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二つの世界
朱色の豹と銀の沼〜恐洲
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“ヴァンッ、ヴァン~ッ!離せっ!離すんだ、ビョルンッ!”
逼迫した声が響く。
“落ち着けっ!キャスパー、お前まで巻き込まれる。ヴァンの気持ちを察しろっ!堪えるんだっ!”
続く声も切迫してる。
“ヴァンを見捨てろというのかっ!離せっ!離せと言っているんだっ!おいっ、シュレイッ!やめろっ!痺れるっ!このタコ娘っ!触手を離せっ!気色悪いっ!行かせろっ!行かせてくれぇ~っ!”
悲痛な声色だ。
“ごめんっ、キャス!痺れ汁を使われてもらう。我慢してっ!ヴァンは自分が引き留めるからって言ってた。お前らは生きて闘えと言っていた。キャスまで沼に飲み込まれてしまったらヤツらの思う壺になっちゃうの”
必死な声が嘆願する。
そこはドロドロと濃く暗い銀色の液体を湛えた沼のほとり。
ゆっくりと嫌な光を放ちながら渦巻いている。
その沼に飛び込もうとしている男を二人が引き留めている。
銀の沼の中心にいるのは異形の存在。
イヤらしくヌメヌメと光る銀鼠色の体表から、節が連なり生き物のようにくねる突起を無数に生やすブヨブヨした小山のような存在。
突起の先では生々しい真紅の内皮に鋭い棘が密集した口状のモノが開閉している。
不定形の本体がプルプルと蠕動する。
その異形の存在に対峙しているのは、筋肉質の男と、男が跨っている朱色の豹。
下半身部分は沼に沈み、密着した上半身しか見えない。
豹が不定形のモノの身体にしがみつくように爪を立て、その肌に噛みつき、肉を食いちぎる。
男はクネクネとうねり、男と虎に巻き付き、あるいは、噛みつこうとしている突起物を掴み引きちぎる。
肉を突起物をちぎり取られる都度、銀鼠色のモノはブルンと震え、傷口から灰色の体液が吹き出し、男の身体にかかる。
その体液は毒性を持つようで、男の筋肉質の肌に爛れのような痕をつける。
“ウォォォォォッ!”
雄叫びとともに筋肉質の男、おそらくほとりで闘いを見守る者達がヴァンと呼ぶ者が上体を伸ばし、その腕を振り上げ、銀鼠色のモノの上部の体表に拳を叩きつけた。
それとともに、朱色の豹も屈強な前脚を激しく動かし、体表を抉りながらその身体を登ろうとする。
男と豹の銀の沼に隠れていた下半身が浮き上がる。
男は豹に跨っているのではなかった。
豹の背中から筋骨逞しい男の腰から上が生えている。
男と豹のキメラ、、、
男と豹は、一つの存在であり、沼の中央のモノとは別の種類の異形であった。
銀の沼のほとりに居る者達もまた、、、
“ヴァン~ッ!”
沼に向かい叫ぶ男、キャスパー、キャスと呼ばれた男は、翠色の肌を持ち、下半身は玉虫色に光る羽毛で覆われている。
掌は黒くカサついた皮膚に覆われ、漆黒に光る鋭い鉤爪が伸びる。
背からは濃い翠の翼が生えている。
その片翼は負傷したのかだらんと下がっている。
その翠の男を羽交締めしているビョルンと呼ばれた男は、顔と胸、腹を除き、青く輝く鱗に覆われている。
額からは2本の金に輝く角が生えており、細く金に輝く立髪が頭から背かけて靡いている。
そして、下半身が8本の吸盤の並ぶ触手となっている華奢な少女。
その触手を翠の屈強な男の足と腕の先に巻き付け、吸盤で吸い付いている。
触手からは粘液が滲み出し、翠の男の羽毛を濡らしている。
おそらく痺れ汁とはこの粘液のことを指すのだろう。
翠の男の動きは鈍くなっていっている。
そして、叫び声は切迫していく。
“離せっ!このままじゃ、ヴァンがっ!一緒に行かせてくれぇ~っ!”
