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実家での挿話

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「文学部のフィールド・ワークだと?お前は、文学など金にならないことを勉強しようというのか」

明が、プレ・カレッジの宿泊同意書を差し出すと思ったとおり、父親がいつもの苦虫を噛み潰したような顔になった。

金と地位でしか人を判断出来ない俗人。

明とは剃りが合わない。

「お前は、経済学部に行くんだぞ。なら、経済学部のプレ・カレッジを履修すべきだろ。それなのに自覚が足りない。雅を見習え」

いつも通り兄と比較される。

が、明も慣れたものだ。

サラッとキラーワードを口にする。

「そのチューターの八尾さん、参議院議員の八尾晴人って人のお孫さんだって」

「ナニッ?!」

思った通り父親の顔色が変わる。

「八尾議員のお孫さんだと?と言うことは、八尾家のご子息か?おまえ、これは大変な事だぞ。八尾議員は大臣を三期務めた人だ。そんな人のお孫さんがお前の指導をしてくれるのか?」

「明、スゴイじゃない。八尾家の息子さんと知り合いだなんてぇ」

横から素っ頓狂な声で母親が出てきた。

母も父に劣らず、家柄が好きだ。

「八尾議員のお孫さんということは、お父さんは検察庁のお偉いさんだろ」

父親が興奮気味に言う。

「いや、それは聞いていない」

「なんでお前は、そんな大事なことを確認しないんだ」 

言い掛かりに近い父親の言葉。

ついさっきまで経済学部のプレカレッジしか許さないと言っていたのに、八尾先輩の実家を聞いた途端に、その家族構成にこだわりだす。

だいたい、プレカレッジのチューターの父親がどんな職業かなんの関係があると言うのだ。

「どう、八尾さんのお孫さんって素敵な方?」

「いい人だよ。すごく親切な人」

「そんな方の、なに?フィールドワーク?それに参加するなんて明は期待されてるのねぇ」

地主の娘で苦労知らず、世間知らずの母は、少しピントがズレていて、なんでも自分の都合の良いように考える。

別に期待も何も無いけれど、明は取り敢えず勘違いさせたままにしておく。

「じゃぁ、ぜひ、参加しなさいよ。良かったら八尾さんを家にご招待する?」

話が突っ走る。

「いや、それは失礼だよ」

「サクラちゃんと鏡子ちゃんも一緒なら安心ね」

何が安心なんだか分からないけれど、母親は明が参加する前提で話をしている。

そして、資産家の母親の実家に何かと支援を受けているため、父は母に強く出られない。

この両親とゴールデンウィーク中一緒に過ごすのは息が詰まるので、サクラが持ってきたフィールドワークの話は、明にとってラッキーな話ではあった。

それにどうやら、宿泊同意書には、無事サインが貰えそうだ。







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