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第五部 『帝国』編
510 「目覚め(1)」
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「魔力が足りるでしょうか?」
「今の感覚からだと、大丈夫と思うよ。今の魔法も予想してたよりかなり少なかったし、1回限りなら第四列でも十分足りると思う」
オレの言葉に玲奈が思いの外強い言葉で返してくれた。
そう、玲奈の体内にある魔力の事を一番分かっているのは、当事者である玲奈自身だ。
「と、魔力担当からお墨付きももらった、行くぞ。5つ数えたら補助を開始してくれ」
「「はい」」
返事を聞くやタカシさんは、徐(おもむろ)に「5、4、3、2、1」とカウントを始める。
そしてさっきの感覚が今度はこの場の全員に伸びていって、少し遅れて玲奈の体から大量の魔力が3人に流れて行く。
そして今度は、大きな魔法陣がハルカさんの上に浮かび上がり始め、シズさん、トモエさんの周りにもタカシさんより小さい魔法陣が形成されていく。
魔法の前に常磐姉妹が部屋のカーテンを閉めていたけれど、外から見れば昼間でもかなりの明かりが漏れているだろう。
外の方は、主治医の人が話しがあるとお母さんをこの場から離れさせてる筈なので、静かなものだ。
そうして見ているだけのオレの前で、向こうではそれなりに見慣れた感じの光景が展開される。
ハルカさんが治癒魔法の対象になるのは久しぶりで、彼女の体が活性化した魔力で淡く輝いていた。
長く伸びた髪の一部も、魔力の影響で少し浮かび上がっている。
魔法を構築している3人は、3人とも冷静な表情だ。魔法を構築していると言うより、本当に手術でもしている雰囲気がある。
これが物語なら、何か緊急事態が起きるあたりだ。
異世界で神々の塔が魔物の総攻撃を受けてサポートできなくなるとか、玲奈の魔力が足りなくなるとか。この場に突然悪魔が現れる場合もあるだろう。
けど現実には、魔法は順調に淡々と構築が進んだ。
そしてかなり長い時間の魔法の構築が終わり、魔法の発動も無事成功。
ハルカさんの体を包み込んだ、活性化した魔力の輝きは一度頂点に達すると徐々に収まっていく。
そして魔力は霧散し、処置は完了した。
そして彼女だけど、見るからに顔色が良くなった。
こうして見ると、魔法を使う前は確かに病人顔だったけど、今は向こうで見るハルカさんそのものだ。心なしか、頬のこけ具合も無くなっている。
そしてピクリと瞼(まぶた)が動く。
慌てるように彼女の枕元へと移動するけど、さっきまでその場にいたタカシさんは機械のモニター前に移動して、脳波やバイタルの状況などを確認している。
けど、場所を譲ってくれたのは間違い無いだろう。
あとでお礼を言わないといけない。
などと一瞬思っていると、彼女の瞼がゆっくりと開いていく。
けど眩しいのだろう、しばらく薄目の状態で天井だけを見ている。焦点も合っていない。
もしかしたら、飛行船の船長室と勘違いしているかもしれない。
「おはよう、ハルカさん」
「っ、ァ、ァ、ガ」
声がうまく出ないらしい。それに首や手を動かそうとしているけど、こちらもうまくいっていない。
首を回すことも難しいようだ。
魔法で癒そうが、1年半も寝たきりなので、お母さんやトレーナーがリハビリをしていても動かないのは当然だろう。
だからオレの方から、顔を彼女の顔の上へと持っていく。
「ここがどこか分かる? 分かるなら目で合図して」
そう言うと両目を一度またばきする。
けどその表情は、信じられないとばかりに強張っている。
だから強く彼女に頷く。
そうすると彼女も、ごく小さく頷き返し、そして目が潤み目尻から涙が溢れていく。
