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第1章 オルドウ編

再び 13

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 道の端に果物や野菜を並べた小さな店。
 これは……あの時、果物をもらったあの店。
 この人、そうだ見覚えがある。

 あぁ。
 何て言ったらいいんだ。
 
 嬉しいし懐かしいし……。

「ひとつ、どうだい?」

「……これ、2つもらえますか?」

「あいよ」

 渡されたのはレモンのような果物。

「ヴィーツ2つで5メルクだ」

「どうぞ」

 大銅貨1枚を手渡す。

「おつりは要りませんので」

「いいのかい」

「ええ、取っておいてください」

 子供の頃のあの代金です。

「悪いな」



 懐かしいヴィーツを口に入れながら、大通りの散策を再開。

「やっぱり、美味しいな」

 10歳の時感じたあの味が口の中に広がっていく。
 甘味と酸味が混ざり合った爽やかな風味。

 いいな、これ。
 あっという間に2つを食べてしまった。

 ヴィーツに向かっていた意識が街並みに戻ると。
 右手に立派な建物が見えてきた。

 興味を引かれるまま、その建物の前に足を運ぶ。
 これは教会か。
 この世界にも教会はあるんだな。

 エスト大教会というらしいこの教会には自由に入れるようだ。
 門番はいるけれど、特にとがめられることもなく教会に入ることができた。

 外観もなかなか素晴らしいが、中はそれ以上に見応えがあるぞ。
 神像らしき彫像が左右に並び中央にはひと際美しい彫像が飾られている。

 これが主神なのかな。
 人々がそれぞれの神像の前でお祈りをしているが、中央の神像の前で祈る人が圧倒的に多い。

 この立派な建物、神像の前で祈る人の多さ。
 やはり、この世界でも宗教は大きな力を持っていそうだ。

 実際、こちらの世界に来ることができたのも神様のおかげだし……。
 この世界では、神様と人々との関係は地球でのそれより近いものがあるのかもしれない。

 ところで、沢山の神像があるんだけど説明書きなど無いので、何の神様なのかさっぱり分からない。

 と、そこで思い出した。
 こういう時に鑑定を使うんだよ。

 で、さっそく使ってみたところ。

 主神エスト神像

 それだけ?
 情報が少なすぎる。
 神様の名前が分かったから、役には立っているけど。

「……」

 まっ、鑑定は初級だからしかたないか。

 その後、左右に並ぶ神像を鑑定してみても、同様のことしか分からなかった。
 名前だけ分かった多数の神様。
 多すぎてすぐには覚えられないな。

 ちなみに、俺をこの世界に導いてくれた神様がこの中にいるかどうかは分からない。
 似ていると言えば似ている神像もあるけど、何とも言えない程度だから。

 それに、そもそも、あの空間では神様の顔がはっきりと見えていた訳じゃない。
 顔や表情のイメージが伝わってきただけ。

 その記憶で判別するのは、無理ってものだな。

 でも、もし次の機会があるのなら、神様の御名前をお聞きしたいものだ。


 ひと通り見学した後は教会を出て再び通りを歩いて回る。
 衣料品店や書店、宝飾店など日本と同じような店もたくさんあるが、武器屋に防具屋に魔法具屋といった珍しいというかロマンあふれる店もちらほらと目に入ってくる。

 こうして歩いているだけでギフトの有用性を身に染みて感じられるな。
 店名が読めるっていうのはホントに助かる。
 文字が読めなかったら、不便で仕方ないところだった。
 言語理解さまさまだ。

 大通りの中でも商業地区のようなあたりを歩いていると、多くの商店、食堂、それに屋台や露店なども目に入ってきた。

 ゆっくり見たい店も結構あったが、教会以外は奥まで立ち入らず簡単に覗くだけでひと通り歩いて回ることを優先する。

 1時間ほど散策していると、通りの左右が徐々に寂しくなってきた。
 どうやら商業地区を抜けたようだな。
 これだけの範囲にわたって商業施設があるということは、ここはかなり大きな街なんだろう。

 さてと、訊きたいことがいろいろあるけれど、どこで訊けばいいのやら。
 無難に怪しまれずいろいろとゆっくり調べるには……。

 食堂か宿屋かな?
 武器屋や魔法具屋にはかなり惹かれるが、ひとまずは情報収集優先ということで。


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