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#11 竜人族の王
しおりを挟む個人的な外見年齢設定:ネラもゴルトも10~11歳くらいのイメージで、イヴアールは13くらい、他は大学生~新卒くらいな感じ。
――
「もう……主様は椅子にお掛けになって構わないんですよ」
「勘弁してくれ、庶民の俺には逆に疲れるんだ」
「そういうものなのですか?」
「そういうものなんです」
俺の必死の説得になんとか了承してくれたネラと並んで、彼女のベッドの縁に腰掛けている。大の大人と、見た目は精々〇学校高学年くらいの幼女とで居座るのがデカい天蓋付きの寝床というのはなんとも背徳感というか、犯罪臭が凄い。まあその幼女はただの人間ではないんだけれども。
ネラの寝室。初めての時はそれはもう色々あり過ぎて部屋の内装なんざ気にする余裕もなかったが、今は違う。この幼女1人が住まうことを考えれば随分広いと感じる室内は、金銀財宝をちりばめたような華美な部屋――元の世界の中東王族なイメージ――ではなく、なんとも落ち着いた雰囲気だ。調度品などの類は殆ど置かれておらず、キングサイズのベッドは確かに豪華な造りだがシンプルでそれはもうフッカフカであり、化粧台もテーブルも椅子も全て、俺のような一般人が一目見てわかるくらいに質の良いものばかりだが厭味ったらしい絢爛さは欠片も感じられなかった。一言でいえば非常に居心地が良い。唯一あるとすれば、最早小さな庭と見間違えるようなバルコニーには見たこともない植物達が陽光と風をたっぷり浴びては気持ち良さそうに花弁や葉を揺らし、美しい水晶が控え目に彩を加え、そしてその中央には水浴び用であろう大きな浴槽が添えられていることくらいか。水道の類は見当たらないので、恐らく魔法で水でもお湯でも汲むのだろう。便利だなぁおい。
「お風呂が気になりますか?」
「随分立派なバルコニーだなと思って」
「私もとっても気に入っているんです。四元竜の皆が誂えてくれたんですよ。後で湯浴みもいたしましょう、お背中お流ししますね」
「それは楽しみだな」
私もです、と鈴が鳴るように小首を傾げ、目一杯羽を広げて見上げてくるネラ。かわいいがゲシュタルト崩壊するわ。今した。
「それでは主様。お話を始めさせていただきますので、少々お時間を賜ります」
「ああ、よろしく」
そう答えると居住まいを正し、キュッと握り締めた小さな両手を太腿に置き、羽を畳んで俺を真っ直ぐ見据えるネラ。その佇まいは十二分に、上に立つ者としての意思の強さを伺い知れるものだった。
「主様。先にもお伝えしました通り、我ら竜人族には既に雄の個体はおらず、最早緩やかに滅びを待つより他にありませんでした」
「本当に1人もいないのか?」
「方々を100年以上探し回りましたが……絶望的と言わざるを得ません」
「他の種族の雄と、交配は望めない?」
「はい。そもそもこの世界においては雄が発情し、精を残す時宜自体が稀であること。加えて種族も違い、醜悪とすら呼べる我ら竜人族にそのような機会はまずありえません」
こんな可愛いの化身みたいな子が自分を醜悪とか、やっぱり信じられんな。他種族間でも子を生せるは生せるっぽいけど……。まあ価値観の違いなんて中々受け入れられるものじゃないか。地球もそれで散々戦争してるし。
「そんな折に、私は東の平原で主様を見つけました。微かですが血の臭いを嗅ぎ取り、そこに倒れられていたのが主様でした」
「あれはビビった、ほんとに」
「ええ、私も驚きました。雄の個体というのはどの種族も小さく、まず子どもの姿からは成長せずにそのまま老いていくのが常でしたから。そして何より……」
ネラは深く一息つくと、ゆっくり噛み締めるように言葉を紡いでいく。
「信じられないような生命力を感じました。もう命も尽き欠けておられましたが、それでも雄の個体としては有り得ない程に。伝説にあった、力のあるインキュバスの個体が倒れているのかと勘違いをした程でした」
「伝説って……。インキュバスっていうのはやっぱり雄?」
「はい。雄ではありますが主様と同じように大人の姿にまで成長する珍しい種族で、魔族の1種です。しかしながら、身体の成長と引き換えにか生まれた時から生殖能力を失っている場合が殆どで、仮に残っていたとしても子を成すにはとても足りないのだそうです。遥か昔には、強い生命力を有したインキュバスの個体も存在したそうなのですが……」
「は~……それで伝説なのか。でもなんでまたそんな」
「それは魔族にもわからないそうです。元からそういう種族だとしか。ですが、大きくなる雄の個体というのはそれだけでもう稀有な存在なので。外交や交渉の場では重宝されていますね」
「ああ、さっきの話ってそういう……」
「お恥ずかしながら……かくいう私も何度も……。生殖とは最早無縁であるからか、私達のような種族の者にもそれなりに接してくれるので……」
この話の流れからすると、魔族は外交以外にもインキュバスをホストとして外貨なんかを大量に稼いでいそうだ。この世界の経済がどんなものかはわからないし、竜人族のような種族がどれくらいいるのかが問題だが。まあそれは今考える事じゃないか、気にはなるけども。
「何より大人の姿をした雄っていうのが珍しくて、俺を助けてくれたってことか」