涙はしばらく止まらず、少し苦しそうに嗚咽も漏らし始めたので、誰かが操作して少しだけベッドの半分を起こす。
そして30度ほどベッドの半分が起き上がると、彼女の前には玲奈、シズさん、トモエさんがいた。
タカシさんは相変わらず機械のモニター前だけど、そこだとちょうどハルカさんの正面の視界から外れるので、意図してその場にいるのだ。
今回なくてはならない人だったけど、こういう場で黒子に徹するのはお医者さんらしい。
「あ、あの、初めまして、の方がいいかな?」
「おはよう、ハルカ」
「気分はどう?」
3人が短く言葉をかけると、涙も嗚咽も止んでいたけど、まだ声が出ないのか小さく頷く。
そうして視線をオレに向け、そして視線の動きでなんとなく察せたので、耳を彼女の口元へと持っていく。
「ぁ、あ、りが、う。みんなとは、あとで。おかあ、さん、よんで」
まだすごいかすれ声で声量も小さいけど、確かに彼女の意思のこもった声を聞くことが出来た。
だから耳を話して強く頷き返す。
「ありがとう。みんなとはあとで。だってさ。それとお母さんを」
「そうだな。まずは肉親が先だ」
そう言ってタカシさんが扉へと向かう。
そして部屋を出ると何か話し始める。スマホだから、さっきの主治医の人だろう。
その間オレ達は待つ状態だけど、彼女が何かをしようとしていたのを察したので、動かそうとしていた右手を布団から出して手に取る。
そうするとすごく軽くだけど、オレの手を握り返してきた。
まだ病人の手ではあるけど、温もりを感じる手だ。
そしてその手を、オレも軽く握り返す。
そうすると今まで今少し実感が持てなかった、彼女が、ハルカさんが意識不明から回復したのだという事に現実感が湧いてくる。
そしてそう思っていると、彼女の唇の端が少し上を向く。まだぎこちないけど、笑みを浮かべたのだ。
きっと嬉しいのだろうと思ったけど、小さく彼女の口も動いたのでオレの事を笑ったんだと理解できた。
彼女が「なみだ」と言った通り、無意識にオレも涙を流していたらしい。
しかも、後で聞いたらハルカさんが目覚めた時から、ずっと。
それはともかく、泣いたのなんて小学校低学年以来だ。
少し照れくさくなって、慌てて手を握っていない方の手でゴシゴシと拭う。
それでも涙は止まらなかった。
そうすると、さらに彼女の笑みが深くなった。
多分だけど、他の人たちにも笑われているんだろう。
けどこればかりは仕方ない。
もし病院じゃなければ、彼女がこんな状態じゃなければ、歓喜を爆発させていただろうから。
けど、我慢できない人もいた。
遠くから病院の廊下を走る音。どこか聞き覚えのある足取りなのは、やはり親子だからだろう。
そして扉を荒々しく開けて一番、「遥っ!」と絶叫。
扉を開ける前に彼女の前から離れていたので、そのままハルカさんのお母さんが、さっきまでオレの居た場所に飛び込んで、ハルカさんを抱きしめる。
(そういや、抱きしめたりしてなかったなあ)
親子の事実上の再会を眺めつつ、ぼんやりと思ったのはどちらかと言うとエロい事だった。
けどその後は、ハルカさんは大変だ。
主治医の人も大慌て。タカシさん曰く「まあ、数日は検査責めだろう」との事だ。
何しろ1年半も意識不明だから脳のCTスキャンは確定だ。それどころか、全身スキャンコースだろうとの事。
しかもハルカさんの場合、1年半も意識不明とは思えないほど体が健康体になっている。
これもタカシさん曰く「向こうと同じなら、三日もあれば健常者と同じくらいになる」そうだ。
当然だけど現代医療の視点から見れば、奇跡も良いところという事になってしまう。
下手をすれば、報道が聞きつけて押しかける可能性もゼロじゃないくらいの奇跡と言える状態だそうだ。
