「愛されたかっただけ…」1番目の父と8番目の母・私と最後の弟

フミヤ

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勉強

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弟の誕生…
妹の生まれ変わりと言い伝えられた弟は、それはそれは大切に大切に慈しまれ育っていく。
私のアルバムにも、とても嬉しそうな顔をして弟を抱っこする写真が数枚あった。
妹の時と違い健康体で生を受けた弟は、家族から沢山の愛情に包まれながらスクスクと成長した。
その成長過程を両親は当たり前だがとても喜んだ。

弟が寝返りを覚えて掴まり立ちをする様になる頃から、私は学校から帰ると遊びに行く事を止められる事が増えた。
最初の頃はどこに転がるか分からない弟の面倒を見る様に、また買い物行くから見ておく様に等言われたから。
妹の時の様な思いをしたくはないのだろうとは、子供ながらに感じていた為、特に嫌だとは感じなかった。
弟が1歳の誕生日を迎えお母さんは弟をベビーカーに乗せ出掛けたりする様になると、誰もいない家で留守番をさせられる様になる。
鍵すれば遊びに行けるはずなのに何故行けないのか…少しずつ不満になっていくが、毎日弟と寄り添う様にしているお母さんに言えなかった。
同時期から父は毎日の様に口を酸っぱくして私に
「お前もお兄ちゃんなんだからしっかり勉強して良い高校に入れ」と言う様になった。
この2つが何故かうまく重なり、私は学校から帰るとまずは勉強をさせられる生活へと変わっていった。

小学校5年生になった頃、まず父が働いていた運送業を辞めてきた。自営でたこ焼き屋を開業する。
開業と言えばまだ聞こえが良いが、軽トラの荷台を改造した屋台で、スーパーの空きスペースでたこ焼きや焼き鳥を売っているあれだ。
ただ、始めたからってすぐに利益を得る訳でもなく、我が家の家計は日に日に苦しくなっていった様だ。
お母さんはやり繰りがとても大変だったろう。貯金や保険を切り崩したりしていたと一時期愚痴っていたのを覚えている。

父は自営を始めた事で平日の昼間家にいる事が増えた。
その結果教育パパが誕生する。
ただ父自体は最終学歴が中卒でとても子供に勉強を教えられる程頭は良くない。
そこで父は本屋で「ドリル」なる物を買ってくる。
国語・算数のそのドリルは、中学受験のある有名な中学校の入試問題の過去問で構成されていた。
最後の方のページには答えがあったがそれはしっかり切り取られたドリルを手渡され言われたのは
「今日から毎日1日1ページずつやれ。全問正解するまではご飯抜きな。」だった。
多分普通ならこういう問題は塾や家庭教師から解き方を教わって覚えていくものだろう。
でも誰も解き方なんて教えてくれない。
お母さんに聞こうにも「そんな事も分からないの?」で終わり。
父は家にいる時は昼間から飲みながら私がお年玉で買ったテレビゲームで三國志をやっている。

夕飯が食べれない日が続いた…

小学校5年生の私は勉強をしながらもどうにかしなきゃと必死に対策を考え、両親がいないタイミングで色々な行動に出る。
1.冷蔵庫を漁り食料を確保しておく
バレた時から冷蔵庫に鍵が付いた。
2.ドリルの解答を探し出して写しておく
バレた時から部屋の外に鍵がかけられた。
3.ドリルをこっそり持ち出し学校の先生に教えて貰う
バレた時から学校へ行く前に毎日荷物検査された。
他にも色々な事をしたがバレる度に両親も対応策を講じてくる為その内八方塞がりになった。

ある日の月曜日、土曜日・日曜日とずーっとドリルをしていただけの私は2日間食事を得る事が出来ずそのまま学校へ行かされた為授業中に気を失う。
意識を取り戻した私は保健室の先生に事情を話し、まだ3時間目辺りだったが保健室で給食を食べさせて貰った。
確かその後問題になり、親と担任が話をしたと思う。
しかし30年以上前のあの時代は、今程親からの「躾」に対して子供は守られる事は無かった。
それでも両親は食事抜きはさすがにマズイとでも思ったのだろうか新しいルールが出来た。それは
「1日分のドリルが出来なかった場合は、物置でおにぎり1個だけ。」

当時私達家族が住んでいたのは県営住宅で、元々はバブル期に他県から仕事の為に引っ越してくる人々を受け入れる為に建てられたマンモス団地だった。
5階建ての中層棟が主だったけど数棟11階建ての高層があり、私達家族はその高層の11階に住んでいた。
高層には玄関脇に小さな物置があった。
その物置の中にゴミ袋と一緒に気配を消しながらおにぎりを食べる日が週の半分だった…
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