「…………仰る通りでございます、主様。我々の滅亡を、回避する術があるのではないか。藁にも縋るとはまさしく、外道である事は承知の上で蘇生の魔法を施させていただきました。私の宝玉を触媒として」
「そう、それだ」
「――主様?」
ずっと聞きたかった話にやっと辿り着いたな。ほんとに話進まなかったけど。正直すまんかった。
「ネラは大丈夫なのか? 蘇生魔法なんていくらネラでも凄いことなんだろ。宝玉っていうのも。イヴアールが気にするぐらいには」
「……主様は、私の心配をしてくださっているのですか?」
「当たり前だろ。俺の命の恩人だぞ、ネラは。それもとびきりの別嬪さんときたもんだ」
「そんな……」
俺の価値観からしたら当たり前でも、ネラには相当予想外の言葉だったのだろうか。困惑するばかりで目を泳がせ、力なく俯いてしまう。
「ネラはまだ、俺に恐ろしい事をしたんだって後悔してくれてるのかもしれない。でもな、俺は本当に感謝してるんだ。こっちの世界じゃそりゃおかしいのかもしれないけど、竜人族の人達は俺にとっちゃとんでもない美人揃いでさ、ほんとに頭がおかしくなりそうなんだぞ」
「…………」
「――参ったな」
正直、これを言うのはかなーり気恥ずかしかったりするんだが……しかも相手は姿形だけで見れば幼女だし、合法ロリとはいえロリコンはロリコン。いい歳こいたおっさんがこれだ。中学生どころか小学生は俺だったな。
――もうちょい意地悪してやろう、またネガティブになっちゃってるし。
「なあネラ、さっきの随分積極的だったのはどこ行ったんだ」
「う…………。えと、あの……すみません。先程は、これで主様と2人きりになれると思って気分が高揚してしまって……。あぁっ、恥ずかしい……」
あー、これを素でやってそうなのがな。ほんとにこの竜人王様は。
「……だーもう! わかったわかった。観念するよ、俺の負けだ」
「え。あの、あるじさ――まぁ!?」
急に大声を挙げた俺に驚くネラをむんずと抱きかかえ、ドデカいベッドに寝かせて覆い被さる。いい歳して、といってもこの娘らにとっちゃガキも同然だったな人間の俺なんざ。ああダメだ、こっ恥ずかしくてかなわん。
「いいかネラ。俺はな、人間にしてみりゃそれなりに生きたおっさんで、元の世界じゃ10年は社会人やったんだ」
「え、ぇと……あ、はい……」
「そんな俺がな、歳はともあれ見た目がこんな小さい女の子に一目惚れして欲情してんだぞ? そりゃ気恥ずかしくもなるだろ」
「ぇ、ぁ、あの…………ひとめぼ……――――うえぇ!?」
俺の大分、相当に、かな~~~り情けない告白を理解しようとしているのか、身動きも取れない――実際は俺を押しのけることなんざ造作もないだろうが――ネラはあたふたと愛らしい顔を右往左往させるだけで殊更に困惑していた。控え目な胸の前で不安そうに握り締めている両手も、耳の裏からうなじまで、彼女の褐色の肌が判り易いくらいに色づいていて、これがまた実にエロい。
「ぇ、そ、そんな……主様が私をなんて……で、でも、ひどいこともいっぱいしちゃったし…………こんなのって――んむっ!?」
この期に及んで、まだグダグダ言ってくれるネラの唇を無理矢理塞いでやる。
「んんっ!? ふっぅ?♡ ちゅ♡ んちゅ♡ っは♡ あぁ♡ ぁ♡ ぁっ♡ ちゅ♡ ちゅぱ♡ ある♡ あるじさまぁ♡」
軽くバードキスをしただけでトロットロに蕩けてしまうネラが、俺の服をか細い手で控え目に掴んでくる。うん、こんな可愛い生き物に勝てるわけないだろいい加減にしろ。
「ネラ」
「うぅっ……♡ ……は、はい」
「ネラは俺のもので、俺はネラのものだ。覚えてるな?」
「はい……」
「俺はな、抱けもしない女にキスできる程図太くないんだ。例えばあのバケモノ共とかな!」
「す、すみません……」
ああいかん、思わずあのトラウマを思い出してしまった。そしてまたネラがネガティブってる。――――ど、どうしよう。
「…………主様」
「うん?」
殆ど消え入るような声で俺を呼ぶネラの、その大きな紅い瞳からは今にも涙が溢れてしまいそうだった。恐怖と微かな期待を両目に宿して、俺の服を握る力が俄かに強張っていく。
「主様は本当に……私を……。――…………好いてくださるのですか?」
「ああ」
「本当は、騙そうとしたりしていませんか?」
「しないしない」
「……ずっとお傍に置いていただけますか?」
「むしろこっちからお願いしたい」
「…………ネラを」
「うん」
「――愛して、くださいますか?」
「もちろん」
俺がそう答えると、ネラはぽろぽろと大粒の涙を零して泣き始めてしまった。
――
竜の涙:竜人族が誠に感情を揺り動かされ流した涙が、宝石となって残ったもの。
高純度の魔力の結晶であり、滅多に世に出回らない貴重品。
魔法の触媒、武器・防具への加護、装飾品と、どれをとっても稀有な効果を発揮する。
あまりに希少である為か、手にした者への逸話や伝説が絶えることがない。
一説に依れば、所有者に”永遠”を約束するという。
――
あ、あるぇ?
全然エロくない……それどころかシリアル……。
どういうことなの……どうしてこうなった♪ どうしてこうなった♪
つ、次はちゃんとエロくなるから! ほんとほんと! 多分! きっと!
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