そしてタカシさんは、オレに裏に個人アドレスと電話番号を書いた名刺をくれると、出会った時のようにフッと去って行った。
「今の感覚からだと、大丈夫と思うよ。今の魔法も予想してたよりかなり少なかったし、1回限りなら第四列でも十分足りると思う」
オレの言葉に玲奈が思いの外強い言葉で返してくれた。
そう、玲奈の体内にある魔力の事を一番分かっているのは、当事者である玲奈自身だ。
「と、魔力担当からお墨付きももらった、行くぞ。5つ数えたら補助を開始してくれ」
「「はい」」
返事を聞くやタカシさんは、徐(おもむろ)に「5、4、3、2、1」とカウントを始める。
そしてさっきの感覚が今度はこの場の全員に伸びていって、少し遅れて玲奈の体から大量の魔力が3人に流れて行く。
そして今度は、大きな魔法陣がハルカさんの上に浮かび上がり始め、シズさん、トモエさんの周りにもタカシさんより小さい魔法陣が形成されていく。
魔法の前に常磐姉妹が部屋のカーテンを閉めていたけれど、外から見れば昼間でもかなりの明かりが漏れているだろう。
外の方は、主治医の人が話しがあるとお母さんをこの場から離れさせてる筈なので、静かなものだ。
そうして見ているだけのオレの前で、向こうではそれなりに見慣れた感じの光景が展開される。
ハルカさんが治癒魔法の対象になるのは久しぶりで、彼女の体が活性化した魔力で淡く輝いていた。
長く伸びた髪の一部も、魔力の影響で少し浮かび上がっている。
魔法を構築している3人は、3人とも冷静な表情だ。魔法を構築していると言うより、本当に手術でもしている雰囲気がある。
これが物語なら、何か緊急事態が起きるあたりだ。
異世界で神々の塔が魔物の総攻撃を受けてサポートできなくなるとか、玲奈の魔力が足りなくなるとか。この場に突然悪魔が現れる場合もあるだろう。
けど現実には、魔法は順調に淡々と構築が進んだ。
そしてかなり長い時間の魔法の構築が終わり、魔法の発動も無事成功。
ハルカさんの体を包み込んだ、活性化した魔力の輝きは一度頂点に達すると徐々に収まっていく。
そして魔力は霧散し、処置は完了した。
そして彼女だけど、見るからに顔色が良くなった。
こうして見ると、魔法を使う前は確かに病人顔だったけど、今は向こうで見るハルカさんそのものだ。心なしか、頬のこけ具合も無くなっている。
そしてピクリと瞼(まぶた)が動く。
慌てるように彼女の枕元へと移動するけど、さっきまでその場にいたタカシさんは機械のモニター前に移動して、脳波やバイタルの状況などを確認している。
けど、場所を譲ってくれたのは間違い無いだろう。
あとでお礼を言わないといけない。
などと一瞬思っていると、彼女の瞼がゆっくりと開いていく。
けど眩しいのだろう、しばらく薄目の状態で天井だけを見ている。焦点も合っていない。
もしかしたら、飛行船の船長室と勘違いしているかもしれない。
「おはよう、ハルカさん」
「っ、ァ、ァ、ガ」
声がうまく出ないらしい。それに首や手を動かそうとしているけど、こちらもうまくいっていない。
首を回すことも難しいようだ。
魔法で癒そうが、1年半も寝たきりなので、お母さんやトレーナーがリハビリをしていても動かないのは当然だろう。
だからオレの方から、顔を彼女の顔の上へと持っていく。
「ここがどこか分かる? 分かるなら目で合図して」
そう言うと両目を一度またばきする。
けどその表情は、信じられないとばかりに強張っている。
だから強く彼女に頷く。
そうすると彼女も、ごく小さく頷き返し、そして目が潤み目尻から涙が溢れていく。
涙はしばらく止まらず、少し苦しそうに嗚咽も漏らし始めたので、誰かが操作して少しだけベッドの半分を起こす。
そして30度ほどベッドの半分が起き上がると、彼女の前には玲奈、シズさん、トモエさんがいた。
