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2日目

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威勢の良い掛け声。

鱗状の文様のある履物をつけた上半身裸の若い衆が神輿を担いで練り歩く。

それを取り囲む祭の人混み。

活気に溢れている。

快晴の空の下、神輿、山車、そして出店の数々。

昨日は街をあげての縁日というようなノンビリしたファミリー向けの賑わいだったが、こちらは、威勢よく練り歩く神輿と山車の連なる行列を見物するのが主という感じだ。

大通りを練り歩いている長い行列とは別に、神輿は幾つもあり、それぞれに掛け声を上げながら街中を進んでいる。

勇壮だ。

「あの神輿を写真に残してくれ」

大通りを練り歩いている列を見ながら、八尾先輩が言った。

「え?あの小さい神輿ですか?」

スマホのカメラを起動しながら、明が聞き返す。

「そうだ」

撮影するのであれば、先頭をいく派手な装飾の神輿か、後方から静々と動く山車の方が撮り甲斐がありそうなものなのに、、、

そう思いつつ、明は数葉撮る。

「撮った写真の胴の部分を確認したい。アップにして見せてもらえないか?」

明がスマホを操作して差し出す。

年代物と見て取れる木の簡素な扉、その真ん中にはお札が貼られている。

見た感じだと何枚も重ねて貼られているようだ。

その前には、木彫りの小さな龍が尻尾を手前に向けている。

八尾先輩は、シュッシュっとスマホの画面を弄り、明が撮ったばかりの画像を次々と見る。

手を止めたのは側面から撮られた画像だ。

変哲もないお札が貼られた木の壁、こちらの前には野生動物の彫刻らしいものがこちらに尻を向けてあしらわれていた。

「竹内くん、いくぞっ、今度後ろ側の写真が欲しい」

八尾先輩が神輿を追いながら歩いてくる人達に逆行して進みだす。

明は急いで後をついていく。

「思った通りだ。念の為、後ろも撮影してくれ」

八尾先輩の指示に、明は人混みをかき分け、後方に周り、うまく撮れそうな角度の場所で立ち止まり、撮影をする。

急に立ち止まった明に露骨に道を塞がれた人達が嫌な顔を向ける。

こっちも立ち止まりたくて止まってるわけじゃないんだよなぁ、、、心の中で呟く明の気もしらず、八尾先輩は言う。

「念の為、向こう側も確認しよう。行くぞっ!」

え?

明は呆気に取られる。

明の戸惑いなど意に解さぬように八尾先輩はさっさと人混みを押し分けて進んでいく。

大通りを行く祭の行列は長く、道を横切るためには相当先まで行かなければならない。

マジかよ、、、

明は慌てて後を追う。

人を掻き分け、係員の静止を振り切り、八尾先輩は道路の反対側に渡り、再び人混みを掻き分け、古い神輿の方に進んでいく。

もともと明は、ノンビリしたタイプで、セカセカと人を押し除けて進む経験などない。

だから、自分に向けられる迷惑そうな視線が痛い。

が、それらに怯んでいると、その間に八尾先輩はさっさと進んでいってしまう。

かなりの精神的なプレッシャーを受けながら明は八尾先輩の後を追う。

お目当ての神輿が近づくと八尾先輩は振り向き、明を手招きし、写真を撮るよう合図してくる。

仕方なしに謝罪の言葉を口にしながら明は通りに近づきスマホを構えた。

         *
「やはり四神だ、、、」

明のスマホに保存された画像を次々に見ながら八尾先輩が言った。

「四神って、、、青龍、朱雀、、、えっとぉ、、、」

「玄武と白虎だ」

思い出そうとしている明に八尾先輩が早口で言う。

神輿の四方に置かれた木彫りの象の事だろう。

簡素な神輿が通り過ぎ、きらびやかな山車が近づいて来るとそれには興味がなさそうに八尾先輩は人混みを離れて、歩道の反対側に行く。

そして明のスマホの画像チェックを始めた。

その古びた神輿には派手な装飾はなく、屋根は頭部に玉葱型の宝珠があしらわれたピラミッドを平くしような四角錐(あとで鏡子が教えてくれたが、延屋根というらしい)、堂部分は簡素な立方体。

