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第1章 オルドウ編
夕連亭 8
しおりを挟む日本時間19時。
オルドウは。
「……」
窓から外を確認。
早朝に間違いない。
想定通り、3刻だな。
前回同様、今回も階下でウィルさんと話しておこうか。
早朝、食堂内に客がいない状況でも、厨房内はそれなりの喧騒に包まれている。
ウィルさんも忙しそうに働いている。
「おはようございます、ウィルさん。早くからお疲れ様です」
「あっ、おはようございます。コーキさんこそ、お早いですねぇ、よく眠れましたか」
「おかげさまでよく眠れました」
穏やかな笑顔。前回と何ら変わらない。
「そうでしょう、ウチの宿のベッドは寝心地が自慢なんですよ」
「そうですね」
「コーキさんが喜んでくれてよかったです。ああ、朝食はもうすぐ用意できますので、少し待っていてくださいね」
その後、朝食をいただき夕食までの時間を過ごす。
が、やはり何の手掛かりも得ることはできなかった。
ある程度は予想していたこととはいえ。
あまりの収穫のなさに疲労と、それにも増して焦りを感じてしまう。
そして、夕食。
「ヨマリさんとウィルさんの再会を祝して、かんぱい!」
ヨマリさんとウィルさんの3人で囲む食卓。
元気を出そうと思うのだが、なかなか難しい。
「はい、乾杯」
「乾杯。でも、その乾杯は先日もしていただきましたのに」
「乾杯は何度しても良いものですよ」
「まあ、そうですね。では、ありがたく」
前回同様の食事が始まった。
笑顔を顔に張り付けながら、2人に気付かれないように周囲の観察を続ける。
「コーキさん、ヴィーツ酒はどうですか?」
「口当たりのよい美味しいお酒ですね。何杯でも飲めそうです」
「それは良かった」
2人組の男性客が食堂に入って来た。
それを確認したヨマリさんが落ち着きを無くし始める。
この2人か……。
手掛かりを見つける最後の機会かもしれない。
「ヴィーツ酒はオルドウの特産品ですから、喜んでもらえて嬉しいです。……どうかしましたか?」
「いえ、ヴィーツ酒に似たお酒を飲んだ記憶があるような……。そんな気がしたもので」
まずい、ウィルさんに怪しまれた?
ヨマリさんは、こちらに意識が向いていない、か。
「そうでしたか、思い出したなら、そのお酒ぜひ教えてください」
「ええ」
ウィルさんは笑顔で流してくれた。
まあ、ここで怪しまれたところで問題はないだろう。
さて、件の2人組。
前回今回と夕連亭で過ごした中で、怪しいと思える者はほとんどいなかった。
それでも、あえて挙げるならこの2人組が怪しいと言える。
前回の夕食時のヨマリさんの様子。この2人連れの客に気を取られていた。その2人が今回の事件に関係あるかどうかは分からない。それでも、ヨマリさんが意識していたことは確かだ。そして、当然のようにヨマリさんは今も2人に気を取られている。
この2人組、今日のこの時間まで見かけることはなかった。
この時間になって始めてこの宿に来たのかもしれない。
その2人組だが、今のところ特に変わったところはなく周りの客と何ら変わりはない。
とはいえ、不審人物だと見なして観察してみると、まあ、そう思えなくもないかな。
ちなみに、この2人組に鑑定をしてみたところ。
人間
と出ただけだった。
これはさすがに、鑑定しなくても分かる。
時には非常に便利な鑑定だが、人に対しては使えないな。
まあ、人間以外の種族を調べるには有効かもしれないけれど。
「ヨマリさんは、お好きなのですか?」
2人組に気を取られているヨマリさん。
「えっ、ああ、私はヴィーツ酒はあまり飲みませんね」
「そうなのですか?」
「故郷の村ではヴィーツ酒はあまり見かけませんので」
「なるほど」
少し探りを入れてみるか?
「ヨマリさん、何か気になる事でもおありですか?」
微笑みながら二心ないように。
「いえ、特には……」
「そうですか」
ここから話をどう進めるか。
掘り下げてみるか?
いや……。
会話内容を大幅に変えてしまうのはリスクがある、か。
この後の流れが変わってしまうと対応が難しいから。
「母は少し疲れているのかもしれませんね。今夜は早く休んだ方がいいよ」
「そうね」
「コーキさん、ガンドはいかがです?」
会話内容が前回と同じものに戻っていく。
それはそれで安心できてしまう。
不思議なもんだな。
「これも美味しいですね」
「どうぞ、たっぷりお召し上がりください」
「ありがとうございます」
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