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第1章 オルドウ編

リセット 3

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 たった一言が口から出てこない。


「はあ、はあ」

 息が苦しい。

「はあ……」

 ちょっと、待て。
 少し落ち着こう。

「……」



 数分ほど横になると、楽になってきた。

 しかし、これは……。

 まいったな。

 けど、まだまだ時間には余裕がある。
 オルドウに戻って夕連亭に行くまでにかかる時間なんて僅かなもの。
 少なく見積もっても15時間程度の猶予はあるはずだ。

 それなら、しばらくは大丈夫。

 とはいえ、この症状。
 異世界間移動を使おうとすると苦しくなる。
 おそらくは心的外傷によるもの。

 となると……。

 程度はまったく違うが、前回の40年の人生で自動車事故を経験した時もこんな感じだったな。

 あの時は、交差点で右折する際に信号を無視して突っ込んできた対向車に衝突されたんだった。身体は軽傷で済んだけれど、その後しばらくは運転が辛かった記憶がある。特に右折する時は、対向車が気になって身体がすくみそうになったものだ。

 結局、何度も運転をすることでそんな状態を脱することができた。成功体験が事故の記憶を上書きしたのだろう。

 だから、今回も異世界に何度か渡っている内に症状は治まってくるはず。

「……」

 けれど、今はまだ辛いものがある。

 明日になれば……。






 ピンポン、ピンポン。

 チャイムの音に目が覚める。
 今は17時。
 また眠ってしまったようだ。

 ピンポーン。

 階下に降り、玄関のドアを開ける。

「功己!」

「幸奈?」

 どうしたんだ?

「昨日来なかったでしょ」

「あっ!」

 そうだった。
 昨日は幸奈と珈紅茶館に行った日だ。
 夕方に会う約束してたんだよな。
 リセットで戻っていたので、すっかり忘れていた。

「あって、功己忘れてたでしょ」

「……申し訳ない」

「申し訳ないじゃないよ、ホント。功己は携帯電話も持ってないし、家に電話しても出ないし」

「悪かった。申し訳ない」

 丁寧に頭を下げる。
 眠っていたので電話の音に気付かなかったんだ。

「うーーん」

「本当に申し訳ない」

「もう~、しかたないわねぇ」

「わるい」

「もういいわ。でも、貸しにしとくわよ」

「もちろんだ」

「功己……どうかした?」

「えっ」

「顔色が良くないみたいだから」

「……大丈夫。何でもない。今回は俺が忘れてただけだ。悪かったよ」

「そう? でも、そんなに謝られると調子狂うなぁ」

「……」

「まっ、昨日はわたしも家の用事が入ったから丁度良かったんだけどさ。ということで、ケーキセットで許してあげる」

 それでいいのか。

「分かった、今度ご馳走する」

「うん……ホントに調子悪くない?」

「ああ、少し疲れてるだけだ」

「そうなの? 大丈夫?」

「心配要らないから」

「もしかして、昨日も体調悪かったの?」

「まあ…」

「え~、それなら言ってくれればよかったのに」

「どちらにしても、連絡もせず約束を破ったのは俺だから」

「体調悪かったなら仕方ないよ。ごめん、ケーキセット無しでいい」

「いや、それはご馳走する」

「ホントいいから、その代わり体調良くなったら今度こそ、お茶に付き合ってね」

「それはもちろん」

「うんうん、じゃあ、今日はゆっくり休んで。わたしは帰るね」

「忙しいのか?」

 前の時間の流れの中で珈紅茶館に一緒にいる時に、家族からの電話で慌てて家に戻っていたよな。その関係か。

「そうでもないんだけど、ちょっと家で用があってね」

 やっぱり、家の関係か。

「そうか。じゃあ、気をつけてな」

「功己こそ、ゆっくり休みなよ」

「分かった」


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