正面の唐戸に貼られたお札のみが装飾といえば装飾で、他の三方は無味乾燥の木の板、そして木彫りの置物が扉と壁に向けて四体置かれている。

正面に置かれていたのが龍ということはすぐに分かったが、四神と言われてみれば、確かに他の三体はそれぞれ、虎、鳥、蛇の尻尾を持つ亀だということが分かる。

ファンタジー小説やRPGで、四神がどういうものかという知識くらいは明にあった。

「神輿の場合、堂の中に置かれた御神体を守るために普通は狛犬が置かれるものなんだ。そして、その狛犬は御神体を守るために堂を背にし外側を向かせる。外部の穢れを寄せ付けないようにね」

八尾先輩は、興奮を隠さず話す。

「が、この神輿に置かれた四体の聖獣は堂の方を向いている。まるで堂の中の存在が逃げ出さないようにしているようじゃないか。さらに唐戸には扉を封印するように札が貼られている。聖獣が見張り、お札が封印する。おそらく、忌まわしき存在を祀った神輿だよ。明くん、これをゼミのクラウドに保存してくれないか?鏡子くんにも見てもらお、、、」

スマホを明に返し、八尾先輩は自分のスマホを取り出した。

おそらく鏡子に連絡しようとした時、後ろから声が掛けられた。

「これは、八尾黎人、久しぶり」

低い声。

声を掛けてきた人間の姿に明の目が見開かれる。

田舎町のお祭りには浮きまくった姿。

全身黒に身を包んだ存在。

片手にステッキを持っている。

黒のシャツに黒のタキシード、蝶ネクタイの代わりに黒のレースのスカーフが首に巻き付けられている。

頭には古風な山高帽、レースの手袋をしている。

そして長い黒髪。

全身黒づくめの中、陶磁器のように透明な白い顔、異様に朱い唇が浮き上がる。

男性か女性かわからない。

後ろから大きな日傘が差し出されている。

その幅広の黒い日傘、蝙蝠傘と呼ぶのがピッタリの傘を持っているのは若い濃い灰色のスーツ姿の男。

眼帯で片目が隠れている。

そして、残った目で八尾先輩を睨み付けている。

「媛神さん、、、せ、瀬口くん、、、なぜあなたが、、、」

八尾先輩は、明らかに動揺している。

「フフ、、、あなたと同じという事は聞かなくても解るでしょう」

媛神と呼ばれた人物は艶然と微笑む。

「あなた方が動いているということは心強い。無駄足を踏むのは嫌いなのでね」

そして、明の方を見る。

ゾッ!

背筋に寒気が走るという感覚を明は初めて味わう。

ガラス玉のような美しい瞳、が、奥底が見えない。

無感情な瞳。

明は昔見た蛇の真っ黒な目を思い出す。

宝石のように美しいが、漆黒で冷たい目。

「この坊やが新たなパートナーか?」

八尾先輩の顔がさらに動揺する」

「違うっ!彼は僕が指導している高校生だっ!」

感情的に言う。

媛神と呼ばれた人物の形良い唇が片方だけ上がり、八尾先輩に向かって言う。

「まぁ、こちらの邪魔をしなければ、こちらも動く事はない」

そして再び明を見る。

「坊や、せいぜい壊されないように気をつけなさい、この子のように」

そう言いながら首で背後に立つ眼帯の男を指す。

眼帯の男はもう目を伏せ、八尾先輩の方は見ていない。

「では、失礼」

そう言い、2人はシズシズと道を歩き出す。

道行く人が異様な2人に目を止めているが、気にしてはいないようだ。

祭りの喧騒、高揚からは明らかに浮いたオーラに包まれ、2人は人混みに消えた。

「お知り合いなんですか?」

明が八尾先輩の方を見ると、彼は厳しい表情で2人が消えた方を見ていた。

明はそれ以上、言葉をかけられなかった。








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