沼の中心、異形のモノが全身に生える不規則な節をさらに激しく動かしている。
その先端の鋭い棘が生える口から涎のような銀色の粘液を振り撒きながら。
どうやら沼はこの異形の存在の体液が溜まったもののようだ。
沼の中で対峙する男は鋭い叫びを上げながら鋭い爪の生えたを振り下ろし、異形のモノの突起物をブチ切り、体表を引き裂こうとしている。
ジュッ、、、ジュウッ、、、
異形の傷口から体液が飛び散り、それが降りかかった筋肉を覆う肌が爛れ、豹の朱色の毛が焦げる。
男に浮かぶ苦悶の表情がさらに険しくなり、気合と思えた叫びが悲鳴に近くなる。
が、豹と一体化している男は攻撃の手を止めず、異形のモノの体表の傷を鋭い爪で、豹の牙でさらに抉る。
“うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!”
男が、その傷口に握りしめたすでに粘液で爛れている拳を叩き込む。
異形の生き物の胴体が震える。
ビキビキビキッ
異形の生き物の悲鳴だろうか。
嫌悪感を抱かせる音が周囲に響く。
そして、、、、
傷口からくるんと裏返るように異形の生き物の体内の内臓のようなものが吹き出し、朱色の屈強な者の体を包み込む。
ウガッ、ウガガガァ~ッ!
男が宙を仰ぎ、絶叫した。
“ヴァン~ッ”
キャスパーの悲痛な叫びが重なる。
異形の生き物とヴァンの体が一つになり、銀の沼の渦に飲み込まれていく。
その瞬間、ヌメる異形の生き物の体表がギザギザとヒビ割れ、真紅の鮮烈な光が爆発するように放射される。
ピィィィ~ッ!
鋭い鳴き声を発しながら純白の鳥が中空より現れた。
長い尾をなびかせてその光に近づき、嘴を開く。
一瞬の後、舞い上がったその鳥の嘴の先が、赤く輝いていた。
光石のようなものを咥えている。
そして、再び空に消えた。
虹を押し広げたような様々な色のグラデーションに輝く空に。
ああああぁぁ~っ!
後に、キャスパーの発する悲痛な絶叫が残った。
逼迫した声が響く。
“落ち着けっ!キャスパー、お前まで巻き込まれる。ヴァンの気持ちを察しろっ!堪えるんだっ!”
続く声も切迫してる。
“ヴァンを見捨てろというのかっ!離せっ!離せと言っているんだっ!おいっ、シュレイッ!やめろっ!痺れるっ!このタコ娘っ!触手を離せっ!気色悪いっ!行かせろっ!行かせてくれぇ~っ!”
悲痛な声色だ。
“ごめんっ、キャス!痺れ汁を使われてもらう。我慢してっ!ヴァンは自分が引き留めるからって言ってた。お前らは生きて闘えと言っていた。キャスまで沼に飲み込まれてしまったらヤツらの思う壺になっちゃうの”
必死な声が嘆願する。
そこはドロドロと濃く暗い銀色の液体を湛えた沼のほとり。
ゆっくりと嫌な光を放ちながら渦巻いている。
その沼に飛び込もうとしている男を二人が引き留めている。
銀の沼の中心にいるのは異形の存在。
イヤらしくヌメヌメと光る銀鼠色の体表から、節が連なり生き物のようにくねる突起を無数に生やすブヨブヨした小山のような存在。
突起の先では生々しい真紅の内皮に鋭い棘が密集した口状のモノが開閉している。
不定形の本体がプルプルと蠕動する。
その異形の存在に対峙しているのは、筋肉質の男と、男が跨っている朱色の豹。
下半身部分は沼に沈み、密着した上半身しか見えない。
豹が不定形のモノの身体にしがみつくように爪を立て、その肌に噛みつき、肉を食いちぎる。
男はクネクネとうねり、男と虎に巻き付き、あるいは、噛みつこうとしている突起物を掴み引きちぎる。
肉を突起物をちぎり取られる都度、銀鼠色のモノはブルンと震え、傷口から灰色の体液が吹き出し、男の身体にかかる。
その体液は毒性を持つようで、男の筋肉質の肌に爛れのような痕をつける。
“ウォォォォォッ!”
