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第1章 オルドウ編
夕連亭 18
しおりを挟む雷撃が発動しない!
何が起こったんだ?
良く分からない。
分からないが、もう一発だ。
「雷撃!」
……。
やはり発動しない。
すぐ目の前で消えてしまう。
なら、これは。
火炎の球を無詠唱で放つ。
が、やはり消えてしまった。
いったい、どういうことなんだ?
前回はこの雷撃の魔法を使うことができた。
何の問題もなかったのに。
意味が分からない。
分からないが、この場に何らかの力が働いているということか。
そう考えると、少し身体が重い感じもする。
「フフフ」
オルセーが俺の隠れている厨房に近寄って来る。
リルという大男はウィルさんの前で立ち止まったまま、こちらを見つめている。
「厨房に隠れて不意討ちですか」
「……」
「卑怯な手を使ったのは、どこの誰だか知りませんが、とんだ道化ですね。居場所を教えてくれるなんてね」
まいった。
魔法を使えない上に奇襲もできないとは!
……切り替えるしかないな。
オルセーは間違いなく手練れだし、リルという男も侮れないだろう。
それでも、やるしかないのだから。
今回新たに用意した片刃の剣を抜き、ゆっくりと食堂内に歩を進める。
「コーキさん、どうして」
剣を構える大男を目の前にしているのに、ウィルさんはこちらのことを心配してくれている。
「ウィルさん、逃げてください」
現状、ヨマリさんは敵か味方か判別できない。
ウィルさんだけでも逃げてもらえれば。
「そうはさせませんよ。リル、とりあえず眠ってもらいなさい」
「分かった」
言葉を発するやいなや、大男がウィルさんに襲いかかる。
「ウィルさん、危ない」
「そうはさせませんよ」
駆け出そうとする俺の前に立ちはだかるオルセー。
「くっ! 火炎弾」
やはり、発動しない。
「フフ、まだ魔法を使うとは懲りない人ですね」
「ウィルさん!」
「コーキさん、ウッ」
オルセーの背後で、ウィルさんが床に崩れ落ちる。
「!?」
大男に昏倒させられた?
意識を失っているだけだよな。
「まさか、殺していないだろうな」
「お優しいですねぇ。まあ、今は大丈夫ですよ」
「……」
本当だろうな。
「今はですけどね」
それでいい。
無事なら、あとは俺が何とかする。
「オルセーさん、そこまでする必要ないでしょ」
ずっと沈黙を保っていたヨマリさんが、ウィルさんに歩み寄る。
「これ以上のことをすると言うのなら、私にも覚悟があります」
「ほう、どんな覚悟です」
「……」
「大した覚悟ですね。ヨマリ」
「オルセー……」
「まっ、その娘のことは後にしましょうかね」
「リル、こっちに来なさい」
俺の前には、痩せ男オルセーと大男リル。
その後ろに、ウィルさんを庇うようにヨマリさんが立っている。
「ヨマリさん、ウィルさんは大丈夫ですか?」
「ええ、命に別条はないようです」
「よかった」
「でも、コウキさんがなぜここに?」
「それは…」
言葉が出てこない。
このふたりと対峙している状態で、上手くごまかすことなどできそうもないから。
「はい、はい、そんなことは後で私が聞いてあげますよ。たっぷりと身体にね。だから、ヨマリはそこで静かにしていなさい」
「……ウィルの命は助けてくれるのよね」
「うーん、どうしましょう」
「……」
「私の言うことを大人しく聞くなら、少しは考えてあげましょうかねぇ」
まさか、ヨマリさんがオルセー側につくということはないよな。
前回もそんな様子は見えなかったのだから。
……。
いずれにせよ、下手に動かれるとまずい。
ここは静観してもらう方がいい。
「ヨマリさん、そこを動かないでください。この2人は私が何としますので」
「コウキさん」
「フフ、ハハハ、本当にあなたは笑わせてくれますね、道化師さん」
「その気持ち悪い嗤いは止めた方がいいぞ、ガリガリ男」
侮ってくれるなら好都合だ。
憤慨してくれたら、なお好し。
「リル、あの愉快で汚い口を黙らしてあげなさい」
「分かった」
大男が一歩前に出る。
1人ずつ相手をしてくれるのか。
見下してくれて助かるよ。
「でくの坊からか、さあ、かかって来い」
「でくの坊じゃない」
呟くように言い捨てると、大剣を上段に構えて飛び込んできた。
この大男の膂力は半端ない。
俺の持つ安物の剣で下手にいなすと、剣刃に傷がつく恐れがある。
なので。
剣圧を肌に感じながら、一歩跳び退って避ける。
ゴン!
剣が床を破壊する。
が、遅いな。
オルセーと比べたら雲泥の差だ。
この大男、力は侮れないが敏捷性はない。
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