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第1章 オルドウ編
再び 9
しおりを挟む「どうかな?」
今日は止めておく、と言いかけたところで、言葉に詰まる。
白い空間での神様の言葉が頭をよぎる。
「そうだよね……」
背けた顔から、囁くような幸奈の声が届く。
まいった。
ここは誘いに乗る場面だというのは分かるけど…。
今の俺が幸奈と何の話をすればいいのか分からない。
この当時の俺と幸奈の関係は、どんな感じだったんだ?
20年前はどんな会話をしていたんだ。
自分の口調すら、はっきりとは思い出せない。
「やっぱり、無理だよね……」
俯く幸奈。
そうかぁ。
俺は幸奈にこんな表情をさせていたんだな。
「……」
この状況を前にすると、どうしても神様の顔が浮かんでくる。
だから。
「……明日」
「えっ?」
「明日のこの時間からなら」
「ホント!?」
振り向いた幸奈は驚きを顔に浮かべている。
「ああ」
「よかった……良かったぁ」
と思ったら下を向きしぼり出すような声。
「……」
何というか、こう、罪悪感がこみ上げてくる。
こんな感情いつ以来だろう。
もう何年も感じていないような気がする。
ずっと1人で周りとは距離をおいて壁を作って、そんな生活をしていたんだよな。
いつ異世界に行くとも知れない身では、この世界で親密な人間関係を作るわけにはいかない。そう思っていたから。
最善だと思っていたその選択を今さら悔いる気持ちはないけど、今の環境に身を置いてみると色々と考えさせられるものがあるのも事実だ。
幸奈にも周りのみんなにも申し訳ないことをしていたんだな……。
「じゃあ、約束だから。明日この時間に駅前で待ち合わせだよ」
そんな俺の思いを断ち切るような弾んだ声。
その中に不安を残しているような微妙な笑顔が覗き見える。
「……分かった」
「うん!!」
今の微妙な感じ。
俺たちの立ち位置はこんな感じでいいのだろうか。
「……」
それでも、20歳の当時はまだ幸奈とも比較的良好な関係だったんだよな……。
今回は前とは違うもっと良い関係を築いていこう。
「はぁ~、神様と約束はしたけどさ。ホント大変だわ。なにせここ数年、仕事以外の時間はほぼ引き籠っていたんだから」
さっきの決心はどこへやら。
自室のベッドに横たわったまま、そんな弱音が思わず口から出てしまう。
だってなぁ。
実質40歳の俺が20歳の幸奈を相手にするなんて、年齢差だけを考えても腰が引けるというのに…。
数年引き籠っていた男で。
さらに、この当時は幸奈にも自分の周りにも無関心な男。
どういう態度で会えばいいんだか。
いきなり、会話を楽しむという関係でもないだろうし。
素っ気ない態度というのも、今は違うだろ。
と言っても、明日会うしかないんだよな。
……。
考えても仕方ないな。
もう、なるようになる。
そう考えることにしよう。
「しかし、疲れたな」
つい、ひとり言が出るほどだ。
ホント、今日は色々あり過ぎて疲れた。
神様に会って、20年前に戻って、家族に会って、大学に行って、幸奈と会話して、家に戻って。
昨日までの俺の生活と比べたら、とんでもないことになっている。
そりゃ、疲れるわ。
このままベッドに横たわっていると寝てしまいそうだ。
バチン。
頬にビンタ一発気合いを入れて。
よし、やるぞ!!
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