タカシさんは相変わらず機械のモニター前だけど、そこだとちょうどハルカさんの正面の視界から外れるので、意図してその場にいるのだ。
今回なくてはならない人だったけど、こういう場で黒子に徹するのはお医者さんらしい。
「あ、あの、初めまして、の方がいいかな?」
「おはよう、ハルカ」
「気分はどう?」
3人が短く言葉をかけると、涙も嗚咽も止んでいたけど、まだ声が出ないのか小さく頷く。
そうして視線をオレに向け、そして視線の動きでなんとなく察せたので、耳を彼女の口元へと持っていく。
「ぁ、あ、りが、う。みんなとは、あとで。おかあ、さん、よんで」
まだすごいかすれ声で声量も小さいけど、確かに彼女の意思のこもった声を聞くことが出来た。
だから耳を話して強く頷き返す。
「ありがとう。みんなとはあとで。だってさ。それとお母さんを」
「そうだな。まずは肉親が先だ」
そう言ってタカシさんが扉へと向かう。
そして部屋を出ると何か話し始める。スマホだから、さっきの主治医の人だろう。
その間オレ達は待つ状態だけど、彼女が何かをしようとしていたのを察したので、動かそうとしていた右手を布団から出して手に取る。
そうするとすごく軽くだけど、オレの手を握り返してきた。
まだ病人の手ではあるけど、温もりを感じる手だ。
そしてその手を、オレも軽く握り返す。
そうすると今まで今少し実感が持てなかった、彼女が、ハルカさんが意識不明から回復したのだという事に現実感が湧いてくる。
そしてそう思っていると、彼女の唇の端が少し上を向く。まだぎこちないけど、笑みを浮かべたのだ。
きっと嬉しいのだろうと思ったけど、小さく彼女の口も動いたのでオレの事を笑ったんだと理解できた。
彼女が「なみだ」と言った通り、無意識にオレも涙を流していたらしい。
しかも、後で聞いたらハルカさんが目覚めた時から、ずっと。
それはともかく、泣いたのなんて小学校低学年以来だ。
少し照れくさくなって、慌てて手を握っていない方の手でゴシゴシと拭う。
それでも涙は止まらなかった。
そうすると、さらに彼女の笑みが深くなった。
多分だけど、他の人たちにも笑われているんだろう。
けどこればかりは仕方ない。
もし病院じゃなければ、彼女がこんな状態じゃなければ、歓喜を爆発させていただろうから。
けど、我慢できない人もいた。
遠くから病院の廊下を走る音。どこか聞き覚えのある足取りなのは、やはり親子だからだろう。
そして扉を荒々しく開けて一番、「遥っ!」と絶叫。
扉を開ける前に彼女の前から離れていたので、そのままハルカさんのお母さんが、さっきまでオレの居た場所に飛び込んで、ハルカさんを抱きしめる。
(そういや、抱きしめたりしてなかったなあ)
親子の事実上の再会を眺めつつ、ぼんやりと思ったのはどちらかと言うとエロい事だった。
けどその後は、ハルカさんは大変だ。
主治医の人も大慌て。タカシさん曰く「まあ、数日は検査責めだろう」との事だ。
何しろ1年半も意識不明だから脳のCTスキャンは確定だ。それどころか、全身スキャンコースだろうとの事。
しかもハルカさんの場合、1年半も意識不明とは思えないほど体が健康体になっている。
これもタカシさん曰く「向こうと同じなら、三日もあれば健常者と同じくらいになる」そうだ。
当然だけど現代医療の視点から見れば、奇跡も良いところという事になってしまう。
下手をすれば、報道が聞きつけて押しかける可能性もゼロじゃないくらいの奇跡と言える状態だそうだ。
そしてタカシさんは、オレに裏に個人アドレスと電話番号を書いた名刺をくれると、出会った時のようにフッと去って行った。
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