

『そうですか。ですが、あまり思いつめず、肩の力を抜いてくだされ。コーキ殿には何の責任もございませんから』

『今夜はゆっくりお休みください』

『……はい。では、休ませていただきます』

 本当はなるべく早くリセットするつもりだった。
 遅くとも今夜のうちにはと思っていたのだが、この状況を知ってしまった後では。

 ……。

 もうしばらく様子を見た後に、リセットしようと思う。

『それが好いです。でも、その前にこちらをお飲みください。疲労回復効果のある薬酒です』

 薬酒?
 そんな貴重なものを俺なんかに。
 ありがたいことだ。

『ありがとうございます』

 ゆっくりと口に含む。
 ほのかに苦味があるが、悪くない。

『これでゆっくり眠れますよ』

『そうで、す……ね』

 疲れのせいなのか薬酒の影響か、急に眠気が襲ってきた。
 言葉を返しながらも眠気に抗うことができない。

『コーキ殿、おやすみなさい』

『……は、い』

『明日になれば頭の中から悩みは消えていますよ。フォルディの力のことも……』

『……』



――――――



 ……。

 リセット前に経験したと思っていたものとは異なっているが。

 これは……。

 やはり、これは俺の記憶なのか?

 ……。

 断定はできない。
 が、そうなのかもしれない。

 どうして記憶にこんな齟齬が……。

 うっ!

 頭が痛い。

 けれど、そんな痛みより……。

 あの薬酒に何かあったのか?
 薬酒を飲んだ後の急激な眠気は確かに普通じゃなかったが……。

 分からない。

 分からないまま、もう何度目か分からない光が溢れ……。



――――――



『うそ? ブラッドウルフをひとりで倒すなんて!』

『す、すごい』

 右前方にいる女性は腰を抜かしているようだが、目立った傷は見当たらない。
 後方にいる男性は明らかに傷を負っている。

 手当てをしないとな。

 ひとまず、男性のもとに近づき。

『傷を見せてもらえますか?』

『えっ、は、はい』

『脚だけですか?』

『はい、他は擦り傷くらいで問題ないです』

『服の下も見せてもらいますよ』

 切り裂かれた服の下、かなり出血している。

『右脚をやられまして……出血していますが深手ではありません、大丈夫です』

『そうですか……』

 確認してみるが、確かに見た目ほど深い傷ではなさそうだ。
 これなら、俺の治癒魔法の応急処置でもいけそうだな。

 ということで、さっそく治癒魔法を行使。

『ところで、あなたは?』

 まだ治癒中だが、聞かずにはいられないという感じで尋ねてくる。

『通りすがりの者です』

『通りすがりって、こんな場所に?』

『そうです』

 実際、薬草採取のついでに散策していただけだから。

『そんなことが……って、えっ!?』

 突然、男性の眼が驚愕に染まる。
 何だ?

『ブラッド……』

 男性の視線の先、俺の背後には女性がいるだけだが。

『ユーリア!』

『きゃあぁぁぁ!!!』

 前からは男性の叫び声。
 背後からは耳をつんざくような悲鳴。

 治癒魔法を中断し振り返る、と。

 なっ!?

 ……。

 ……。

 女性が地面に倒れ伏していた。

 血だまりの中、ひとりの女性が浮かんでいる……。

『ユーリア、ユーリアァ!!』

『グルルル』

 何が?
 一瞬、思考が停止する。

『ユーリア!』

 脚を引きずりながら、必死に女性のもとへ向かおうとする男性。

『!?』

 その男性の勢いに思考が戻る。

 俺の傍らには息絶えたブラッドウルフ。
 男性の向かう先には倒れ伏す女性。

 そして……。

 腕を爪を真っ赤に染め上げた魔物。
 もう1頭のブラッドウルフ……。

 あいつ。
 あいつがやったのか!



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