上 下
83 / 1,194
第1章 オルドウ編

男子会 1

しおりを挟む

 ヴァーンベックさんはギリオンとたまにパーティーを組む冒険者だそうで、ここ1年ほどはオルドウで活動しているらしい。

 その見た目に反して、なかなか気さくで面白い人柄だったもので、3人での飲み会は大いに盛り上がった。

 店の料理と酒も夕連亭に匹敵するくらい美味しく、おかげで今も楽しく、好い時間を過ごせている。

 そうそう。
 結局、夕連亭には行かず、ギリオンの行きつけの店で飲むことになったんだ。


「で、コーキの目標は何なんだ?」

 お腹も満たされ、酒もそれなりに進んだところでのこと。

「ん? オルドウでの話か?」

「いんや、オルドウじゃなく剣士としてのお前の目標だ」

 剣士として生きていくなんて一言も言ってないっての。

「ん…特に考えてないなぁ。まっ、色々と経験したいとは思っているかな」

 10代の頃はいろいろと妄想したものだが、日本の日常の中で30年も待っていると、何をしたいなどと具体的に考えることは少なくなった。
最近では異世界に来ることだけを目的にして行動をしていたような気がする。

 オルドウに来てからも、予想外のことが起こったおかげで、あまり余裕がなかったしな。

 まっ、心躍る冒険をしたいというのは、ずっと変わらず心の中にあるんだけど。

「なんだそりゃ」

「田舎者だから、多くのことに慣れる必要があるんでね」

「面白みのねえ奴だなぁ。剣はそこそこ使えんのによ」

「面白くなくていいんだよ。まず俺はオルドウの街と冒険者の活動に慣れる必要があるからな」

「確かにそれは大事だな。分からないことがあったら、ギリオンじゃなく俺に聞けよ」

「ヴァーンベックさん、ありがとうございます」

「おう、何でも聞いてくれ」

 それなら、ひとつ聞いておきたいことがある。

「実は人を探しているんですが」

「ん? 誰だ?」

「冒険者をしているかどうかは分かりませんが、赤い髪のリーナという女性と金髪のオズという男性、ふたりとも15~20歳くらいなのですが、知りませんかね?」

 時間にずれがあるかもしれないので、2人の年齢については正直分からない。
 駄目元で聞いてみよう。

「リーナにオズか……。その名前は聞いたことがねえわ」

「そうですか」

「わりいな」

「いえ……」

 まっ、そうだろうな。
 オルドウみたいな街で人を探すのは難しいよな。

 しかし、リーナもオズもオルドウにいるんだろうか?
 これまで何人かに聞いてみたが、誰もふたりのことを知らなかったからなぁ。
 オルドウ以外の街に住んでいる可能性の方が高いのかもしれない。

 分かってはいたが、簡単じゃなさそうだ。

「ヴァーンじゃダメだな。オレに任せりゃいいぞ。なっ、コーキ」

「じゃあ、ギリオンはこのふたりを知ってんのかよ」

「いや、知らねぇ」

「なんだそりゃ」

 本当になんだそりゃだわ。
 でも、おかげで湿っぽくならずにすんだな。

「なっ、ギリオンに聞くのは止めといた方がいいぜ。知識も常識もないからな」

「んだと、オレのどこが常識ないってんだ」

「つい最近も非常識なことやってただろうが」

「んなことやってねえぞ」

「ほら、これだ」

 飲み会が始まってからずっとそうなんだが、この2人のやりとりは横で聞いているだけで面白い。

「負けても負けても毎日のようにレイリュークに挑んでただろうが、ありゃ迷惑この上ないぜ」

「迷惑じゃねぇ。なんせ、いい勝負だったからな」

「何言ってんだ。レイリュークに簡単にあしらわれていただろうがよ」

「そんなことねえわ。もう一歩だったっての」

「よく言うぜ」

「嘘じゃねえ。おい、コーキ、こいつの言うこたぁ、信じんなよ」

「……」

「これだから酔っ払いはタチがわりい。しかしまあ、こんな有様で赤鬼ドゥベリンガーや剣姫イリサヴィアや幻影ヴァルターに勝つって言うんだぜ。信じられるか、なあ、コーキ」

「はん、近々勝ってやるわ」

 口を挟む暇がない。

「レイリュークに子供扱いされてたのにな」

「だから、されてねえっつってんだろ」

 子供扱いかどうかは分からないが、ギリオンはオルドウ滞在中のレイリュークさんと数度対戦し、一太刀もその身体に浴びせることができなかったらしい。

 実際に対戦を見たわけではないので詳しいことは分からないが、さすがに善戦したとは思えないよな。

 ちなみに、今回も俺はレイリュークさんに会えていない。
 残念だが、色々とあったから仕方ないな。
 次の機会を楽しみにしよう。

「ホント、レイリュークも良く相手してくれたよなぁ」

「ふん、それはオレ様が強いからよ」

「そうかい。さすが未来の剣豪様だよ」

 呆れたように両手を上げて、こちらに視線を送ってくる。

「おうよ。分かりゃいい」

「コーキ、こいつ酔ってるから許してやってくれよ」

 いい気分で酒を飲んでいるギリオンに聞こえないような小声で囁いてくる。
 なんだかんだ言いながらも、気にかけているんだな。
 良い関係だ。

 まあ、ギリオンはこっちのことなど気にもとめず、ひたすら杯をあおっているだけなんだけどさ。

「ええ、分かってますよ」

「でもなぁ、コーーキィ~。お前はもっと大きな夢を持てっよ」

「……」

 かなり酔いがまわってきた感じだ。

「オレの夢はなぁ、キュベリッツで最強の剣士になることだぁ~」

「うるせえなぁ。もう何度も聞いてるわ。コーキもだろ」

「まあ、そうですね」

「しかし、最強の剣士ねぇ。そんなに興味はねえけど、今の最強って誰なんだろうな」

「オレさまだ」

「分かった、分かった。で、お前以外だと誰だよ」

「そりゃあ、ドゥベリンガーかイリサヴィアだっろ」

「ヴァルターじゃ駄目か」

「あいつぁ、もう現役じゃねえからな」

「まあ、そうだな」

 レイリュークさんに加え、赤鬼ドゥベリンガー、剣姫イリサヴィア、幻影ヴァルター。
 こちらの世界に来てから何度か耳にした高名な剣士の名前。
 その中でもドゥベリンガーとイリサヴィアが抜けているらしい。
 いつかお手合わせ願いたいものだ。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...