雄叫びとともに筋肉質の男、おそらくほとりで闘いを見守る者達がヴァンと呼ぶ者が上体を伸ばし、その腕を振り上げ、銀鼠色のモノの上部の体表に拳を叩きつけた。
それとともに、朱色の豹も屈強な前脚を激しく動かし、体表を抉りながらその身体を登ろうとする。
男と豹の銀の沼に隠れていた下半身が浮き上がる。
男は豹に跨っているのではなかった。
豹の背中から筋骨逞しい男の腰から上が生えている。
男と豹のキメラ、、、
男と豹は、一つの存在であり、沼の中央のモノとは別の種類の異形であった。
銀の沼のほとりに居る者達もまた、、、
“ヴァン~ッ!”
沼に向かい叫ぶ男、キャスパー、キャスと呼ばれた男は、翠色の肌を持ち、下半身は玉虫色に光る羽毛で覆われている。
掌は黒くカサついた皮膚に覆われ、漆黒に光る鋭い鉤爪が伸びる。
背からは濃い翠の翼が生えている。
その片翼は負傷したのかだらんと下がっている。
その翠の男を羽交締めしているビョルンと呼ばれた男は、顔と胸、腹を除き、青く輝く鱗に覆われている。
額からは2本の金に輝く角が生えており、細く金に輝く立髪が頭から背かけて靡いている。
そして、下半身が8本の吸盤の並ぶ触手となっている華奢な少女。
その触手を翠の屈強な男の足と腕の先に巻き付け、吸盤で吸い付いている。
触手からは粘液が滲み出し、翠の男の羽毛を濡らしている。
おそらく痺れ汁とはこの粘液のことを指すのだろう。
翠の男の動きは鈍くなっていっている。
そして、叫び声は切迫していく。
“離せっ!このままじゃ、ヴァンがっ!一緒に行かせてくれぇ~っ!”
沼の中心、異形のモノが全身に生える不規則な節をさらに激しく動かしている。
その先端の鋭い棘が生える口から涎のような銀色の粘液を振り撒きながら。
どうやら沼はこの異形の存在の体液が溜まったもののようだ。
沼の中で対峙する男は鋭い叫びを上げながら鋭い爪の生えたを振り下ろし、異形のモノの突起物をブチ切り、体表を引き裂こうとしている。
ジュッ、、、ジュウッ、、、
異形の傷口から体液が飛び散り、それが降りかかった筋肉を覆う肌が爛れ、豹の朱色の毛が焦げる。
男に浮かぶ苦悶の表情がさらに険しくなり、気合と思えた叫びが悲鳴に近くなる。
が、豹と一体化している男は攻撃の手を止めず、異形のモノの体表の傷を鋭い爪で、豹の牙でさらに抉る。
“うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!”
男が、その傷口に握りしめたすでに粘液で爛れている拳を叩き込む。
異形の生き物の胴体が震える。
ビキビキビキッ
異形の生き物の悲鳴だろうか。
嫌悪感を抱かせる音が周囲に響く。
そして、、、、
傷口からくるんと裏返るように異形の生き物の体内の内臓のようなものが吹き出し、朱色の屈強な者の体を包み込む。
ウガッ、ウガガガァ~ッ!
男が宙を仰ぎ、絶叫した。
“ヴァン~ッ”
キャスパーの悲痛な叫びが重なる。
異形の生き物とヴァンの体が一つになり、銀の沼の渦に飲み込まれていく。
その瞬間、ヌメる異形の生き物の体表がギザギザとヒビ割れ、真紅の鮮烈な光が爆発するように放射される。
ピィィィ~ッ!
鋭い鳴き声を発しながら純白の鳥が中空より現れた。
長い尾をなびかせてその光に近づき、嘴を開く。
一瞬の後、舞い上がったその鳥の嘴の先が、赤く輝いていた。
光石のようなものを咥えている。
そして、再び空に消えた。
虹を押し広げたような様々な色のグラデーションに輝く空に。
ああああぁぁ~っ!
後に、キャスパーの発する悲痛な絶叫が残った。
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