30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
上 下
52 / 1,294
第1章 オルドウ編

夕連亭 8

しおりを挟む


 日本時間19時。
 オルドウは。

「……」

 窓から外を確認。
 早朝に間違いない。
 想定通り、3刻だな。
 前回同様、今回も階下でウィルさんと話しておこうか。


 早朝、食堂内に客がいない状況でも、厨房内はそれなりの喧騒に包まれている。
 ウィルさんも忙しそうに働いている。

「おはようございます、ウィルさん。早くからお疲れ様です」

「あっ、おはようございます。コーキさんこそ、お早いですねぇ、よく眠れましたか」

「おかげさまでよく眠れました」

 穏やかな笑顔。前回と何ら変わらない。

「そうでしょう、ウチの宿のベッドは寝心地が自慢なんですよ」

「そうですね」

「コーキさんが喜んでくれてよかったです。ああ、朝食はもうすぐ用意できますので、少し待っていてくださいね」




 その後、朝食をいただき夕食までの時間を過ごす。
 が、やはり何の手掛かりも得ることはできなかった。

 ある程度は予想していたこととはいえ。
 あまりの収穫のなさに疲労と、それにも増して焦りを感じてしまう。

 そして、夕食。

「ヨマリさんとウィルさんの再会を祝して、かんぱい!」

 ヨマリさんとウィルさんの3人で囲む食卓。
 元気を出そうと思うのだが、なかなか難しい。

「はい、乾杯」

「乾杯。でも、その乾杯は先日もしていただきましたのに」

「乾杯は何度しても良いものですよ」

「まあ、そうですね。では、ありがたく」

 前回同様の食事が始まった。
 笑顔を顔に張り付けながら、2人に気付かれないように周囲の観察を続ける。

「コーキさん、ヴィーツ酒はどうですか?」

「口当たりのよい美味しいお酒ですね。何杯でも飲めそうです」

「それは良かった」

 2人組の男性客が食堂に入って来た。
 それを確認したヨマリさんが落ち着きを無くし始める。

 この2人か……。
 手掛かりを見つける最後の機会かもしれない。

「ヴィーツ酒はオルドウの特産品ですから、喜んでもらえて嬉しいです。……どうかしましたか?」

「いえ、ヴィーツ酒に似たお酒を飲んだ記憶があるような……。そんな気がしたもので」

 まずい、ウィルさんに怪しまれた?
 ヨマリさんは、こちらに意識が向いていない、か。

「そうでしたか、思い出したなら、そのお酒ぜひ教えてください」

「ええ」

 ウィルさんは笑顔で流してくれた。
 まあ、ここで怪しまれたところで問題はないだろう。

 さて、件の2人組。

 前回今回と夕連亭で過ごした中で、怪しいと思える者はほとんどいなかった。
 それでも、あえて挙げるならこの2人組が怪しいと言える。

 前回の夕食時のヨマリさんの様子。この2人連れの客に気を取られていた。その2人が今回の事件に関係あるかどうかは分からない。それでも、ヨマリさんが意識していたことは確かだ。そして、当然のようにヨマリさんは今も2人に気を取られている。

 この2人組、今日のこの時間まで見かけることはなかった。
 この時間になって始めてこの宿に来たのかもしれない。

 その2人組だが、今のところ特に変わったところはなく周りの客と何ら変わりはない。
 とはいえ、不審人物だと見なして観察してみると、まあ、そう思えなくもないかな。

 ちなみに、この2人組に鑑定をしてみたところ。

 人間

 と出ただけだった。
 これはさすがに、鑑定しなくても分かる。

 時には非常に便利な鑑定だが、人に対しては使えないな。
 まあ、人間以外の種族を調べるには有効かもしれないけれど。

「ヨマリさんは、お好きなのですか?」

 2人組に気を取られているヨマリさん。

「えっ、ああ、私はヴィーツ酒はあまり飲みませんね」

「そうなのですか?」

「故郷の村ではヴィーツ酒はあまり見かけませんので」

「なるほど」

 少し探りを入れてみるか?

「ヨマリさん、何か気になる事でもおありですか?」

 微笑みながら二心ないように。

「いえ、特には……」

「そうですか」

 ここから話をどう進めるか。
 掘り下げてみるか?

 いや……。

 会話内容を大幅に変えてしまうのはリスクがある、か。
 この後の流れが変わってしまうと対応が難しいから。

「母は少し疲れているのかもしれませんね。今夜は早く休んだ方がいいよ」

「そうね」

「コーキさん、ガンドはいかがです?」

 会話内容が前回と同じものに戻っていく。
 それはそれで安心できてしまう。
 不思議なもんだな。

「これも美味しいですね」

「どうぞ、たっぷりお召し上がりください」

「ありがとうございます」

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

処理中です...